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翌日の朝、彼は来た。あの丘に変わらない姿で。天気は有難い事に晴天であり、枯れ木の枝では小鳥たちが求愛の声を歌に混ぜている
「で、何をする気なんだ?」
「残酷な事さ」
私はそう言って詠唱を口にした
"アグノス ラフェチ アロングライト 花よ
咲くがいい この地いっぱいに "
杖を静かに地面へ置く
すると、丘いっぱいに色とりどりの花が咲き始めた。いや、丘だけでは無いそれは歩いて来た道にも枯れ木までも咲き始めたのだ
気付けば私たちの立っている場所は極彩色の
花畑と化していた
「な、なんだよこれ……お前何を……」
しばらく彼は戸惑っ顔をして呆然としてたが
次第にその顔からは大粒の涙が溢れてきた
「なんて……きれい……ああ……っ」
慟哭だった。跪いて彼はひたすら地面の花を
荒らし始めた
「どうだ?それを見ても未練なんか無いと言えるか?」
「うっ……うおぁっああっ!!!」
そして、俺の胸ぐらを掴んで叫んだ
「じゃあっ……どうすれば良かったんだよ!!数時間後に死ぬんだぞ俺は!!!今さら死ぬのが怖いなんて思ったって!思ったって………」
「せめてアイツらに……ハミエルとミカに……見せ……て……」
彼は胸元から小さなペンダントを取り出し、
両手で強く握った。
「だから言っただろ?残酷な事だって」
私は彼の胸ぐらを掴んで更に言った
「死を選んだ以上あなたが出来るのは未練たらしく最後まで泣きながら死んでいくかもしくは俺に何かを託して死んでいくかだけだ」
「ま、出来ることなんて限られてるけどな」
ぱっと掴んでた胸ぐらを離す
「だったらこれを渡してくれ……」
彼は手を伸ばした。その手にはさっきのブローチが握られていた
「あんた……旅をしてるんだろ?だったらいつかアイツらに……ハミエルとミカに会ったら……渡してくれっ!お願いだ!!」
私は震える手をそっと握り、ブローチを受け取った。その腕には幾つもの痣が目につく
「それから俺の遺体は……あんたが葬ってくれ……なるべく綺麗なやり方で……」
「ああ、約束するよ」
私は出来る限りの優しい微笑みを彼に見せた。すると、彼は何かを救った様にその場へ倒れ込んでしまった
「おいおい、そりゃ不味いよ。だって来る頃だぜ」
ブローチを胸元にしまい、私は彼とすれ違いながら歩いて来た道へ歩いた
その時、足音が聞こえた
「うお、ここもすげぇや。どうなってんだい」
「全くだ……少し休んでいくか」
どうやら二人組の様だった。格好はかなり
軽く、戦士等では無いらしい
「って……あ!」
すぐさま1人は倒れてるバウエルに気づき、駆け寄った。その目は報酬など求めぬ純粋な輝きを放っていた
「おいっ……おい!大丈夫か?しっかりしろ!」
「う……むぅ……」
彼は真剣そのものだった。脈を確認し、瞳を見、心音を確認する
「健康状態に問題無し……まず一安心か」
「慌てすぎだってノーマン、それでどうしたいの?」
もう一人もゆっくりと彼の元へ来た。少し遅れて私もバウエルの傍に移動する
「ソイツは大丈夫だ、寝てるだけだよ」
私は二人に言った
「何だと……?!なぜそんな事が分かる!」
「さあね?死神に聞いたからかな?」
けらけらと私が笑うと、すぐさまノーマンという名前らしい青年は私の顔を殴った
「お前何をした……何をしたんだ!」
「ノーマン止めて!!」
「うるせぇよ!こんな状態の男に変な事を言ってく男が何もしてない理由が無いだろうが!」
更に殴る
「その男……問題ないと分かったらヒースラウンジという宿の1263号室に寝かせてやってくれ……死んだ様にぐっすり……眠るはずさ」
私は立ち上がって、その場から去る事にした
「おい……ちょっと!あんた!待て!」
「ノーマン!!」
と、思ったが杖を回収するのを忘れてた。
仕方ない、身体を低くして
「えっ……!?」
全力で走って杖を回収したら元の場所に戻る。これで完了だ。ああしかし
道にまで花を咲かせたのは失敗したな……
歩む者に罪悪感を与えてしまう
そう思いつつ、花を優しく踏むように私は丘を下った




