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俺は巻き込まれたくなんかない1

「は?なんだって?」

「だ、か、ら、トージはあたしと二人三脚出るんでしょ⁈」

 翌日の体育のことだ。前日の雨はすっかり止んで、頭上には快晴の青空が広がっている。体育ないのでは……?と淡い期待を抱いていたのだが、朝練をやりたいサッカー部諸君が完璧なグラウンド整備をしてしまったらしく、辺りを見回しても水たまりどころかぬかるみすらない。文句ひとつ言えない出来栄えである。

なお、今俺が直面しているのは修羅場ではない。体育祭で自分が出場する競技を初めて知ったという話だ。いつものように、ほどほどに体育に参加している風を装いつつのんきに休んでいたところ、突然北条が俺のところにぷりぷりと怒りながら向かってきて、いろいろと捲し立てられて今に至る。

ちなみに、うちの学校の体育祭は紅白戦ではなく各学年八クラスが、一・二組、三・四組、五・六組、七・八組の四つのグループ分けられる。俺のクラスの色は多分赤だったと思う。こんな複雑な分け方になっているのは、男女で分かれて行う競技の際に一クラスでは人数が少な過ぎるかららしい。それもう紅白戦でいいだろ……。

 ……で、俺北条と二人三脚すんの?いやいや冗談きついって。本当に何考えてんの?こいつ。

「ちょっと待て、いつそんなこと決まった?俺は全く覚えてないんだが」

「そりゃまぁ、あの時のHR寝てたんだから、覚えてるわけないでしょ」

「ははぁ……」

 なるほどね?そういう感じね?寝てる間に適当にぶち込まれてたのね?

 ははぁん、困った困った。……いやほんとにどうすんだよこれ。マジで困ったなおい。

「お前はなんで二人三脚選んじゃったの」

「っ……それは……なんかくじ引きで……」

 えぇ~ほんとにござるかぁ~?俺はどっちでもいいですけど。てかもじもじするな。勘違いしちゃうから。

 周りでは、各競技ごとに分かれて競技練習をしている。と言っても、大半は戯れ半分に練習しているだけだ。昨日の今日でこんなことになってしまうと、流石に周囲の目が気になる。なんかみんなこっち見てない?困っちゃいますぅ~。自意識過剰ですかね。

 二人三脚に出るのは一組だけらしく、練習を未だ始めていない俺と北条はグラウンドの隅で取り残されていた。傍から見れば痴話喧嘩にしか見えないまである。やばい、めっちゃ恥ずかしくなってきた……。

 俺が対応に困りつつあたふたしていると、遠くから北条を呼ぶ声がした。

「ちょっと夏海ぃ~、リレーの練習しよーよ」

 見ると、いかにも陽キャ然とした男子二人と女子一人が集まっていて、こちらに向かって叫んでいる。

「あ、花梨!わかった今行く~。それじゃトージ、後で絶対練習するからね‼」

 そう言い残してから、北条はそちらの方へ駆けていった。あの金髪ショートで見るからにオタク馬鹿にしてそうな女が一木花梨か、覚えた。その奥では、男子の一人、松本だったかが俺の向かってガンを飛ばしている。えぇ……何?怖いんですけど……。

 北条は彼女たちの一団に加わると、仲睦まじくリレーの練習を始めた。

 きゃっきゃうふふほほえまーの「青春」をそのまま絵に描いて煮詰めたような絵面だ。青春ジャムの瓶詰め。きっと激甘に違いなかった。彼らの笑い声がだいぶ離れたここまで聞こえてきた。声がでかすぎやしませんかね?

 暇になってしまったので、俺は近くにあったスプリンクラーに腰かけた。寝てたので知らんが、俺が出るのは二人三脚だけなのだろう。周りを見ても、特に誰かに呼ばれる気配もない。教師は生徒に交じって楽しそうに歓談している。なめんな、働け。

 逆にそれが幸いして、この調子なら咎められることもなさそうだ。ということで、俺は膝に頬杖をついた。……マジでやることがねぇ。

 こういう時は周りを眺めるのが丁度いい暇つぶしになる……と言っている奴はひねくれているだけだ。すぐに飽きるので暇つぶしにもなりゃしない。だって、知らないクラスメイトが何してるのか見ててもつまらない。

 いい暇つぶしにはならないが、こういう時にできることは結局人間観察になってしまうのも残念なことに事実だ。もしかして俺、ひねくれてる……?

 グラウンド全体を右から左へ見回してみる。向こうでは徒競走に出るグループが互いに競い合っている。その先で突っ立って俺と目が合ったあいつは、たぶんサボっている。スタンド使い同士は惹かれあうんだ。

 学校は社会の縮図とか言われることがあるが、こう見るとあながち間違いではないのかもしれん。実際はいろいろといざこざが起こるのかもしれんが、基本的にはいくつかのグループに分かれてそれなりに楽しくやっている。

 とすると俺は全体を俯瞰してるし神ってことですかね?え、誰とも関わってないからひきこもり?なるほど……。

 そうしているうちに俺は大方のクラスメイトを見終えてしまい、グラウンドの左端のリレー集団に再び行きついた。結局は多少なりとも知っている人がいて、さらに言えば華やかな一団に目が向くものだ。こういうときにちらりと目があって手を振られたりすると敵わない。そういった行為で数多の男子学生が戦死する羽目になる。俺ですか?こういうときは見てなかったふりをします。北条さん、手を振るの、やめてください。

 俺は天を見上げた。目を逸らしたかったのもあるけれど、単に暑かった。あっちい、まだ五月だぞ。俺、夏になったら死んでしまうのでは?

 少しずつ空の高いところへ届き始めた太陽が、じりじりと背中を焦がす。風は思ったよりも涼しくなくて、体温を下げる足しにはならない。

 ちらりと校舎に取り付けられている時計を見れば、もう授業が終わる時間だった。あと五分もない。これならわざわざ日陰まで行くほどじゃないなと思っていると教師が集合ー、と気の抜けた声をあげた。どうやら授業は終わりらしい。俺はゆっくりとそちらに向かっていく。

 教師がこれまた適当に体育祭が云々、怪我に気を付けて云々と述べたのち、クラス委員が号令をかけて体育は終わった。特に何もしてないけど拙者一限もオツカレ!

 のそのそと校舎の方へ戻る……ところでぐい、と肩を掴まれた。教師だろうか。サボってたのがバレたか?違う、俺は悪くないんすよ、二人三脚の相手がリレーの練習行っちゃって〜。てかセンセイも遊んでたじゃないすか許してくださいよ〜。言い訳を並べる準備をしていると、少々怒気をはらんだ声が聞こえてきた。

「おい」

 どうも教師の声ではないですね。えぇ。流石にそれくらいはわかる。で、誰。

 仕方ないので、首だけ声のした方へ向けた。そこには先刻ガンを飛ばしてきた松本の顔があった。左右を刈り上げていて、割と身長が高いことをそこそこ誇りに思っている俺よりも身長が高い。何よりゴツい。異世界から転生してきたって言われても信じちゃう。

「ちょっと話があるから来てくんね」

 こいつ、教室以外のどこかで見覚えあるんだよな……と思いながら、俺は首肯してついて行った。ここで拒否してもどうしようもない。

 あぁ、こいつあれだ。野球部だ。藤見の試合を見に行かされたときに見たかな。体格から察するに強打者に違いない。藤見が四番とか言っていたから、三番か五番かしらん。

 ……ということは、昨日藤見の言っていたバチバチの相手とやらはこいつか。とすれば、野球部だという俺の記憶も正しいな。まぁ、心の隅にとどめておいてやろう。

 松本は校舎裏まで俺を連れて行き、壁際に立たせてからくるりとこちらに向き直った。あれ、校舎裏の壁?壁ドン告白かカツアゲか、どっちですかね。

「お前、どういうつもりなわけ」

「はぁ」

 思わず生返事になってしまった。何がどうなんだ。何もわからん。主語を言え……なんて思っていると少々強めに肩をどつかれた。いやん、やめて!ヘンティカンヘンタイ!いや、変態ではないな。

 松本の目はぎらついていて、思わず息をのんでしまう。足が少し震えて、視界がくらくらしてきた。なんとか、乾いた喉の奥から声を絞り出す。

「どう、と言われてもさっぱり話が見えないんだが。せめて何を聞きたいか説明してくれ」

 言うと、松本はがしがしと頭を掻いた。所作からもよほど苛立っていることがよくわかる。明確な敵意を向けられるのは久しぶりな気がする。控えめに言って超怖いんだが。勘弁してくれや。

「夏海のことだよ」

「は?」

「北条夏海だよ、しらばっくれんなよ……」

 そういえばあいつの下の名前、そんなんだったな。そしてこういう話になるのは、昨日の藤見を思い出した時点で予測できる。松本はすこしぶっきらぼうに言葉を続ける。

「お前、あいつとなんかあるん」

 で、でた~www語尾が「ん」で終わる奴~~~~wwww主に自己評価が高い男子大学生に多め。撥音便好きすぎかよ。大抵ウザい。あと、大抵機嫌がいい時は「~なんよな」を使いがち。気をつけましょう。

「や、なんもないが」

 もちろん、そんな虚勢は面と向かって張れるわけもなく。言ったら殺されちゃう。とりあえず弁明をはかるために否定するしかない。

 そもそも、本当に俺との北条の間には何もない。逆に何もないから困っている。

「んなわけねーだろ、お前夏海と同じ部活入ってるし。やけに仲いいじゃねえか最近」

「あれは北条に入れられただけで進んで入ったわけじゃ……」

「は?何なんお前」

 俺の言い訳が気に触ったようで松本はちっと舌打ちする。こっわ……ちびるわこんなん。

「いや、なにと言われてもな……」

「まさかとは思うけど、カンニングしたとかいう嘘情報流したのもお前?」

「そんなことして俺に何の得があるんだよ」

「知らねーよ。夏海から見た俺の評価下げようって魂胆じゃねーだろうな」

 ……なんなんだこいつは。脳みそにガムシロでも詰まってんの?北条に一途なのはわかったが勝手に俺を巻き込まないでくれ。

「本当に事実無根だ」

「もういいわ。とりあえず、俺は夏海のことマジで狙ってるから」

 本当にそれだけ言うと、唐突に会話を切り上げた松本は、踵を返して消えていった。

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