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翌日、彼は街を案内してくれた。教会に学校に売春宿まであらゆるところを歩いた。
どこも不思議なぐらい絶望感は無く、そこそこに希望を信じる人間ばかりだった。
それからしばらくして、私たちは小さな丘へと辿り着いた。そこには幾つもの墓標が立てられており、どれもお供え物が無いのだ
「14年前に妻と息子は世界の何処へ旅立って
さ」
切り株に座るとゆっくりと話し出した
「それからずっと俺は独りだ、母も父もみんな死んじまってるしな。そして、病気が発覚したのは5年前のことだ、発覚してから俺はすぐに寝たまま動けなくなった」
「動けなくなった生活は生き地獄だった。世話をしてくれる人間は影で死を望んでいたし、俺も日に日に進んでく病状に死を望んでいた。そんなある日、枕元に奴が来たのさ、
そう死神だよ」
「ああ、俺はやっと死ねるのかと思ったさ
だが死神は言った"死ぬ覚悟があるならしばらく元気にしてあげましょうか?"と」
「それは冗談だと思ったさ、だけど死神は信じられ無いと思うが真剣な顔をしてたんだよ。だからその方法を真面目に聞いたし、
悩んだ末に俺は3年後を選択したんだ」
「それからあれほど苦しかった病気は綺麗さっぱり消えちまってみんなびっくりだ。そして、まず俺は今まで世話をしてくれた人にお礼を言って廻った」
「次に部屋の掃除をした。しばらく人任せにせざるを得なかったからな」
「最後に野山を駆け回った。少年の様に何度も何度も。鳥を脅かしたり魚を捕まえたり一日中寝ていたりしたい事はみーんなやった」
「そして今に至る……これが全てだよ」
彼は笑った、何もかも失ってしまった人間の様に。その顔に薄い橙をした光が差した。それはまるでこの辺りにある生命を分け与えてくれた様な光だった
「もう死ぬ事に後悔は無いのかい?」
私は野暮と分かりつつ、聞いた
「無いさ、この世界は優しかった。それが知れただけで万々歳だよ」
一つ、小さな小枝を私は拾った
「明日またここに来なさい。見せたい物があるんだ」
「ああ、楽しみに待ってるよ」
ひらひらと手を振りながらバウエルは丘を下って行った
「ねぇあなた何をする気なの?言っとくけど
死は変えられ無いからね。これは契約なんだから」
死神の声がした
「そんな事じゃ無いさ。まあ見てなって」
私は小枝に魔法をかけて、一輪の花に変えた
「ふんっ……変な人間。バカみたい」
「そうかもしれないねふふ」
死神は終始不満そうな顔をしていた