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残念ながら、体育祭は終わらない

 ……そんなふうに考えていた時期が、私にもありました。

 ほう。では続きがあると。

 えぇ。運動会には、続きが存在します。

 ……存在するんだよなぁ。悲しいことに。

 往々にして体育祭を題材にするラノベやマンガは、体育祭が終われば休日を挟んで普通の日常に戻る。我が校もご多分に漏れず、日曜の体育祭の翌日に代休が設けられており、火曜日から何事もなかったかのように通常授業が始まる。

 俺だってそうなる予定だった。


「……会長、これは?」

 ゆっくりと代休の朝を楽しむべく惰眠をむさぼっていた俺が、母親にたたき起こされたのは今朝の八時のことである。

 何やら今日は朝から補習があるとかで家から出された結果、今俺の目の前には解体されていくステージの姿があった。

「片付けが終わるまでが体育祭だ。見聞部(仮)には、今日の片付けに参加をお願いしたい」

 ……嘘だと言ってよジョー。悲しい気分になりながら雲一つない空を仰ぐ。それから目線をもとに戻した。片付けとか言うの終わってねえかな。


 ……ところがどっこい。夢じゃありません。現実です。これが現実……!

「俺、補習あるって親から聞いたんですが」

「まぁ、体育の補習だと思ってくれ」

「というか、どうやって会長は俺の家に電話を」

「そんなの会長権限で連絡網見れば一発だ」

「あんた最悪だ!」

 俺が吠えるのを気にも留めず、会長は元気に仕事に取り掛かり始めた。

 北条と欅田は既に来ているらしいが見当たらない。今は用事もないし別にいいか。

 本来なら絶対ボイコットしてやろうという気にもなるのだけれど、周囲で自分だけが仕事をしていないとなんだか不安な気分になってくる。これが同調圧力というやつか。

 しぶしぶといった体で、近くの解体をしていた運動部員から鉄パイプを預かる。えっちらおっちらと地下の備品倉庫へと運んでいく。


「あ、トージ。来たんだ」

 備品倉庫に行くと、北条と欅田がいた。どうやら使った備品の数を数えているらしい。

「来たかったと思うか、俺が」

「うーん……あんまりそうは見えないね」

 とまぁ、そのまま軽口を叩こうと思ったのだが、どうにも人の往来が激しすぎて、気恥ずかしい気がしてくる。一応、用件だけ言っておこう。

「あとで話したいことがあるから、時間貰えるか」

「え?あ、うん、いいよ」

「ありがとう。……それじゃ」

 言って、俺は地下倉庫を後にする。

 ステージの解体と、美術部が描いた垂れ幕の回収が終わったところでひと段落した。歓談ムードになっているので休憩ということでいいだろう。

 俺はいつかのスプリンクラーに腰かけて、一息つく。ふぅ。


 しかし、こうしてあらかた片付け終えたのを見ると祭りの後は案外寂しいものだな、という気がしてくる。ステージの固定用に置いてあった砂袋が投げ出されているのが物悲しさを際立たせていた。

「おつかれさん、昼休憩にしよう」

 時間的には、もう昼になっていたらしかった。会長がビニール袋の掲げて、こちらに近づいてくる。

「はは、そんな顔をするな。代わりに昼飯は奢りだ」

 そう言って、会長は二つほどパンを俺の方に放った。慌ててキャッチすると、チョコマフィンとあんパンだった。……ふむ、悪くない。

「まぁ、パン食い競争のあまりだがな」

 ……いや、奢りの概念。タダ飯なのでありがたくいただきますけども。

「それと、こっちは本当に俺の奢りだ」

 今度はペットボトルが渡される。受け取ると、黄色いラベルの激甘コーヒーだった。

 俺、これ結構好きなんだよな。体に悪い味がする。これの缶は割と見る反面、ペットボトルはうちの学校以外で見たことがない。そもそも、俺以外に愛飲しているのを現実で見たことがないが。


 会長は近くにあったコンクリートの階段によっこらせと腰かけて、メロンパンをもそもそと頬張っている。俺は基本的にぼっち飯のタイプだが……嘘ですごめんなさい。食べる友達がいないだけです。

「今日はすまんかったなぁ、突然呼び出して」

「……まぁ、別に大丈夫です」

「お前らと一緒に体育祭運営をしていたこの二週間、結構楽しかったんだ。だから終わっちまうのがちょっと寂しくてな。色々大変なこともあったけどさ、なんだかんだ笑って済ませられるくらいのものだっただろ」

 快活に笑いながら、会長は俺に問いかけた。その無邪気な顔を見て、思わず苦笑交じりの声が出る。憎めねぇな。

「……そうですね、割と面白かったです。自分の知らない体育祭の一面みたいなのも見れたし」

「なぁ木下くん、俺は何度も同じことを言うのはあまり好まないから、これで最後にしようと思うんだが……………………生徒会に、入らないか」

 会長は、かなり真剣な顔をして俺に問うた。

 もしかしたら、俺の手腕を買ってくれているのかもしれない。それはたいそう魅力的な提案に違いない。ともすれば、この逆張りで懐古厨の、腐りきった性根もそのうち治るのかもしれない。なんなら変わっていく自分を肯定できる可能性だってある。

 ……けれど、それでも俺はきっと生徒会にいられない。

 だって、何度も何度も自問自答してわかったように、誰かと一つになった自分を懐疑してしまうから。その一体感に酔うことができないから。

 なんとか溶け込んでみようとすることは、とても辛いことだと、この二週間で分かったから。


 俺は、思ったままの言葉を紡ぐ。

「……確かにこの二週間、とても楽しくて刺激的でした。生徒会に高校生活を投じるのもナシではないのかな、と」

 それから、ゆっくり息を吐いて、できる限りへらっとした表情で言い切った。結局のところ生徒会には非がなく、俺が悪いのだ。

「でも、かなり疲れました。俺に通年でこれをやるのは無理です」

 それに、今は若干やらないといけないことがあるかもしれないんだよな。

「……くくくくく、あははははは!」

 俺の答えを聞いた会長は途端に笑い始めた。おい、そんなに笑うことはねえだろ。

「すまん、思ったよりド直球投げてきたもんでな。少し拍子抜けしたというか」

「……まぁ、定期的に手伝ったりするのはいいですよ。その時は見聞部部長に頼んでください」

「あぁ、次の代にも申し伝えておく」

 会長は笑いながら手を差し出した。俺は、その手を強く握って振った。

「とりあえず、この体育祭は最後までみっちり働いて貰うぞ‼」

 ……でも、今回よりもめんどくさいのは嫌だなぁ。

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