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俺に体育祭運営は荷が重い2

「えー、本日は天候にも恵まれてですね、ご覧ください、太陽を見れば日暈がかかっております。これは滅多にないことで吉兆の象徴でございまして、あー、このような日に体育祭が開催できることを……」

 どうにか予定時間内にラインを引き終え、各所の最終確認が終わりいよいよ開会式が始まった。俺は一応運営側、ということでそれをステージ側で見守っている。

 会長は緊張しいなのか、ロボットのような動きでステージに上がり、大人数を前に見たことがないくらい固い口調で話し始めた。方々から「真面目にやれー‼」「本体のメガネはどうしたー‼」とヤジが飛んでくる。新八かよ。

 徐々に耐え切れなくなったのか、会長は手に持っていた原稿をその場に投げ、会場全体を眺めまわす。

「あーもう‼堅苦しいのは性に合わん‼面倒なのは抜きだ‼各位怪我には気を付けて最大限楽しむように‼以上‼これより、体育祭を開会する‼」

 会長が高らかに宣言した瞬間、歓喜に満ちた声がグラウンドに響き渡った。会長の「あと俺の本体はメガネじゃなーい‼」という声は、ほとんど誰の耳にも届いていない。

 朝とはいえ、これだけの快晴だ。開会の熱気にあてられたこともあって、じっとりと汗がにじみ出てくる。俺は既に少し疲れていた。

 ついでに言えば、少し緊張もしている。なんなら若干腹が痛い。去年までこういった行事にロクに参加していなかった身としては、仕方がないことだとも思うけれど。

 さっきのTシャツの件もそうだが、こういう類の団結した雰囲気にはめっぽう弱い。目の前にあるだけでめまいがしてくる。熱気の中で、自分を見失うことが怖いのかもしれない。


「おーい木下、もう誘導始まってんよ」

 イヤホンから聞こえてくる藤見の声で我に返った。既に応援団がそれぞれの位置へと誘導を始めている。俺は親指と人差し指で目頭を強く揉んで、なんとかめまいを抑える。それから、トランシーバーのスイッチを押してゆっくりと話し始めた。

「一五分後から競技が始まります。最初の競技の審判と、生徒の誘導を行う方は用意を始めてください」

 言いながら、ステージのすぐそばにあるテントへ入る。この位置からだとグラウンド全体が見渡せるから、指示はかなりやりやすい。

 基本的に、俺は会長や役員からの指示を伝達するだけで大丈夫らしい。正直、俺必要なくね?と思われるかもしれないが、会長曰くどこの部からどれくらい来ているのか把握しているのが俺と藤見だけらしい。あと、いつも通り役員がひたすらに忙しい。

「熱中症対策のスポドリ配布は⁈」

「保護者の入場まだ終わってねーぞ‼」

「予定のタイムテーブルより二分早く進行してますけど、このまま切り詰めてやりますか?」

「おい教員リレーで鳥居先生にメイド服着てもらうようにちゃんと頼んできたか⁈⁈⁈」

 と、今もテント内で怒号が飛び交っている。

 ……おい、ちょっと待て。鳥居先生メイド服着るのかよ。流石に年齢的にどうなんですかね。


「まだギリギリセーフよ」

「はぁ、そうすか……は?」

 突然上から降りかかってきた声にぎょっとして思わず頭上を振り仰ぐと、半目でこちらを睨む鳥居先生が逆さに映った。これ、やっぱ巨乳だと顔見えないんすかね?……ってそんな場合じゃねぇ。近い。

 のけぞった拍子に、盛大な音を立てて俺は椅子から転げ落ちた。

 たとえ先生であってもラブコメチックは雰囲気は避けなければなるまい。古今東西、教師と恋に落ちる話は無限に存在するからね。一回り年上とか気にせずに、そのうち好きになっちゃうかも。

「今失礼なこと考えなかった?」

「いえまったく」

「……まぁいいわ」

「で、マジで着るんすか」

「マジで着るわよ」

 先生はそう言うとにかっと笑う。なんか楽しそうっすね。それに、自分のやりたいことをできるというのは、カッコいいことこの上ない。

「すげぇ、漢だ……」

「女よ」

 軽く頭をていっとチョップされた。大して痛くはないが、一応患部をさすっておく。

「てか先生、あんなひらひらな服で走れるんですか」

「これでも私、学生時代は韋駄天だったのよ?」

「結婚は韋駄天どころか行き遅れなわけd―「一旦黙りなさい」

 気づけば先生は俺の目の前に立っており、額に青筋を浮かべていた。

「うっす……」

「私の激カワメイド服で観戦に来た男どもの視線を釘付けにして、それで私もついにゴールイン……悪くはないわね」

 そんなこと、全然思っていないんだろうな……。冗談めかして呟いている先生の言葉を、俺は呆れ半分で聞き流す。向こうもきっと、俺がそんなことを思っていることがわかっているのだろう。

「とりあえず、今日一日頑張りなさいな。はいこれ、愛する生徒への差し入れよ」

 先生はしゃがみこんで俺と目線を合わせると、ばちこーんとウインクしながらポケットからチョコを取り出した。

 ししし、と笑うその笑顔に思わず目を逸らしてしまう。それ可愛いからやめてもらえます?仲のいい同級生女子かよ。

「どもどもです」

「もう疲れてるっぽいけど大丈夫?ほどほどにね」

「……うす」

 先生にわかるくらいには顔に出ていたらしい。流石にここでばたんきゅーしていてはどうしようもない。とりあえず一念発起するとしよう。俺は立ち上がってから、チョコを受け取った。

「先生、チョコ好きですよね。いつも食べてるし」

「え?あーそうね、割と好きよ。特にカカオの割合が高いのが好きね」

 先生はもう一つチョコを取り出して、自分も頬張り始めた。言われて手元のチョコを見ると、「CACAO 72%」と包装紙に印字されている。

「甘い方がいい……」

「贅沢言わないの。きっといつか、苦みの中にある甘さが好きになるわ」

 先生は俺にデコピンしてから立ち上がった。見回りにでも行くのか、そのまま生徒の待機スペースへと向かっていく。

 先生の後ろ姿を見ながら俺は貰ったチョコレートを口に放り込み、ばりぼりと噛み砕く。

「……苦ぇ」

 ……今しばらくは、甘いチョコレートの方が好きでいいや。

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