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いい加減、彼女の中身を暴かなければならない2

 北条夏海は演技をしている。それは彼女の言動の裏に知り得ない何かがあることを予測した時点で、わかってはいたことだ。


 わからないのはその先だ。


 なにが彼女を突き動かしているのか、ここまで来てもさっぱり見えてこない。だからもう、自分で答えを出すのは諦めた。いい加減、答え合わせの時間があってもいい。

「とりあえず、その仮説を詳しく説明してみて?」

 北条は、打って変わって俺を不敵な微笑みで見つめながら言った。


「思えば、お前はずっとおかしかったんだ」

 なぜか俺に接してくること、俺がそれを好ましく思っていないことくらい、誰でもわかる。二人三脚だって、リレーの代役だってそうだ。俺を選ぶ以外に、もっと優れた選択はあった。

 あの時、どうして松本の告白を断った?仮に断るなら、公開告白される前に、何かしらの回避行動を取ることだってできたろうに。

 なぜあの場に俺を巻き込んだ?もっと冴えたやり方を、お前なら見つけ出せる。

「今挙げた行動は、どう考えても俺とお前はメリットよりデメリットを被る。それくらい誰の目にも明らかだ」

 そうだろう、北条。

「けれど、それは表面上の話でしかない。仮に傍から見てメリットがなかったとしても、実際行動に移っているということは、何かしら俺かお前に、他人には見えない場所にあったんじゃないのか」


 一旦言葉を切って、さっきから床に向けていた視線を上げて北条を見つめなおす。

彼女は変わらず俺を見て微笑んでいた。目が「続けて?」と言っている。相変わらずその目の奥はわからない。誰かが言っていたような、澄んだ湖には思えなかった。

 ここから先は勝手な推論だ。俺の拙い推理能力が、必死に言外の意思や行動を認識して得た、意味不明な結論だ。

 俺と北条のどちらか、または片方に存在する、俺には感知できていないメリット。

仮に俺側にあるのだとしたら、それはもうお手上げだ。わかるわけもない。それこそ、実は俺がラブコメしないと死んじゃう病を罹患していて、それを救おうとしてくれているとか、荒唐無稽なことしか思いつかない。

 同じように北条と俺に共通するメリット、というのも思いつかない。共通点がなすぎる。

 だから結局、北条にメリットがあると想定するしかない。

 北条が俺に関わって得られるメリットは、果たして何か。

 俺の家は、ごく普通のサラリーマン家庭だ。家目当てというのは流石に考えにくい。

 次いで俺の弱い心は、北条は俺に気があるのではないか、という仮説を提示する。もし本当だったら、それはそれで素敵なことだろう。


 まぁ、万に一つもない。そもそも気があるように見えてしまうのは、フィクションに侵された脳みそが勝手に色眼鏡をかけてそういう風に見るからであって、残念ながら現実ではありえない。

 この手の勘違いは論理的な反論や矛盾を見つけられないから発生する。俺は、間違いはしないようにと自分を縛っているのだから、心が思うくらいにとどめておこう。

 他に考えられるとすれば俺をからかって遊んでいる的な方向だが、それにしては回数が少ないし、これも先の仮説と同様に妄想の域を出ない。


 そして先日、カンニング疑惑を解決したときにしていた表情を思い起こす。

 となると俺が思いついたのは、もうこれしか残っていない。

「お前は、俺を試したのか?」

 試した先に何を求めていたのかも、何を試したのかもわかっていない。

 でも、これが一番論理的な説明がついて、下手な空想が入り込まない。

「悪いがこれ以上は何も出て来ない。いい加減、俺も答えが知りたいんだ。だからこうして、お前に直接聞いてる」

 北条はゆっくりと歩き始め、俺の前を横切って窓辺へ向かった。柔軟剤の香りがふわりと漂って、少し後ずさる。

 彼女は窓枠に手をかけて少しの間外を見てから、おもむろに語り出した。

「ねぇ、トージ」

 窓から差し込む斜陽が、振り向いた北条のふわりと広がる髪に乱反射する。その仕草はやはりどこか芝居がかっているけれど、それを忘れてしまうくらいに優美だ。

 ほんの少し見惚れてしまった俺に軽く笑みながら、彼女は言葉を続けた。


「世の中って、偶然に満ちていない?」

「偶然……」

「うん、偶然。あたしが生きているのも、知り合いに出会えたのも、ここに学校が建っていることも、すべてほんの少しの違いで有り得なかったことでしょう?」

「……まぁ、そうだな」

 突然始まった、的はずれに聞こえる話に俺は戸惑う。一期一会みたいな話だろうか。

 けれど、ある程度正しいことではある。もし両親が結婚していなければ。もし入試でミスをしていたら。もしここの土地が私有地なら。無限の選択肢の中から、今こうして一つの世界が成り立っているのは、かなり奇跡に近い。


「それってさ、とても気持ちの悪いことだと思わない?」

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