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幼馴染は変わらない

 水曜日の放課後。俺、もとい見聞部一同は再び図書館へ来ていた。もちろん、今日は勉強目的ではない。

 カンニング疑惑の解決の前に騎馬戦の方を片付けようということになった俺たちは、昨日一日かけて代案を考えたものの、なかなかいい案が思い浮かばなかった。

 あちらが立てばこちらが立たず。どうしたものかと思っていたら、歴代の体育祭についての総括をまとめてある「文集」なるものが図書館にある、と会長に言われたので、何かの助けになりはしないかと思い読みに来た次第だ。

 こんなギリギリになって俺らに任せきりなのはどういう了見だいという意見もあろうが、現在、体育祭を直前に控えた正規の生徒会役員の面々は俺らよりずっと忙しい。

 どれくらい向こうが切羽詰まっているかと言うと、生徒会室のそこかしこにエナジードリンクの缶が散乱していて、全員目は虚ろだった。時折、いるはずもない蝶々を捕まえるために虚空を掴んでいる人までいた。霞ヶ関かここは。マジでお疲れ様です……。わたくし木下冬至、生徒会に誠心誠意ご奉仕させていただきます。

「はい、これ。重いから気を付けてね」

 優しそうな司書の先生が分厚い冊子を手渡してくれた。表紙には「体育祭総括文集」とあり、紐閉じされている。毎年、文集をまとめてこの冊子に入れて、その年の体育祭は終わりなのだとか。この学校は割と歴史があり、体育祭もウン十回開かれているはずだ。雨やらで開催されず、やむなく書かなかった年があるかもしれないが、この量は妥当なのだろう。

「ありがとうございます」

 軽く一礼して、冊子をうんしょこらしょと手近な机まで運ぶ。

「何が書いてあるんでしょう?」

「体育祭で告白すると恋が叶う、とか!」

 二人は心なしか少し楽しげに見える。それは書いてないと思う。まじない本じゃねえんだぞ。

 図書館で騒ぐのはマナーが悪いのではと思われるかもしれないが、今いる二階は映画なども所蔵しており、それを見られる設備もあるため、何かと騒がしいこともあって歓談可能な階となっている。俺がテスト前にいたには三階で、基本的に私語厳禁だ。

 ちなみに我が校の図書館は「館」と銘打っているだけあって四階建てになっている。実際には、創立何十年かの記念で建てられた棟の一部なので一階は情報教室、地下一階は部室になっているから実際は二階と三階しか図書館ではないが。 

 さて、どんな発見があるのやら。俺は二人がぺらぺらと中身を見ているのを、机の向かい側に置いてある椅子から眺めていた。

 違います、サボってません。この二人と混じって読むとか無理では?無理です。はい。

手持ち無沙汰になってしまったため、二人の邪魔にならないようにそっと席を立って、三階へ上がった。

 こちらには新書やら画集があり、適当にぺらぺらめくっているとそこそこの暇つぶしになるのだ。ちなみに大学入試の過去問なんかもある。俺はまだ見ません。現実を見たくないので。

なんとなく興味がありそうな分野の本棚の前で背表紙を流し見していく。

「世界神話学入門」

「鬼の風土記」

「ゆかいな仏教」

 ……等々。ふむ。結構興味深いな、後で借りて読もうかしらん。

「ん」

 本棚のあまりの情報量の多さに若干酔って、ふと視線を通路の方に向けると、たまたま通りかかったらしい美咲と目があった。実に数週間ぶりの邂逅だ。今日もここで勉強しているのだろう。

「なにしてんの」

 三階であることを考慮してか、美咲は近づいてきてかなり小声でぽそぽそと俺に話しかけた。珍しいな、俺に話しかけてくるとは。……いや、俺がここにいる方が珍しいのか。

「ちょっと二階の方に用事があって。休憩がてら三階の本を見てた」

「用事……?」

「体育祭の手伝いみたいなことやらされてな」

「冬至と……体育祭?」

 何を言っているんだこいつは……?という顔で美咲は俺を見た。そうだよなー。似合わないよなー。どう説明したものかな……。

「まぁなんだ、頼まれてというか」

「あぁ、北条夏海か」

「そうそう……っては?何で知ってるの?」

 さも当然といった風に話す美咲を見て、俺は目を丸くした。なんでこいつが知ってんの?

「うるさい。ここ三階」

「あ、すまん」

 美咲に強くとがめられ、思わず口をつぐむ。

「で、なんで知ってんの」

「あの娘、有名だから。最近いろいろ聞くわ」

「なるほど……」

「羨ましい限りよ」

 そう言うと、美咲は俯きがちに唇を噛んだ。

 ……こいつが悔しいなんて感情を露わにしたこと、これまであったかな。美咲ですらそのように思うことがあるのだな、という発見がなんとなく頭の中を回っている。

「あ、聞きたいことあるんだった」

「……何?」

 まだ何かあるの?とでも言いたげな顔で美咲がこちらを睨む。

「例えばの話なんだが、俺がお前と一緒に勉強していたとして、試験の時に俺がどんな答案書くかって予想できるのか?」

「は?」

 ……ごめんて。そんな馬鹿を見るような眼はやめて。確かに俺は馬鹿ですけれども。

「実際どうだ?」

「……はぁ。そうね、冬至のノートとかを見れば、ある程度どの要素を入れ忘れるのか、とかどんな書き方をするのか、みたいなのはわかるんじゃない」

 ……ふむ。なるほど。

「わかった。変な質問して悪かったな」

「……それじゃあ、私は戻るから。あの娘、方々でいい顔してるせいで、いろいろギクシャクしてるみたいだから気をつけてね。冬至に言っても仕方ないだろうけど」

 それ、多分当事者俺なんですがね……。まぁいいか。美咲にそれを言うことは何の意味も為さない。自分の問題は自分で解決すべきだ。

 それにしても、この手の話に疎いであろう美咲ですらこの件を知っているというのは、かなり重大な事実だ。この前の松本みたいなのが、また増えなければいいんだが。

 別れ際に、この前千春に言われたことを思い出す。険しい表情をしていたのは、やはり最近根を詰めすぎているからだったんだろう。気休めになるかすらわからないが、一言くらいはね。

「あぁ。お前も適度に休めよ」

「冬至には関係ないでしょ」

 ささやかな忠告を、美咲は振り向いて一瞥した。そりゃ正しい判断だ。俺は同意の意を示すため、その後ろ姿を眺めながら小さく肩をすくめた。

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