四のおっさん
Xデーは、じいちゃん家宿泊の二日目に決まった。それが今日や。
「お家のことしっかり手伝いよ!」
って母ちゃんに脅されていた俺は、真面目に兄カレーを作りながらタチバナと決めた段取りを思い出してた。
鵺と遊びまくってた弓花はソファーで昼寝、じいちゃんは「遠慮なく楽させもらおか」って甲子園見ながらビールと枝豆しとる。
ここだけ切り取ればめっちゃ平和やけど、今夜妖怪大戦争(予定)やで……
って気を引きしめた時。
「古き新しきも一つの世」
足もとから低くてええ声がして、俺は凍りついた。
鵺、来とる。
「いかにぬしらが阻もうと……」
おいバレとるぞタチバナ。
「我はすべてを喰ろうてやる」
身体固まって下見られへん。けど一矢報いたくて、
「な、なんで、そんなんするんや」
って言った。へにゃへにゃのほっそい声にかぶせて鵺が答える。
「世がこの身を生み、この身が世を怨む。寄る辺なく忌まれし魂、我こそは鵺なり」
小さく笑ってから気配が離れてく。
金縛り解けてやっと顔向けたら、あいつ犬気取りで歩いてくとこやった。タマネギ投げてやればよかったし……
一人と一匹はその後も絶好調やった。
「ぬーえ、世界で一番かわいいのだあれ!」
「弓花どの」
「言わせんなや!」
俺ができるのはカレーを吹き出しながらツッコむことだけ。
「おお、この犬は漫才もできそうやなあ。賢い賢い、ええ犬拾ったわ」
ご機嫌に酔っ払ってたじいちゃんは、夕飯が終わるとすぐ部屋に入っていった。これから起きる騒ぎを見せたくない、ってビール注ぎまくった甲斐があった。
とっくに日付をまたいだ今、弓花もじいちゃんの横でぐっすり寝とる。
俺は布団の上に起き直った。
鵺はまだ犬のふりしとるみたいで、玄関にいる。
「弓花、飼い犬と同じ布団で寝るのはよくない。これはぬえのためでもあるんや」
ってじいちゃんが言い聞かせてくれて、ここだけは助かった。
じりじりしながら待ってると、夜の蝉に混じって小さい声が聞こえた。
「剣太郎どの、こちらに」
タチバナや。
ついに始まる、俺の初めての妖怪退治。
庭に出ると、普通の大きさになったタチバナが物置のとこに立ってた。
半分透けてるヒョウタン顔見たらホッとして、俺は自分がめっちゃ怖がってたことに気づいた。
「今日、でかいな」
俺がひそひそ声で言うと、同じようにして「広いので、多少派手に行こうかと」ってうなずくタチバナ。そういうノリでええんか。
「よいですか、妹御の寝所には結界を張ってあります。万が一の時は逃げ込んで下さい」
説明された俺は首をかしげる。
「それほんまに平気? すぐ破れへんかなタチバナ結界、やっぱ安倍さんからレンタルした方が……」
「んもーっご心配なら使っていただかなくて結構ですぅ!」
俺は「ウソや!」と笑ってタチバナを見た。目の高さ一緒やな。
「全然遠慮なくダイブするし。お前は大丈夫なんか、透けてるけど危なくないん?」
「は?」
タチバナの細目が最大限ひらく。それから糸みたいに笑った。
「あなたはよき御人ですね。頭がほおずきの袋のように軽くてうるさく鳴り(喋り)ますけど」
「やかましい。もう帰れやお前」
ふっと蝉が鳴き止んで、急に闇が濃くなった。
俺はスマホで時間たしかめる。午前二時まであと五分。
「……そろそろやぞ」
心臓バクバクいわせて、用意した縄にぎって、タチバナに顔向けた。
「そうですね。では私はこれで」
「はいぃ!?」
つい大声出すと、人差し指立てて「しーっ」ってしてきよるタチバナ。その姿がどんどん薄くなってく。焦って捕まえようとしたけど、俺の手はスカるだけや。
「どこ行くねん、帰れは冗談やぞ! おびき出して縛って封印て言うたやん!」
「ええ、ここからはお武家の領分ですよ……」
タチバナ消える!
と思ったら、もう一つの人影が重なるみたいに浮き上がってきた。
頭は烏帽子やけど、なんか甲冑つけとる。抜いた刀、手に提げとる。
「……ヨリマサの、おっさん?」
嘘やろって思いながら言うと、顔が濃いい眉毛すごいマジもんの武者が、
「むん!」
って真一文字の口でうなずいてウッソやろこんなん!?




