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妹が役に立たないわけがない

 私、帰宅部のトウジ。こっちは持ち帰らされた仕事。

「っあ~」

 週末の、日付もそろそろ変わろうかというころ、俺は自室で盛大なため息をついた。

 目の前にはアンケートの集計結果が記されている紙が積まれている。

「なんなんだ、この競技は」

 独りごちながら、とんとんとペン先で「騎馬戦」の三文字を叩く。

 騎馬戦と言えばもちろんリレーと並んで体育祭の花形というイメージがあるが、どうも最近は賛否両論がありがちだ。というのもリレーは選抜形式であることが多い一方で、騎馬戦は全員参加であることが多い。ご多分に漏れず、我が校も騎馬戦は男女に分かれて全校生徒が参加することになる。

 となれば、運動部等のリア充軍団とその他では必然的に温度差が生じることになる。

 加えて近年の組体操や棒倒しにおける怪我の多発から縮小の声があったため、肉体的な接触を伴うものではなく、頭に巻いたハチマキを取り合う形式(これも顔が危ないと意見があるっぽいが)になったことで、騎馬戦をやりたいサイドも不完全燃焼に終わっているようだった。

 その証拠に、騎馬戦に関する意見の数は群を抜いて多いうえに、中身が多種多様でまとめるのにすら一苦労だ。ぱっと取り上げてみても、無限に違う方向の主張が見える。

「タックルされると痛い 禁止にして欲しい」

「これだけ全員参加なのはおかしい」

「ハチマキ取るだけなのは正直つまらない」

「体重軽いから上に乗せられるけど、正直怖いからやりたくない」

「上脱いでやりたい」

 ご覧のありさまである。服は知らねえよ。勝手に脱げ。

 あー、やめだやめ。いったん休憩。疲れてしょうがない。

「ふぁ、ふぉふぃふぃふぁん」

 気分転換がてら下の階に降りると、ソファーで千春が歯を磨きながら呑気にテレビを流していた。風呂上りゆえか、いつものシニヨンは解いてある。この時間まで起きているとは珍しいな。明日はオフなのだろう。

 千春は、いつも朝練やら試合やらで、基本的に俺が起きる頃にはすでに家を出ているくらい朝が早い。そのため、夜も寝るのが早いことが常だ。

「何言ってるかわからんし、とりあえず洗面所で歯磨き終わらせてきなさい」

「ふぁいふぁい」

 千春はめんどくせぇな……と顔で表現しつつ、とてとてと洗面所の方へと向かっていった。ぐちゅぐちゅぺーと音がするのを背中で聞きながら、冷蔵庫からお茶を取り出してこぽこぽとグラスに注ぐ。そのままソファーに向かい、適当にザッピングしてニュース番組で止めた。

「ちょっとお兄ちゃん。私いま、好きなアイドルの特集見てたんだけど?」

「ありゃ、それはすまん」

「まぁ、もう見終わったし寝るからいいよ。なんか見るなら電気とか消しといてね、よろしく」

「なんなんだよ……。あ、ちょっと待った」

「なに?まだなんかあるの?」

 千春は若干の苛立ちを隠さずに俺に向き直った。妹さま怖い。

「いや、参考までに聞きたいんだけど、千春んとこの中学校って何か体育祭って騎馬戦やってるか?」

「何の話?藪から棒に」

「ちょっといろいろあって体育祭の手伝いをやらされててな……。それで騎馬戦のルールとかやらなきゃいけないかもなんだよな」

「……大丈夫?ほんとにお兄ちゃん?」

「どういうことだよ……」

「あの帰宅部で学校のこと何もしない陰キャオタクお兄ちゃんがいきなり体育祭の手伝い?まっさかぁ~」

 当初明らかに不信がっていた千春は、話を聞いて面白みを感じたのか、露骨にいやらしい笑みを浮かべて俺の隣に座った。それからふぁさ……と髪をなびかせて優雅に足を組んで、余裕たっぷりにこちらを見た。キャバ嬢かお前は。ぶっ飛ばしてやろうか。

「ちなみになんで手伝いなんかしてんの?」

「そりゃまぁ、一番波風が立たないからだな」

「誰と?」

「誰でもいいだろ……」

「わかった。彼女さんだ」

「冗談言え。そんなもんおらん」

「じゃあ誰なのさ」

 俺がはぐらかし続けるせいで、千春はだんだんと不機嫌になってきたようだった。

「知り合いだよ、知り合い。そのうち話すから」

「仕方ないなぁ。それでなんだっけ、騎馬戦?」

「やっと本題に戻って来たな……」

 千春は俺とは違って、家から少し離れた私立の女子大付属の女子中に通っている。何としても千春を共学から遠ざけよう同盟があったのだ。木下一家は千春を溺愛している……。

 そしてそれ故に、俺とは中学が違う。もしかしたら何か面白い競技があるかもしれん。

「そうだなぁ、うちは基本的に普通だと思うよ。あぁでも、中一で「紙風船騎馬戦」っていうのやるかな」

「紙風船?」

「うむ。頭に紙風船つけて、ピコピコハンマーで相手の紙風船破裂させたら勝ち、みたいな」

「あーそんな感じか。なんか微笑ましいな」

「は?キモ」

「悪かったよ……」

 ナメクジを見るような眼が痛い。千春ちゃん辛辣ぅ……。

「他には特にないかなぁ、うちそもそも女子高だしね」

「うーん、なるほど」

 確かに女子高で騎馬戦というのもあまりイメージが湧かないし、こんなものだろう。ピコピコハンマーとまではいかなくとも、ハチマキを奪うという女子のやり方は変えようがあることもわかったのは、そこそこ大きな進歩だ。

 千春は黙っている俺を見てもどかしかったのか、こてんと首をこちらに傾けた。

「どう?参考になりそ?」

「あぁ。割と今、たまたま下に降りてきた自分に感謝してる」

「そこはいいアドバイスをあげた千春ちゃんに感謝しろっての……あ、そだ」

 そう言うと千春はふと何かを思い出したようで、少し顔を曇らせて、身体ごとこちらに向き直る。

「今日の帰りに美咲さん見かけて、なんかすっごく険しい顔してたんだよね……美咲さん、なんかあった?」

「?うーん何かあったかな……」

 最近の美咲を思い出してみる。そもそも最近は生徒会に出ずっぱりだったせいで、美咲と校内でエンカウントすることはなかった。最後に見たのは、それこそ帰り道で千春にあった時が最後じゃないか?

 ……いや、違うな。そのあとにどこかで見かけたような。

「あぁ、もしかしたら中間テストのことか?」

「?美咲さんがテストで悩むの?なんで?」

 千春は、首を傾げて怪訝そうな顔をしている。幼馴染ゆえに、美咲の好成績は我が家中に知れ渡っている。あいつの成績を知った母ちゃんが俺を見ていかほど嘆いたかで、ノートが一冊埋まる。千春を受験させたのは、二人目の俺を産み出さないためというのも少なからず含まれているはずだ。知らんけど。

「や、変わらず一位だったんだが、あいつと同点で一位だった転校生がいたから。それで焦ってるんじゃないかと」

「……千春さんが焦るの?」

「ですよねー」

 ぶっちゃけ同感だ。あの南部美咲が、それしきのことで思い詰めるか?

 しばしの間、二人してうーむ……と唸っていると、千春は突然勢いよく立ち上がった。うーんと大きく伸びをしてから、こちらを向いてけろりとした表情で言う。

「ま、いっか。お兄ちゃん、探っといて」

「んな無茶な……」

「人間観察、得意でしょ?」

 なんで知ってるんだよ。おかしいだろ。

「じゃあそんな感じで。私もう寝るから。リビングの電気消してね」

 そう言って、千春はひらひらと手を振りながら出て行った。待てや。どんな感じだよ。単純明快複雑怪奇な代物か?

 俺の制止を気にも留めず、ぱたぱたと階段を昇る音だけが空しくリビングに響く。どうしようもないので、諦めて浮き上がった腰を再び下ろした。

 にしても、あの美咲が険しい顔、ね……。まぁ、会うことがあったらそれなりに気に留めておこう。

 ちらりと時計を見れば、もう日付は変わっている。俺はテレビと部屋の電気を消して、自分の部屋へと戻った。仕方ない、もう少し頑張るか……。

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