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俺に体育祭運営は荷が重い3

「続いての種目は二年生女子の玉入れです。現在の得点は黒組が一位、そのすぐ後ろを紅組が追いかけています‼果たしてここで追いつくことができるのか⁉」

 体育祭はつつがなく、されど熱狂を増しながら続いてゆく。

 時折人員が足りない、時間が押している等の軽い問題が起こったものの、午前の大きな競技だった「女子騎馬戦」も順調に終わり、昼食休憩をはさんで午後の部も残りの競技は数えるほどになっている。

 時間もほぼオンタイムで進行していた。備品の出し遅れ等は多少あったものの、今は数分の遅れで済んでいる。

 俺はといえば、テントの下でのんびりと休んでいた。配布されずに余ったスポドリをぐびぐび飲みつつ、椅子に浅く腰掛けてだらけている。あー涼しい。

 ……決して怠慢ではない。勘違いするなかれ。

 というのは、この後に控えている競技が、「男子騎馬戦」と「教員リレー」、そして「クラス選抜リレー」なのである。

 この三つは運動部と教員が多数出場するのもあって、やりくりが大変だ。つまり今やっている「玉入れ」が最後の小休止というわけ。休めるうちに休むべきだ。


「それでは、二年生女子の入場です‼」

 入場曲を聞きながらグラウンドを眺めていると、ぞろぞろと女子生徒が入ってきて、四つある籠の近くにそれぞれ固まった。

 ちなみにこの放送部員たち、なかなか選曲のセンスがいい。有名な曲は歌詞付きで流すし、オフボーカルならバレないと思っているのかアップテンポなアニソンも結構流す。恐ろしく良いセンス、オレでなきゃ見逃しちゃうね。俺に社交性があったのなら、いい友達になれていたのかもしれない。

 ちら、と隣のテントにある放送席をみると楽しそうに実況をしている部員数名の姿が映った。

 会長曰く、彼らのうちの多くも、これを免罪符に競技には出ていないらしい。これも会長の言うそれぞれの楽しみ方っていうやつかな。


 グラウンドに視線を戻す。応援するあてもないので、一応自分のクラスの所属している紅組を流し目で見ていると、欅田がこちらを見ていたのが分かった。

 あくびをするふりをして、さりげなく気づかなかったふりをする。

 ……なんか互いに意識しちゃってるみたいな気になってくるな。全くそんなことはないんだけどな。そういう考えに至っちゃうのマジで気持ち悪いな。死にてぇな。

 自然に見えるように、それとなく周囲のほかの面々を見回す。北条も出ているらしかった。一木となにやら楽しげにわいきゃいとふざけている。

 他のクラスも一応見ておこう。二年生女子は全員出ているらしいから、どこかに美咲もいるはずだ。……と思ったのだが、全く見当たらない。サボりか?

 美咲を探しているうちにぱん、と空砲の乾いた音が鳴った。色とりどりの球が宙に舞う。

 それにしても、女子ってなんであらゆる感情の表現が全部「キャー‼」になるんですかね?あちこちで甲高い悲鳴が聞こえる。

 今のは流石に楽しい‼的な意だとは思う。

 でも、廊下の角でぶつかりかけて避けた後に悲鳴を上げながら友達の方に駆け寄っていくのは、恐怖か驚愕か嫌悪かわかんないのでやめて欲しい。多分全部含んでる?うるせぇな、分かってるわそれくらい。悲しい世界。


 涙目になったところで空砲が二度鳴らされた。こういう競技はそこそこ楽しいわりに時間がかからなくて良いし、点数もつけやすい。時間とその他もろもろのメリットを考えたコスパではかなり良い。

 逆に騎馬戦は時間がかかる分、玉入れなどよりしっかりと点数をつけることが出来るので悪くはない。エール交換は点数的には何の役にも立たないし時間を食うのに人気がある。なんでなんだろうな。

 実況が「さぁ白熱した試合も終了しました‼見たところ白組が優勢のようです‼」と早口でまくしたてるのを見つつ、すっと席を立つ。次は「男子騎馬戦」だ。人手が足りなくなるので、俺も審判などの補助をしなければならない。

 少し急ぎつつグラウンドの方へ歩いてゆく。玉入れは白組が勝利したようだ。二位が黒組で三位が紅組。どうやらまた差をつけられたらしい。

 基本的に、世の体育祭というものは騎馬戦とリレーの点数がでかいので、今は勝負の行方なぞわかるわけもないが。そもそも俺には関係ない。


「そろそろだけど大丈夫?」

 イヤホン越しに藤見の声が聞こえて来た。トランシーバーを口に近づけ、応答する。

「あぁ、すぐ行く。……悪いな。騎馬戦出たかっただろ」

 今回の騎馬戦で唯一にして最大の失敗はこれだ。騎馬戦をやりたいと考える生徒の大半が運動部であることを見落としたまま全学年の競技にしてしまったために、審判などの人員が想像よりも集まらなかったのだ。

 結局、戦っていない組の運動部を動員することで事足りたのだが、部活会の長である藤見は、統率のためどうしても騎馬戦に出ることができないことになってしまった。

「いやぁ、ぼくは全然。強すぎてゲームバランスぶっ壊れちゃうからね」

 藤見は笑いながら答えた。果たしてこれが謙遜なのか傲慢なのか、そして冗談なのか本心なのか、俺は見極める術を持っていない。

 それでも、少なくともクラスからの大反対を押し切って騎馬戦に出ないことを決めた、という事実だけは目の前にある。多分、そこにメリットは一つもない。


 ならば、藤見の中には打算や合理性といった考えはないのかもしれない。そしてそれは、向こうからすれば俺がうだうだ考えているペルソナだのなんだのといった理屈をすっ飛ばして、「友情」と呼べるものなのかもしれない。

 ……俺は、どうなのだろうか。

 やはり俺は、今はまだ、これが「友情」なのだ、と確信をもって言うことはできない。大体、呼べるかもしれない、なんて理由で名付けられたもの間違いに決まってる。

 頭の中では相変わらず猜疑やら打算やら、欲望とも感情ともつかないごちゃごちゃしたものが複雑に絡み合って、それ以外に何があるのかも見えてこない。

 けれど、もしかしたら、その中に、一つ一つ切り捨てていったその先に何かが残っているのなら。俺はそれを「友情」といった名前で呼んだりするのかもしれない。

 差し当たっては、とりあえず、俺なりにできる限りの誠意を見せておこう。そういったことはまだ不明瞭であったとしても、少なくとも助けてもらっている身なんだから、感謝はするべきに違いない。

「今度ラーメン奢ったるわ」

 その上で、俺が今言えることはこれくらいなんじゃないかと思う。それを察してくれたのか、藤見は若干いたずらっぽい口調で返答した。

「やた、じゃあ味玉トッピングもよろしく」

「任せとけ」

 他愛ない会話も済んだところで、入場ゲートの前に到着する。時計を見ると、既に予定時間を数分すぎていた。一戦目の紅組と黒組は既に待機していたので、会長に開始の許可を得て、入場が開始された。


 まぁ、難しい話は置いといて。少しくらいは真面目に労働しますか。

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