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俺の考えは今のところ変わらない2

 朝練の終わる時刻なんて早くて始業の十五分前やろ、と思いつつ昨夜藤見に連絡したところ、遅くとも三十分前には基本的に練習を終えるのだそうだ。

 着替えやらグラウンドの整備をして、教員からの心証をよくするために遅刻しないように教室に着くとなれば、三十分前でギリギリらしい。もっとも藤見の場合は成績を何とかするべきだと思うが……まぁ、何でもいいや。


「木下、こっちこっち」

 グラウンドに差し掛かった瞬間、体育館との通路の間から声をかけられた。見れば朝練が終わったばかりなのか、ユニフォームのままの藤見が手を振っている。

 その隣ではこいつの彼女である新坂杏奈が、スポーツドリンク片手にぶすっとした表情でこちらを見ている。こちらも部活上がりらしい。運動着の上にビブスを着たままだ。

 弁明しておくが、新坂杏奈に嫌われているわけではない。むしろ中学三年間同じクラスだったこともあり、真面目で照れ屋で不愛想なだけだということも知っている。藤見つながりで仲も悪くない。俺の中では仲がいいカウントだ。

 けれどやはり、こいつは少しだけ俺に敵対意識のようなものを持っている。簡単に言えば、新坂は少し彼氏への束縛が強いのだ。どれくらい強いかというと、例の絡みですら俺を睨んでくるくらい。リアクションが面白いからやるんですけどね。

「ごっめーん☆まった?」

「ううん。全然」

「そう言ってくれる君が好き♡」

「俺もだよ」

「おいお前。話聞いてやらないぞ」

 おっと、いかんいかん。今日は俺が下手に出るんだった。


 茶番もそこそこにして、俺は若干居住まいを正してから二人に向き直った。

「急に呼び立てしてすまん。二人に折り入って頼みがある」

「……っぷw」

「んふふw」

 ……俺が真面目腐ってお願いしたというのに、こいつら笑いやがった。

 藤見に至っては俺の腕をぺしぺしやりながら笑っている。俺だって向こうの立場にいたら笑っていたのかもしれないが、しかし多少は情けをだなぁ……。

 藤見は笑いすぎて目じりにたまった涙をぬぐってから話し始める。

「いやぁ、ごめんごめん。きみがぼくに頼み事なんて今までなかったから、つい面白くって。話は昨日連絡貰った通りでいいんだよね。部活会は昼休みに会議開くけど、昨日のうちに大体の部活に了承してもらったし、十中八九通るよ」

「女子運動部の方も昨夜のうちに聞いておいたから問題ない。これからは少しくらい私に敬意をもって、感謝することだ」

「え?お、おぉ……」

 あまりにとんとん拍子に進んでいたものだから、戸惑ってしまった。

「なんか不安要素がある顔だね。まだなんかやることある?」

「特にないが……なんていうの?なんか見返りに部費アップとか要求されるものかと」


「「あっはっはっはっは‼」」


 率直に思っていたことを言うと、ついにこらえきれなくなったのか二人は声をあげて笑いだした。こういうところで息ぴったりじゃなくてもいいんだよ……。

「そんなわけないでしょ、ひー……お腹痛くなってきた。こいつやっぱり馬鹿だわ」

「きみ、マンガの読み過ぎだよ」

 む……何も言い返すことはできない。実際、こういう頼み事は初めてだ。

 そもそも、こいつらを除けば高校に入るまでまで俺の交友関係は美咲だけだったわけで。美咲に何かを頼んだことはないから、この類の状況での正しいふるまいなんてわかるわけもない。

 おまけに一応形式上は生徒会から部活会への要請でもあるし、それなりに何かあるんじゃないかと思ってそわそわしていた。なんなら部費アップの交渉をするために、会長に土下座の一つや二つ……といった覚悟があった。

「別にこれくらい気にしなくていいよ。ぼくときみの仲じゃないか。ぼくからしたら、友達を助ける理由は、はそこまで深く考えるようなことじゃないんだよ」


 気障にウインクをしながら微笑む藤見を、俺は少しの間見つめていた。どうにも裏があるようには見えない。見ず知らずの他人ならまだしも、数年来の付き合いがある人間の言動を簡単に見落としたりはしないと思う。

 二人は俺が何かを頼んだとしても、余程のことではない限り引き受けてくれるような気はしていた。けれど、心のどこかで何かあるんじゃないかと勘ぐってしまう。

それはきっと、俺が打算的な人間で、他人もそうだと思っているからだろう。

「……俺と友達なのか?」

「えー?友達じゃないの?」

「……友達の定義がわからん」

「木下はばかだな」

 ついつい変なことを聞いてしまう俺を茶化しつつ、新坂は俺を鼻で笑う。それをこらこらといさめながら、藤見はゆっくりとこちらを見た。

「まぁ、何でもかんでも面倒くさく考えることは僕にはできないけど、それをやっているきみは傍から見ていて面白いかな」

「新坂の味方じゃねぇか」

「ははは、確かに」

 ころころと笑いながら、藤見はでもね、と続ける。

「ぼくはそういうきみに変わって欲しくはないかな。見てて面白いのもあるし、きみみたいな姿勢って、周りからすると結構興味深いんだよね。だから、いつかきみの中で友達ってやつが分かった時に、ぼくも入ってると嬉しい、くらいかな」

「ま、私もそんな感じだ」

「……あっそ」


 言いながら昔のことを思い出す。

 中学の頃、二人はどこにでもいる部活にいそしむ、所謂「普通」の人間だった。

 けれど高校に入ってから、いつの間にか二人は大きく成長してしまっていて、俺の知っている世界の外に行ってしまった。

 それが原因で、時々俺との交友関係だけが残っているような恐ろしさにとらわれることがある。これを負い目と言えるなら、俺は二人に負い目を感じている。

 その感情が二人をどう位置付けるかの決定を阻害しているようにも思うのだ。

 そんな俺を、変わらないままで、友達でいてくれると二人は言っているらしい。そこに打算も憐憫もないのなら、互いにそう思えるのなら、それはきっと美しい友情だ。

 果たして俺はどうだろうか。綺麗な感情を持ち合わせているのか。

 ……こんなことを考えてしまっている時点で、お察しだな。

「まぁ、どうしてもっていうなら今度私に学食奢ってくれ。それで今回の件は貸し借りチャラにしてやろう」

 なおも訝しむ俺を見て、仕方ないなぁという風に新坂はため息をついた。

「うん、それがいいね。杏奈ちゃんは結構食べるし。ぼくのも分もそれに入れといて」

「ちょ、私そんな食べないよ……」

「そうだったね、ごめんごめん」

「んもう……」

 俺を横目に、二人はちちくりあい始めた。その姿を見ながら、少し苦笑してしまう。あぁ忘れてた。こいつらバカップルなんだった。

 今すぐに人間関係の清算なんて、そんなことできるはずもない。ならば今のうちは、二人に合わせるのもやぶさかではない。

「リア充爆発しろ。奢る飯なんかねえ」

「えー、酷いなぁ」

「雄大、もう時間やばいよ」

「わぁ、ほんとだ。それじゃ木下、ぼくたちもう行くね。終わったら連絡するから、楽しみに待ってて」

「……あ、最後に一つだけ」

「?」

 安心材料にしかならんが、一応な。

「お前から見て松本ってどんな人間だ?」

「……あいつは少しキレ性なところはあるけど、素直で真面目な人間だよ。彼自身が不正を一番嫌うような、いい奴だと思う」

 そう言い残して、二人は足早に部室棟の方へと駆けて行った。


 ぽつんと取り残された俺は、肩の力が抜けた。どっと疲れが押し寄せてくる。

 藤見はあの一言で大体のことを察してくれたようで、わかりやすくていい返答を返してくれた。今のはあくまで確認だったが、藤見の中でああいう評価なら、信頼はできる。

「ふぁ……ねむ……」

 肩の荷が下りたからか、昨晩の徹夜も相まって急激に眠たくなってきた。二日連続であまり眠れていない上に、いろいろと考えてしまったこともあるのだろう。

 さて、一限は何だったかな……。覚えていないということは、取り立てて大事ではないはずだ。嘘つきました。ほとんどの時間割覚えてないです。

今の時間、保健室は空いていたどうか定かではない。授業をおサボり申し上げるのは非常に申し訳ないが、流石に少し眠りたい……。

 どうせこの眠気なら授業に出ても寝るだけだし、教員に失礼がないという意味では保健室で寝る方がいいまである。

 少し遠くで、例のチャイムが鳴っている。なんにせよ、校舎に入らないと何も始まらない。俺は慌ただしく生徒が往来する昇降口へ、少し足早に向かっていった。

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