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本編1.断罪・・・できてない(笑)

「アリエル・オルグレン公爵令嬢、あなたとの婚約を破棄する」


 煌びやかな王宮の大ホール、その中心……より少し外れた場所(周りへの迷惑を配慮した模様)で特別なライトを当ててもいないのに自家発電で金髪キラキラ輝いている美少年が、わたくしに向かって中くらいの声(大声は彼の性格上恥ずかしいのでしょうね)で宣言しましたわ。彼の立ち位置から2歩ほど離れたところにはピンク髪の美少女がおります。これはあれですわ。流行りの真実の愛を見つけた!ですわね。それにしては2人の距離が離れておりますけど。


 唐突に始まりましたね。さて、流れ的に次はわたくしのセリフの様です。

「……理由をお伺いしてもよろしいですか?」


 理由は聞かなくても分かっていますが彼がどう答えるのか興味があります。

 ちなみに彼はテオドア・マーレイ伯爵子息、伯爵家の次男でわたくしの2歳下の16歳、そして幼馴染であり婚約者でもあります。

 わたくしはアリエル・オルグレン公爵令嬢18歳、ひとりっ子なので公爵家を継ぐことが決まっています。彼は婿入りすると言うことですわね。


 テオドアはとても流行に敏感です。流行の最先端を追うのが趣味でいろいろな情報を集めることに余念がない。そしてすぐに試しているがあまりいい効果を得られてはいないようです。


 以前、足つぼマッサージがよいと評判になった時は、整体師を呼び連日施術を受け悶絶、またある時は隣国の薬草を煮出して飲むと代謝が上がり病気をしなくなると聞き、毎日のように青い汁を一気に飲み干しては嘔吐く日々(味はご想像におまかせします……)、それ以外には安眠が約束された奇跡の枕が流行ればすぐさま購入し、その結果寝違えて1週間首を傾けっぱなしです。わたくしも試しましたがその枕は固いうえに15cmの高さがあり安眠どころか不眠症になりそうで一晩使うのですら無理。もったいないので今はばあやが使っています。怠くなった足を高くして寝ると楽になると言って。無駄にせずによかったですわ。


 最近では、ノンフィクションとして大ベストセラーになった「真実の愛 ~身分を超えたその先に~」という本でしたわね。取り寄せて熱心に熟読しているお姿を何度か見かけました。

 似たような本を何冊も集めていたのでわたくしも読んでみましたが……これノンフィクションってあり得ないですね。彼は……影響を受けるかもと危惧をしましたが、的中しました。残念ですわ。


 内容は主人公の王子さまが学園で美少女の平民と恋に落ちる。そしてお約束の意地悪な婚約者である公爵令嬢の嫌がらせを乗り越え、劇的な断罪を繰り広げた後ハッピーエンドになるという強引かつ、よくあるお話でしたわ。捻りがなさ過ぎて10分で読み終わりました。まったく共感できないですし。誰がベストセラーにしたのか?その方がミステリーで気になりますわ。


 それにしてもピンク髪は珍しくよく見つけたものです。

 そういえばわたくしが彼女に嫌がらせをしたことになるのでしょうか。初対面なので断罪の理由には無理があります。それとも冤罪を作るのでしょうか。

 テオドアがなかなか返事をしないのでつらつらと考えていたらようやく意を決したように口を開きました。


「アリエル嬢、あなたは学年末テストでカンニ……不正をしたと言う噂がある、というかテスト中に不審な動きをしていたと証人がいるが、どうなんだ?」


 ……。


 そっちから攻めてきましたか。学年が違うのに誰から聞いたのかしら。これは要確認ですわ。


 わたくしはテオドアの目をまっすぐに見つめ自分の無実を晴らすべく堂々と答えました。


「不正などしておりません。その証拠に点数は赤点でしたもの。不正をした人間の取る点数ではございませんわ。ちょっと心配事があって落ち着きがなかったのが他の人には不審な動きに見えたのでしょう。申し訳ないことをしましたわ。もちろんそのあとに追試を受けました。そちらは合格点です。先生に確認して頂いてもかまいませんわ」


 その日は公爵邸にいる私の可愛い愛馬リリーの出産予定日だったのです。

 登校前に産気づいていて、学校を休んで付き添いたかったのですが両親に怒ら・・・説得されしぶしぶテストを受けたのです。もちろんテスト中もリリーが心配でじっとしていられず怪しい動きをしていた自覚はあります。わたくしも公爵令嬢としての矜持がありますから(?)そこは甘んじて認めましょう。ですが不正はしておりませんわ。面倒ですし不正をするなら潔く追試を受けたほうが楽ですもの。

 もちろん両親からは厳しく叱られましたが。

 余談ですがリリーも無事に出産を終え、仔馬ともどもとっても元気です。仔馬の名前はアイリスにしました。


 テオドアはムッとしながら小声で何か言っています。アリエルは追試で済んだのか……俺は1週間補習を受けたのにとかなんとか……。


「では、公爵邸での跡継ぎ教育を体調不良で休んだのは仮病だったと聞いたがそれはどうなんだ」


「仮病ではありませんわ。胸が苦しくて本当に体調が悪かったのです」


「だが、私が見舞いに行ったらアリエルは不在だった。どこに行っていた?」


 テオドアは嘘をつくことは許さないとばかりにわたくしを睨んでいます。


 あら~、お見舞いに来てくれていたなんて報告あったかしら。わたくしの背中に汗が流れます。

 まずいですわ。体調不良は本当なのですが、あの日は待ちに待った競馬の日だったのです。

 わたくしの大好きな一押の黒毛のお馬さんアルフ(アルフの時代が絶対くると思います)の一点買いでお父様に結果を託しのですが、朝から頭がそのことでいっぱいで勉強が手に着かず心臓がどきどきしてどうにかなりそうだったので、結局勉強は中止にして競馬場に向かったのです。(そのときは全快です)アルフのしなやかに走るその姿をこの目で見なくては末代までの後悔になりますからね。結果はもちろん1等!雄姿を目に焼き付けた上に臨時収入も入ってホクホクですわ……とは言えそうもない。


 これは言い逃れが出来そうもないです。思わず目を泳がせ小さな声でお馬さんがアルフがと呟いたら、テオドアは、はっと目を見開き何かを察したのかそっと目を閉じて黙ってしまいました。僕だって見たかったのにとかなんとか……。


 ……ごめんなさい、誘えばよかったですわね。


 会場も静まり返って……なんてこともなくザワザワしています。ほぼ注目されていませんからね。と言うか誰も気にしていない様です。

 どれ程の時間が経ったのか(2~3分かな長いぞテオドア)そっと目を開いたテオドアの瞳はうるうるしていました。


「とにかく、ア、アリエルとは、婚約を破棄する。この話はこれで終わりだ」


 そう言うとテオドアの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちました。

 強引に終わらせましたわ!! それより泣き顔が……可愛すぎます。胸がきゅんってなります。もうこれは早く持って帰らなければ。


 王族席をちらりと見れば王妹がわたくしを睨んでるようですわ。痛くも痒くもありませんが。


 少し離れたところでわたくしたちを見守っていたお父様が苦笑いをして頷いています。

 たいして聞いている人もいないですし、あとはお父様がうまくごまかして下さるでしょう。

 お父様にアイコンタクトで帰宅することを告げるとテオドアの手をそっと握りました。

 あら、手汗びっしょりですわ。相当緊張していたようです。


「テオ、断罪劇は終わりね。では、一緒に帰りましょう」


 テオドアは怯えたように手を離そうとしたけど、わたくしは離しませんわ!


 微妙に離れているピンク髪の少女を見れば、わたくしにニッコリした後ペコリと頭を下げてどこかに行かれました。

 テオドアは断罪風にしたくて彼女にいてもらったようですが特に役目はなかったようですし、いつまでも付き合わせるのは申し訳ないですね。後でお詫びの品を贈らなくては。


 テオドアを見れば、我慢できなくなったようで、両目から涙が溢れ出しています。

 泣き顔もキラキラしてるなんて可愛すぎて困ります。そろそろ鼻水が出そうだからハンカチを出さなくてはいけないですわ。


 テオドアは自惚れではなくわたくしが大好きですわ。婚約破棄なんて絶対したくないほど。嘘でもその言葉を言いたくないほど。その言葉を告げただけで涙が溢れてしまうほど。

 その涙を見て幸せを感じてしまうわたくしは悪い女かしら。



 ふふふ。思わず笑ってしまったらテオドアが目を丸くしてわたくしを見ています。

 その目は怒ってないの?って聞いています。

 もちろん怒っていないですわ。テオドアのこと大好きよって気持ちを込めて手をぎゅって握りました。

 隣から小さな声が聞こえました。「ごめんアリエル、大好きだよ」

 あ~~わたくしの天使はいつでも可愛いです。


 そしてふたり公爵邸に帰るために手をつないだまま馬車に向かったのだった。



お読みくださりありがとうございました。

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