地国
「…ん…ここ、は、」
確か、私は…。
ほんの少し前に、手術のやりようも、薬での治療もできないような、どうしても助けようのない病気にかかっていたことが判明して。そして、今日が山場だと言われ、両親や仕事先の人間などが、ありがたいことに、私の無事を祈り、切に願い、病室に見舞ってくれていた。
―けれど、私自身分かっていた。今日で終わりだと。
もう、死ぬのだと。
最後の記憶は、さめざめと泣きながら、声をかけてきた両親の姿。もう何を言っていたかは覚えていないけれど。そもそも、聞こえてすらいなかったのだけれど。それと、私の中で動く、動いていた心臓の音。少しずつ、少しずつ、小さく、弱くなっていく、私の音。
―そのまま、そうやって、限界を迎えた私は、静かに、意識を手放した。
「それから…」
ここは、どこだろう…?
まだ、私は死んでいないのだろうか。誰かに引き留められているのだろうか。
私は嫌だと言ったのに。私の才能を買った、嫌な大人たちが。
―自分で言うのもあれなのだが。私は、字書きをしていた。自分の経験談をもとにした、エッセイや、日々をつらつらと書いた日記もどき。それらは、業界でも偉業と言われるほどの人気を博した。その後にかいた、他ジャンルの作品たちも、私の「名前」というブランドの為に、飛ぶように売れた。
「……」
と、まぁ、余計な思考は打ち止めにしよう。
ふーと周囲を見渡す。頭上には眩しいほどの、青空が広がっている。所々ひかっているのは、星…だろうか。青空だというのに、太陽らしきものは見えないが…代わりにとでもいうように、青白い月が浮かんでいた。朝なのか、夜なのか昼なのか、よくわからない空模様をしている。それはとても異様で異形で、恐怖すら覚えた。
「……」
そして、足がついている地面は、ツルリとした、真っ白な地面。ひび一つなく、ピカピカに磨かれている。大理石のような、美しい地面だった。
―ついでに、気づいた事。どうやら私は、裸足で立っていて、ひらひらとした、ワンピースのようなものを着ていた。ちょっと気になり足を動かしてみると、見た目に反してざらざらとした感触が返ってきた。継ぎ目すらなさそうなのに、想像と違うモノが返ってきたで、少し驚く。
「……」
しかし、どうしたものかと、立ち止まっていても何かが起こる気配がしない。
んー。とりあえず、歩いてみることにしよう。遠くの方に、大きな建物があるみたいだし、そこに着けば何かわかるかもしれない。
「……、」
裸足で歩いているため、足裏に地面の感触がダイレクトに返ってくる。んー見た目と違いすぎて少し困惑してしまう。
そうして、不思議な感覚に襲われながらも、進んでいく。少しずつ、建物の正体がはっきりとしてきた。
「あ、鳥居…」
大きな、とっても立派な鳥居だった。人の何倍もありそうな大きさである。ツルリとしていて、立てたばかりなのではないかと思うぐらいに、美しい立ち振る舞いをしていた。
「んん…?じごく…?」
グイーと視線を上にあげ、その中心辺りにあった看板らしきものに書いてあった。『地獄』の文字。
―地獄って、もっとひどい場所だと思っていたのだけれど―思ったのもつかの間、鳥居の奥に答えがあった。
「……、、」
赤黒い空に雲が立ち込め、炎がゆらゆらと燃えている。その地面はひどくひび割れており、今にも崩れそうな程。所々、地面が凹んでおり、何かでつぶしたーそう思われるような跡が多々あった。
「……、」
あぁ、私は地獄行きだったのか。先までの道は、地獄に行くまでの休息地とてもいうのだろうか。
やはり年若く…とはあまり言いたくないが、親を残して先に子が死ぬというのは、よろしくなかったのだろう。それならば、仕方はあるまい。まぁ、天国に行きたいとも、地獄に行きたくないとも思っていなかったので、たいして気にすることでもない。
「……」
しかし、それでも、どうしたものかと立ちすくむ。
怖くないわけではないのだ。だって、先程から絶えることなく悲鳴が聞こえる。それに混じって、大きな、何かをつぶすような、叩くような音。そして、どこまでも燃え続けている炎。
「そこのあんた!!」
「へ!?」
立ちすくんでしまっていた私に、突然声がかかった。
何かと思えば、鳥居の中からの声。よく見れば、絵にかいたような鬼の姿をしたものが立っていた。赤い肌に、頭の上の一本の角。身長は、ほんの少し低め。
「そんなところに、突っ立ってるんじゃないよ!!」
「へ!?、あ、ああ、すみません…」
思わず謝る。しかし、そうは言われても、どうしたらいいのか分かりはしない。自分でも驚くほどに動揺している。
「あ、君、」
謝ったものの、どうしたものかと困っていると、鳥居の中から、別の声。目を向けると、同じ鬼の形をしていたが、細部が違う。肌が青く、角は二本。身長は、先程のより低い。それは、ゆっくりと歩きながら、こちらへと向かってくる。
「ぇ…???」
何が起こっているのか、全く理解ができないままに、二人目に声をかけてきた鬼がこちらに到着する。そして、第一声
「すまないねぇ。君は、こちらの勘違いで、こっちに来てしまったみたいでなぁ、」
「ああ、どうりで、あっちの格好してるわけだ、」
ん。何やら彼らの中では納得がいく何かが起こっているようだが。私は何も分からない。分からぬままに、茫然と彼らを見ていると、
「君はあっちだ、」
「―――?」
ふーと指がさされたのは、歩いてきた道の方。つまりは私の後方。動く指に連れられて、視線を動かすと、そこには一筋の光。それは、痛いほどに強く光っていて、目を、開けていられなかった。
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「ん……」
閉じていた目を開くと、頭上には赤黒い空。どんよりと立ち込める雲。先ほどまでいた、地獄の鳥居の先のような景色。地面はひび割れ、砂地のような見た目をしていた。―ただし、炎は見えない。
「…?」
しかし、踏めばツルリとした感触が返ってくる。なんともまぁ、不思議な感覚だと思いながら、先程と同様、遠くに見える影に向かって歩く。
「……」
同じような鳥居が見えてきた。けれど、それはやけにボロボロで。大きさこそ、さっき見たものと同じぐらいではあったが、所々がひび割れ、今にも崩れそうだった。
「うわ……」
しかし、その先は全く別の世界が広がっていた。
商店街、ショッピングモール、そんな感じのものだろうか。たくさんの店が立ち並ぶ。書店に飲食店、呉服屋(ここだけやけに古い)。現実感がいっぱいで、けれどどこか現実味がなくて、気味が悪かった。衝撃と同様で、何もできず、またもそこに立ちすくむことしかできなかった。
「あれ…あなたは…?」
そこに声がかかった。さっきとは打って変わって、柔らかな、優しい声。(ちなみにさっき聞いた鬼の声は、ガラガラの怒鳴りつけるような、ひっくい声。)
「あの、有名な、作家さんよね…?」
「いや、あの、え、っと、、、」
こんなところまで私の名前が知られているのか。嫌なことだ。
「まぁ~うれしいわ~!ずっと読みたかったのよぉ~」
そう言いながら、腕をつかまれる。そのまま、つられるがまま、私は引きずられていく。
さぁさぁ、と連れてこられたのは、小さな小部屋だった。
その中に、机と、ペンと、紙。
「必要なものはあるから、」
―ほかにあれば言ってちょうだいね。
そう言って、またどこかへと居なくなった。
はぁ、ここでもまた、書けというのか。
―これなら地獄の方がよかった。
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