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俺は逆張っているのかもしれない……1

「で、起きたら昼休みだったと?」

「へい……」


 というわけで、起きたら昼休みだった。養護教諭は朝に俺をベッドに通した後、一度も確認に来なかったと見える。問診も二秒くらいで終わったし適当すぎるんだよなぁ……。

 今目の前でお怒りなすっているのは鳥居先生だ。手近な椅子をベッドのそばまで引いてきて座っていた。苛立たしげな貧乏ゆすりが怖い。

 先生はチョコをポケットから出して食べながらその包み紙を丁寧に折りたたんでいる。新作なのか、口に含んでから「あ、これおいし」と呟いているけれど、ひと段落した後にこちらに向けられたその目は、しっかりと俺を糾弾していた。怖い。

 

 うーん、今日の午前中は……あー、HRがあった気がしなくもない。ちょっとチョコー?お前、絶対にストレス減退効果とかあるよねー?鳥居先生、目の前でものすげぇイライラしてますよー?真面目にやんなー?

「はぁ……。あんたねぇ、このままだと留年になるわよ?自分の成績分かってる?」

「ぶ、物理と数学以外は……」

 うちの学校では出席日数が足りないか、赤点を三つ取るとあら不思議、来年も学年が変わりません!ということになる。つまり俺はこのままいくと赤点が二つあるわけで、留年にリーチがかかるというわけだ。

「それを否定できないのが、なんとも腹立たしいところね……。ていうか、あんた明らかに理数系教科の対策してないわよね?なんか理由あんの?」

「うーん……。なんか、理屈として理解できないというか」

「というと?」

「なんて言うかその……例えば歴史なら、この国はこういうことがしたいからこういう動きを取るんだな、みたいなのがあるから理解できるんですが、物理式とか数式って理解する前に式が与えられちゃうから、理屈が腑に落ちないまま進んでいってなんかもやもやするというか」


 なんとなく思っていることを口にしつつまとめていっているせいでさぞかしわかりにくかっただろうに、鳥居先生はふむ、と頷いてくれた。

「全然関係ない話するけど、木下くん、あなた少年漫画で好きなキャラは?三人くらい挙げてみてちょうだい」

「は?」

 理解放棄かしらん……。何言ってんだこの人。

「まぁまぁ、答えてみそ」

「え……うーん、日向家分家のあいつと、最近だと炎柱の人ですかね。あと少年漫画ではない気もしますが秦国六将軍の生き残りも好きです」

「ふふふ……想定通りの解答だわ。木下くん、あなたはズバリ、逆張りでしょう‼」

「な、なんだってーーーー?!?!?!?!…………またやんのかよ、これ」

 丸尾くんもとい鳥居先生は、びしっと俺を指さした。今どきそれ伝わんの?日曜笑点からのちびまる子ちゃん→サザエさんのムーブをキメてる人間、おる?

 ……で、今度は何?逆張り?この前もそんなこと言ってたな。

「逆張り、つまり人気に逆行していくスタイルのことね。今の質問の場合、微妙に人気どころの……しかもそれ故にここぞという時にアレされてしまうようなキャラを選ぶあたり、もはやさすがというべきね。あと大抵ワンピだとサンジが好き」

 くそ、なんか言い返せねぇ……。ワンピだとサンジが好きなのもあってるし。

「でもその理屈だと、そもそも人気作品自体読まないんじゃないですかね」

 先生は、至極嬉しそうにうなずきながら話し始めた。

「そう、そうなのよ。そこがポイントなの。狙って逆張りをしようとすると、人気なものに対して逆の選択をする場合が多いの」

 一呼吸おいてから目をかっと見開いてさらに続けた。

「しかーし‼人気作を読んでおきながらも、微妙なところをチョイスしてしまうその性格!流れに逆らわずにいようと思っているのに、どうしても逆張ってしまうその根性‼まさにあなたはナチュラルボーン逆張りといっても過言ではないわ‼」

「いや過言だよ……。褒めてないですよね?それ。全然嬉しくねぇ……」

 ナチュラルボーンクラッシャーみたいに言うな。俺もS-1(逆張り-1)で王座獲っちゃうぞ。というか全国のサンジ好きに謝れ。

「ちゃんと褒めてるわよ。「懐古厨」のくだりもそうだったけれど、世の中逆張りがいないと成り立たないもの。みんながみんな、同じように受け入れてちゃ何も進まないわ」

「それだと、この前のレポート書き直さなくてよかったのでは?」

「ほんっと口の減らないガキねぇ……。少しは私の顔を立てなさい」

「確かに年齢的には半分程度しk……痛いっ、痛いです」

 心の中で悲鳴を上げながら、俺は先生につねられている方の腿をよじる。

「デリカシーというものも、多少は覚えるように」

「……あい」

 屁理屈をこね、年齢的にちょっと失礼まである煽りをする俺にため息をつきつつも、先生はどこか優しく接してくれている。


 この人の言葉は、額面通りに受け取っていいのだろう。だって、俺を見つめている瞳が母ちゃんと同じくらい生暖かい。ん?それってもしかして諦められているのでは。

「それと同じで、みんなが「そういうもの」として受け止めてる物理式とか数式も、あんたは懐疑しているってことなんじゃないかしら。それはとても大切なことなのよ、きっと。……まぁ、赤点を取らない程度の努力はして欲しいけどね」

「が、頑張ります……」

 どうやら、一応諦められてはいないようだ。良かった良かった。

「とりあえず物理は今度特別補習で救済してやるわ。数学は何とかしなさい。わからなかったら私に聞いていいから」

「うっす……」

「そもそも成績は何でもいいのよ。今年持ちこたえれば来年は選択で取らなければいいだけだしね。……それより、どうしてサボったのか詳しく聞かせてもらえるかしら?」

 先生の笑顔が怖い。ぴくぴくとひきっつている。こっちが本命か……さっき起きたばかりの時は「朝礼前に保健室来て寝たら昼になった」くらいの説明しかしてないからな……。

「や、うーん……その、最近徹夜多くて」

「ゲームして?」

「うーん……」

 先生のさらなる追求に、俺は思わず言い淀んだ。さっきの「逆張り」は知らんが、「懐古厨」である俺は明らかに現状維持を好んでいる。

 でも、いま俺が行っていることは、他人からすればどう見ても維持ではないだろう。だからなんとなく、若干自分のスタイルと異なっている今の状況を先生に知られてしまうのは恥ずかしい。

 さて、なんて返答したものか。答えあぐねていると、唐突にガラガラと扉が開かれた。

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