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とりあえず色飴遥火

ニンジン嫌いな流れ星

作者: 色飴 遥火

 ロマンチックで願いをかなえてくれるはずの流れ星がきらいなわたしは悪い子なんだと思う。

「どうして……夜空ちゃんは流れ星が好きになれないの?」

 確か、こくごの授業がおわった後に先生がそんな質問をしてきた。多分、ノートのはしっこに流れ星が好きになれないところを……書いていたからなんだろうな。

「ニンジンが好きになれないのと同じ」

「そっか。先生もニンジンが好きになれないから、それは分かっちゃうね。しょうがないなー」

 先生はそれだけを言うと……わたしの頭をなでて教室をでていってしまった。大人でもニンジンがきらいなのは驚いたけど。

「だったら好きになるように、がんばろう」

 って、他の大人だったら言いそうなことを先生は言わなかった。

 なんで? そう、わたしの頭の中にはてなマークがたくさん浮かんできたからか。教室をでていき、先生を追いかけていく。

「先生!」

「ん? おー、夜空ちゃん。廊下をはしると怒られちゃうよ」

 なんて言っている先生は楽しそうに笑っているだけで、わたしを怒ろうとしない。

「先生は怒らないの?」

「うん。面倒……じゃなかった。可愛い夜空ちゃんを怒っちゃうのは、先生のポリシーが許さないからね」

「ポリシー?」

「夜空ちゃんが、流れ星やニンジンを好きになれないのと同じ。んー、考えかたかな?」

 わたしと視線を合わせている先生が両肩をなでるように触っている。

「例えばね、先生が夜空ちゃんにニンジンを食べさせようとしたら。うーうー、ってなっちゃうでしょう」

 先生の言っていることは、まったく分からなかったけど首を縦に振っておいた。

「今の夜空ちゃんも同じだね」

 わたしのうそは先生にばれてしまったいたらしい。でも、少しだけ分かった気がする。

「すなおになる、ってこと?」

「そう。すなおになる、すっごく簡単なように思うけど……それが一番むずかしかったりするんだよね」

「それなら」

 わたしの抱えているものを聞いて、先生はちゃんと、すなおにうなずいてくれていた。

「そうだね。それも、すなおだね」

「だったら、今のことを流れ星に。もう」

「いんや……それはかなえてくれないかな。さすがの流れ星でもね」

「それじゃあ、もう」

「でもね、夜空ちゃんがすなおにそのことを言えば。どうにかなるかもしれない」

 それでも、どうにかなるかもしれない……なのか。

「選ぶのは、夜空ちゃんだよ」

 そう言って、先生はわたしの頭をなでると姿を消してしまった。本当の流れ星みたいにいなくなったから、少しだけこわかった。




 一緒に住まなくなったパパとママがたまに会う日に……わたしはカレーを美味しそうに食べていた。

 本当は色々と心配でカレーの味はまったく分からない。ニンジンはそもそも食べてあげちゃうつもりはなかったり。

 カレーを食べるふりをして、ママがパパに紙をわたしているのを見ていた。

 なんだか分からないけど、その紙はすごくいやな気がする。パパは息をはきだしてて、わたしの顔を見つめて。

「ごめんな……夜空」

 わたしの頭をなでてきている。

 胸のあたりが、ぐーってなってきた。

 たくさんの……いやだ。って、ひらがながノートに書いて練習するみたいにふえる。

 ふえてて、ふえすぎちゃって、口の中からでてきそうになってきていた。涙がでそうだけど、がまんしないと。

 でも、流れ星はきらいだ。

 それは、あとで、ちゃんと言ってやる。

 パパとママが一緒に暮らせるように願ったのに……かなえてくれなかった。

 だから、流れ星なんて。

 皿のはしっこにおいてある、星のかたちのニンジンもきらいだ。こんなの、こんなの、ぜったいに食べてなんか。

「ちゃんと言わないと、かなわないよ」

 廊下で、いきなり消えてしまった先生の声が聞こえてきた。姿は見えないのに。

 めちゃくちゃ、こわいけど。なのに。

「言っても、かなわないよ。流れ星だって、かなえてくれなかったのに」

「その願いは夜空ちゃんが言わないと、かなわないかもしれないよ」

 それでも、かもしれない……なんだ。

「でも、言わないとぜったいにかなわない。流れ星に願うようにさ、夜空ちゃんが本当のことを」

「やだ!」

 自分でも、びっくりするぐらいに。わたしは大声をだして……テーブルを叩いていた。

 パパとママも、すごく驚いている。

「よ、夜空。どうしたの? そんなに」

「パパとママは一緒が良い! 一緒じゃないと……やだ! やだやだやだ」

 心配しているママをさらにびっくりさせるように、わたしは叫んでいた。

 どうしたら良いか分からない。分からないからか、泣いて。椅子の上で跳びはねてて。

「分かったよ……夜空」

 泣きじゃくっていて、見えづらいけど……パパがママに渡された紙をやぶっている。

「そうだろう? ママ」

「そうね。色々とごめんね……夜空」

 泣いているからかもしれないけど、パパとママはどこか、なにかを諦めているような顔をしていた。




 あの先生は、そもそもいなかった。

 臨時? とかなんとか言っていて、普段の先生と違うのは分かっていたけど。

 もしかしたら、流れ星だったかもしれないと……今は思ってしまっている。

 わたしが中学生になると、やっぱりパパとママは一緒に暮らさなくなってしまった。

 でも……月に一回は会うようにしてくれている。あの時ならともかく、今のわたしは。

「もう一回、願ってみたら?」

 小学校の卒業アルバムを見ていると、あの先生の声がどこかから聞こえてきた。でも、やっぱり部屋にはわたしだけ。

「もう良いかな、パパとママにも悪いし」

「良い子ちゃんだね、夜空ちゃんは」

「あ、そうそう。先生がニンジンがきらいな理由……分かっちゃったよ」

 先生の声は、もう聞こえてこない。

 けどさ、どんなことでも口にしておくべきなんだよね……先生。

「ニンジンってさ、星のかたちになることが多いからでしょう?」

 ふふっ、正解。

 なーんて先生なら言うんだろうな、多分。

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― 新着の感想 ―
[一言] 少しビターな童話ですね。 また皆で暮らせる日が来ると良いですね。 人参も食べられるようにね!
2021/12/21 20:44 退会済み
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