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俺は巻き込まれたくなんかない1

「勘弁しろよ…………」

 つぶやきながら、俺は壁に背をつけた。そのままずるずると地面にへたり込んで、重苦しい息をこぼす。

 本当に勘弁してほしい。これは想定外だ。北条の恋愛事情なぞ、どうでもいい。

 これだから恋愛に現を抜かす奴は嫌いなんだ。何もかもそれのせいにして、感情と欲望のコントロールが効かなくなる。あらゆることを「恋愛」の旗のもとに位置づけてしまうから、カンニング告発の犯人が俺だ、なんていう意味不明な論理が出来上がる。

 結局、みんなそうだ。色んな感情と欲望が綯い交ぜになった感覚に、勝手に「愛」だとか「恋」だとか名前を付けて、それを「好き」という言葉で他人に押し付ける。ひとつひとつ丁寧に解きほぐして、切り離していけば、きっとそこには何も残らない。あるのは言葉で装飾された空っぽの箱だけだ。

 そしてそんなもの、不変とは程遠い。

 とりあえず、北条に絡まれるのは不可避であったとしても、できる限り会話する時間を減らしていくべきだな。松本にこれ以上絡まれるのはゴメンだ。怖いし。

 それと、カンニング云々の件についても可能な限り接触しないようにしよう。変に介入してこじれてしまってはどうしようもない。現状が悪いとしても、これ以上悪化しないように維持することは必要だ。

「あの……。だ、大丈夫……?」

 それからどれくらい経ったかよくわからないけれど、チャイムが鳴っていないということは数分だったのだろう。グラウンドの方から不意に、多分俺に声がかかった。恐らく、次に体育があるクラスの生徒だ。大丈夫だということを示すためにもとりあえず声のした方を向く。

「欅田か……」

 声をかけてきたのは欅田だった。なんか町娘が満身創痍の落武者を見つけた構図みたいになってるな?校舎裏で座り込んでいる知り合いって、なかなかにナニコレ珍百景だよね。そりゃ見に来るよな。

「ちょっと日陰にいただけだよ」

 答えながら俺はゆっくりと立ち上がった。ジャージについた砂を、ぱんぱんと軽くはたいて落とす。

「あ、いえ、松本くんとここに来るのが見えたから……」

「あぁ、はい」

 言い訳としては流石に苦しいと思っていたが、そこから見られちゃってたか~。言い訳する意味なかったな。

「それで、何かしてたんですか?」

「特に何も」

「壁にぶつかる音と松本くんの怒声が聞こえたような……?」

「そこまで聞いてて、なんで俺に聞くの……?」

 それを聞いた欅田は、くすくすと笑う。こいつ、なかなかに強かだな……。

「夏海ちゃんのこと?」

「そんなとこだ」

「なるほど……」

「困ったもんだ」

 やれやれ、とため息をつきながら壁から離れる。そろそろ戻ろう。

 このような場所で女のこと二人になるとちょっとアレな雰囲気が漂ってくる。どうして俺のこと見つけて、わざわざここまで来たんだろうか、といらないことを勘繰って、そのうち誤った仮定から誤った解を導いてしまいそう。

「じゃあ俺教室戻るから」

「あ、あの!」

 そう言ってその場から立ち去ろうとすると、欅田は意を決したように俺を呼び止めた。

「夏海ちゃんは、その……たぶん、いろいろ考えてるんじゃないかな……と思います」

「……?」

「なんて言うかわからないですけど、先のことを考えて行動しているというか……」

「なるほど」

 ちょうどその時、二限の開始を告げるチャイムが鳴った。やばい、完全に遅刻だ。

「それじゃ」

「は、はい!」

 少し駆け足になりながら欅田と別れた。

 階段を駆け上りながら思う。

 あぁ、自分が相手を好きだと勘違いしなくてよかった、と。

 間違える前に逃げることができてよかった、と。

 持て余した自意識が行きつく先は、大抵が悲しい結末だ。俺はそんな風になりたくないし、第一それは、今の自分に対する重大な逸脱行為に他ならない。

 故に俺は、いつまでも自意識過剰に自分を俯瞰する。自分で自分を縛り上げる。自分は感情や欲望が発現できないようにするほど強い人間ではないから、可能な限り発現を抑えるために自分を縛り上げて、生まれてくるそれらを、間違っていると切り捨ててる。

 そうすることで、ひとまずは安寧を保っていられる。

 そんなことを考えているうちに、ひとまず更衣室についた。次のクラスの生徒がちらほらとまだ見える中、大急ぎで着替えを済ませて教室へ急ぐ。

 教室の前に着くと、ちょうど教師が前の扉から入っていくところだった。セーフ。いやほんと良かった。なんとか自分の席に着く。

 隣から声をかけられたけれど、それは号令によって遮られたから、聞こえなかったことにする。すん、と不満げに鼻を鳴らした音が、近くで聞こえた気がした。

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