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本編3.アリエルの天使

わたくしの世界に天使が舞い降りた。


天使の名前はテオドア・マーレイ、マーレイ伯爵の次男。

その日のことはいつでも思い出せるほど心に焼き付いている。


それは、わたくしアリエル・オルグレンが7歳になったある日のことだ。

父の友人が息子さんを連れてくることになった。体が弱く公爵領で静養することになった。

2歳下だから弟のように大切にしよう。使用人の子供達とは仲がよいがそこには超えられない身分差がある。 父の友人の子なら対等な友達になれる、期待に胸を躍らせていたら天使が現れた。


ふわふわの金髪がお日様にあたって神々しく輝いている。

こぼれ落ちそうなアイスグリーンの瞳は潤んでいて抱きしめたくなる。

小ぶりの鼻も口も可愛くて、桃色の丸い頬はもちもちしていて食べたくなるほどだ……と思った自分が変態ではないことを願う。


 人見知りのようで伯爵の後ろに隠れて伯爵のジャケットの裾を小さな手で握る姿もいじらしい。

 涙目で「ちちうえ……」って、悶絶しそう。


 息をするのを忘れそうなほど可愛い。

 横にいる母を見れば鼻を押さえて天を仰いでいる。親子で新しい扉を開いた瞬間だった。

 わたくしの人生の指針を決めた日である。(生涯テオを守る)


 まずは人見知りのテオドアと仲良くなるために愛称を呼び合う事にした。

 アリエルはテオとテオはアリーと呼ぶ。

 テオはおっとりした性格のまま行動もおっとりしていてその姿も癒される。


 病弱なせいか、他の5歳児よりあきらかに体が小さい。

 食事に運動そして馬の世話もするようになった。アレルギーが抑えられてすっかり元気になった。

 テオは動物に好かれやすく馬たちもテオに優しい。少しの練習であっという間にポニーに乗れるようになった。


 知らない土地に家族と離れて暮らしているからだろうか。

 時折、今にも泣きだしそうな顔をする。そしたらわたくしはテオの手をぎゅっと握る。

 そうすると口がふにゃっとなって笑顔になる。


 仔馬が生まれる時は二人でその瞬間に立ち会い感動して抱き合った。

 老衰や病気で弱っていく馬には二人で話しかけて穏やかに過ごせるよう世話をした。

 看取った時、テオは号泣した。わたくしはお姉さんだから一緒に泣いちゃダメなのだ。テオの背中をポンポンして慰めた。部屋に一人になって枕に顔を押し付けて声が出ないように泣いた。その夜は、お父様が慰めに来てくれた。

 ある日テオに気づかれて謝られた。早く強くなるよう頑張るから待ってて。

 嬉しいけどテオは泣き顔が可愛いんだからそのままで居てほしい。


 その日からテオはさらに体を鍛え始めた。わたくしも一緒に鍛えることにした。

 もちろん筋肉を付けてテオをお姫様だっこするためだ!


 13歳になった。王都の学園に通うために公爵領を離れる。

 テオと離れるのは論外なのでお父様に交渉しようと意気込んで執務室に乗り込む。


「王都へはみんなで行くから大丈夫だ」


「えっ?領地は大丈夫なの?」


「この日の為に、代行できる人間を育てておいたから心配ない」


 さすがお父様。


「それとアリーとテオ、二人は正式に婚約したから」


 いつのまに?! でも嬉しい。お父様大好きです。


 心配事が無くなって浮かれていたが最近のテオは塞ぎ込んでる。どうしたんだろう。


 出発の日に、見送り側の執事の横に涙目で立つのを見て、一緒に行くことを誰も伝えていなかった事に気づいた。うっかりしてた、ごめんね。両親は目を泳がせていた。わたくしはテオの手を握り馬車に乗り込んだ。


 無事、王都の公爵邸到着。

 しばらく経つと何故か、母が社交に乗り出した。いつも面倒だからと最低限にしか対応しないのに。


「それが、社交界でとんでもない会があると聞いて情報収集しているのよ。なんでも【テオドア君を自分好みに育てて愛人にすることを妄想する会】ですって」


 おっ恐ろしすぎる。テオのあどけなさや儚さはそうゆう欲望を抱かせやすいらしい。

 だからってそんな会の存在は許せない!!


 わたくしとしては直ぐにでも叩き潰してほしい所だけど、その辺はお母様が何とかしてくれるそうなので任せることにした。持つべきものは権力を持つ両親である。


 お父様はテオに影の護衛を3人付けている。わたくしには1人だけど……まあ大丈夫かな。


 テオは入学すると美少年として評判になった。近づいて婚約者になりたがる令嬢は多い。テオは気づいていないけど男子にも言い寄られている、心配だ。護衛3人にテオの安全を託す。

 テオは伯爵家の次男だからそれ以上の高位貴族に言い寄られると断ることは厳しい。

 それを見越してお父様は早めにわたくしと婚約を結んだらしい。公爵家でよかった。

 伯爵様は二つ返事で了承してくれたらしい。これからは家族としてよろしくお願いします。


 穏やかに過ぎるそんな日々の中、とんでもないことが起こった。

 王家の問題児、王妹殿下がテオに目を付けたのだ。

 自分の夫になることが相応しいと宣う。


 王妹殿下は前国王陛下が退位後、ものすごく若い妾を迎えて産まれた子供である。

 年老いて生まれた娘をそれはそれは我儘放題に育てた結果、誰もが想像できる仕上がりに成長された。国王陛下も手を焼いてるそうだ。

 そして、前国王はなんと王妹をオルグレン公爵家の養女にしてテオと結婚させろと言ってるらしい。

 国王陛下は至ってまともな方なので拒否されているが余りにも酷い話である。

 お父様も、本腰を入れて対応を検討してるらしい。


 テオから相談されるまでは気づかない振りをしようと黙っていたら、なかなか相談してもらえない。なんだか意地になって言えないままでいたら、テオは随分思い悩んでしまった。


 とうとう流行りのベストセラーを集めて読み漁り始めた。

 わたくしも読んだけどノンフィクションとは思えないほどのお粗末な展開だった。

 まさかそれを参考にして実行しようとするなんてどれだけ追い詰められていたんだろう。

 あまりに一生懸命だったので、乗ってみることにしたが、断罪(?)会場の周りはお父様が手配した人達が固めているので、醜聞になることはない。

 【テオドア君を見守る会】(お母様公認です)なるもののメンバーがあちこちでフォローしてくれているらしい。

 あちらでお母様が指示を出してるのが見えるわ。


 そして断罪が始まったけどわたくしに冤罪を被せるのは嫌だったらしくて、微妙な暴露話をされただけだった。家で二人の時に話すような内容だったけど、それがテオの精一杯だと思うと愛おしい。


「とにかく、ア、アリエルとは、婚約を破棄する。この話はこれで終わりだ」


 そう言うとテオドアの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。ずっとうるうるしてたからね。


 後ろから「ほう」とか「ああ」とはご婦人方の溜息が聞こえてくる。

 低い声の「おお」とかも紛れてる!

 テオの泣き顔が見られてるのは許せないけど、この場を守ってくれた方々への報酬だと思って我慢することにした。今後は、この可愛さはわたくしだけが堪能するのよ。


 お父様とのアイコンタクトで問題なしと判断してテオと手を繋いで帰った。


 馬車の中で涙を止めようとしてしゃくり上げてる姿が、小さな子供みたいで笑ってしまった。


 泣き虫のテオ、あなたは私が守るからそのままで居てね。






 

 ****************




 帰宅後…………。



 (テオは泣き疲れて眠っています)





 アリエル「そういえばピンク髪の子にお礼をしないと」


 お母様 「彼女は街の劇団員の子を雇ったのよ。報酬は弾んでおいたから大丈夫よ」


 アリエル「あのあと王妹はどうなったの?ずっと睨んできて鬱陶しかったわ」


 お父様 「陛下に話をつけてある。私たちが会うことは2度とないだろう」


 アリエル「それなら安心して過ごせるわね。結婚式たのしみだなあ」


 お母様 「テオちゃんの花婿姿今からドキドキね。お衣装の準備は完璧だから安心して頂戴」


 アリエル「普通は花嫁衣裳に力を入れるのでは……」


 お父様 「アリーだって自分のデザインよりテオのデザインに力を入れていたじゃないか」


 アリエル「……」(テオの衣装を考えるの、楽しかったのよ)




お読みくださりありがとうございました。

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