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たまには上手くいかないこともない

「ちょっとトージ、どこ行ってたわけ?」

 二階に戻ってくると、北条は少し不機嫌だった。無断で消えたら、そりゃ怒りもするか。

「まぁ、わざわざ三人で見る必要もないし……。それで、何か役に立ちそうなことは書いてあったか」

「それはそうかもしれんけど!」

 欅田は頬を膨らませている北条をなだめすかしつつ、はいこれと俺の方へ文集を回した。

「今から五年前の体育祭の話みたいです」

 五年前といえば、俺が小学校を卒業したくらいか。どれどれ、と俺は差し出された文集を読んでいく。

「この『棒倒し中止について』って所です」

 俺は、指さされたところから読み始めた。

 読むに、これが書かれた前年に男子競技の棒倒しで怪我人が出たらしく、この年に廃止するか否かが生徒内で取り沙汰されて、棒倒し実行派と中止派が拮抗していたらしい。結局行うかどうか生徒の意見を広く募ったのちに協議し、中止に至ったようだ。

「なるほど。とすると、今回も、最悪の場合似たような結末を辿りうるというわけか」

 俺たちが名案を出せず、なおかつ騎馬戦への不満が残る場合、騎馬戦を無くすという判断もあるわけだ。やる気がない生徒が参加しても怪我のリスクを上げるだけで意味はないという話も、この文章には書いてある。

「うーんでもさ、会長は困るって言ってたよ」

「そうなのか?」

「はい。一週間前に騎馬戦を中止にしたら、代替の競技も簡単に見つかるものではないし、体育祭の目玉競技がなくなってしまうから、と」

 当然だな。実際今から騎馬戦に代わる目玉競技が見つかるなんて到底思えないし、見つかっても競技として実行するには時間が足りなすぎる。

「てことは、中止しない方向でなんとかうまい落としどころを見つけなきゃいけない、ってことか……」

 図らずして北条と欅田が同じタイミングでため息をついた。うーむ、しち面倒なことになったな……。このまま黙っていると埒が明かないので、とりあえず口を開く。

「まずは、現状を整理しよう」

 言いながら、俺は鞄の中からペンとルーズリーフを取り出した。そのままさらさらと現状を書き留めながら話を続けていく。

「まず、騎馬戦はやる方向で動く。だが、このままいけばこの棒倒しを中止したときと同じ様になくなりそうだ、と」

「だからいい感じの折衷案を見つけ出さなきゃいけないけど……何かあるかなぁ」

「まず考えられるのは、全員参加じゃなくすること、ですかね」

「それが一番現実的だろうな」

 俺は欅田の案に首肯した。けれど、問題点もある。

「それだと会長の言う「目玉競技」って感じしなくない?」

「クラスの半分は参加するようにするとか……」

「それじゃあ全員が半分になっただけで、特に変わんなくない?」

「うーん確かに……」

 二人の話に耳を傾けながら、椅子に深くかけなおす。クラス全体が参加するわけではなくかといってやりたくない人から不満が出ず、なおかつ目玉競技となるような規模のものか……。

 ぱらぱらと「文集」をめくりながら、主に騎馬戦と表記があるところを見つけ次第読んでいく。騎馬戦のルール詳細化の過程……うーん、今は使えないな。騎馬戦審判のマニュアル、騎馬戦のハチマキ使用について……こいつらも関係なさそうだ。

 さらに古い方へとめくっていくと、ふと目についた見出しがある。「騎馬戦」競技化における議論総括、と題されたものだ。ページもだいぶ古くて、回数で計算したら親父が高校生やっていたよりはるかに昔の年だった。結構古いんすね、この競技。

 少し腰を据えて読んでいく。なになに……。


今年度より体育祭の競技一新に伴い、「騎馬戦」を導入した。

「騎馬戦」は周知の通り怪我が多く、徹底した安全管理が行わなければならない。結局のところ我々生徒会、並びに有志の手伝いのキャパシティでは各学年ごとの四クラストーナメント戦が限界であった。というのも、各クラス四十数人が騎馬を組むだけで最低十騎、また対戦形式ともなれば計二十騎はいる計算になり、これ以上の騎馬を怪我無く管理することが不可能に近いからである。

今年度は、幸い一人の怪我も無く体育祭が終えることができた。本文は、こうした「学年毎、クラス毎の騎馬戦」に決定するまでの我々生徒会と安全管理の補佐をしてくれた有志、並びに教員間における議論を可能な限り正確に記録したものである。……


 ……ん?ここまで読んで、何か引っかかりを覚える。なんだ?何がおかしいんだ……?

「なぁ、この文章何かおかしいと思うんだけど」

 言いながら二人の方へ文集を戻す。肩を寄せ合ってふむふむと読んでいた北条があー、と声をあげた。

「確かこの学校、昔は男子校なんじゃないっけ」

「……?」

 北条の説明が腑に落ちず、俺が首を傾げると、横から欅田が加えて説明をしてくれた。

「北条さんが言いたいのは、木下くんが言っている違和感の正体が「クラス全体」ってところにあって、これはここが男子校時代の話なんじゃないかってことだと思います。この学校は、確か十数年前に共学化して生徒を増やしたはずなので」

「あぁ、なるほどだ」

 そうだ、今は二クラス一組で騎馬戦が毎年十騎ずつなのに、各クラス十騎と表記されているのに違和感を覚えたんだ。

「というか、そもそも学年ごとに分ける必要ってあるのか?」

「確かに、必要ないですね……?」

 多分これまで特に疑問に思われないからスルーされ続けてきたんだろうが、中学生と違って一年生と三年生で大きく体格が違うこともない。となると、学年ごとに分ける必要も特にない気がしてくる。なんなら、全学年で一戦行う方が盛り上がりの総和は大きいと言える。

「つまり、合計人数を決めて三学年参加にすれば、うまくいくってこと⁈」

 北条は机から身を乗り出して近づいてきた。うんそうそう、あってるからね?近い。

 俺は身をよじって距離を取りつつ、ぱたんと文集を閉じた。

「というわけだから、とりあえず会長のところへ報告しに行こう」


「お前ら……」

 それから生徒会室に戻って報告と提案をした途端、会長はぷるぷる全身を震わせ始めた。総統閣下は騎馬戦改善案にお怒りなんかな……。畜生めぇ‼とか言ってキレそう。なんかまずいこと言ったか……?

「生徒会に入らないか⁈⁈⁈⁈」

 と思っていると、突然椅子を立ち、俺の両肩をがしっと掴んで揺さぶった。なんだよ、嬉しかっただけか……。

「や、入らないです……」

「そうか……」

 会長は再びがっくりとうなだれ、椅子に座りなおした。それから優しげな声音になって、少しだけ寂しそうに話を続けた。

「この体育祭が終わったら、生徒会長選挙がある。それが終わると俺は引退するんだ。君たちが入ってくれるとは思っていないが、今後もちょくちょく手伝ってはくれんか」

「もちろんですよ。認可さえ下りれば、あたしたちは他人の話を聞いて、助言したり実際手伝ったりする『見聞部』ですから」

 否定する前に、北条が一歩前に出て会長の問に答えた。俺、よくわからん部活に入れられるんだったな……。もう仕事しすぎて忘れてたわ。

 あっけにとられていた会長は、一瞬呆けた顔をしてからすぐに破顔した。

「はっはっは!そうだったそうだった!君たちは部活のために手伝ってくれていたのだったな」

「忘れてたのかよ……」

 俺も人のことは言えんが。

「いやぁすまんすまん。とりあえず君たちに任せてよかったよ。なんとか間に合いそうだ。このまま頼む。あぁでも、三学年合同にしたときに何騎作らせるかと、その分の安全を確保できるくらいの有志を集める方法、あと必要箇所以外ほぼ去年のコピペでいいから、明文化されたルールが欲しいな。考えておいて貰えるか」

「あぁ、有志のことなんすけど、部活会を通して運動部各位頼もうかと思ってました」

 部活会というのは、各部活の代表が集まる連合のことだ。主に予算の配分や、部室の割り振りなどを決めている。もともと体育祭の運営の補助はだいたいが運動部の部員で構成されているはずなので、この際部活会を通してまとめて依頼しても良いのでは?という考えだ。

幸い、部活会に依頼して通せるアテもある

 会長はほう、と感嘆の声をあげた。これも大丈夫だな。

「こういうことやりくりするのうまいな……やはり君だけでも生徒会に」

「入らないです」

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