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一の犬

「山で犬拾ったよ、見においでや」

 じいちゃんの電話を受けたのが妹の弓花ゆみかやったからもう大変やった。受話器ほうり出して飛んだり跳ねたり、

「ワンちゃん会いたい、いま行こっ!」

しかもう言わん。


 こっちは今まさにスマホ構えてソファーにごろんってしたとこ。

「十四時やで危険なホットやで。嫌や」

 顔をしかめて素直に言うたら、

「えーんにいちゃんが危険っていう、にいちゃん危険ー!」

って泣き出しよってこんなん各方面に通報されるやん。

 そんなわけで俺たち鳥井兄妹は夏の京のプライムタイムに出陣したし。あっつぅ。



 母ちゃんの実家まで、バスに揺られて三十分。停留所おりたらすぐそこや。

 麦わら帽で庭に出とったじいちゃんが、俺らに気づいて手を振った。

 弓花がバーッて走ってって「おじいちゃん、犬!」って飛びつく。じいちゃんは犬やない。

「おうおう、こっちや」

 にこにこ顔で向かう玄関、柱の横に黒っぽい生き物がつながれてた。

 毛がふぁっさーってしとって、へー外国の犬やんって感心した時、ちょっと変なことに気づいた。

「じいちゃん、尻尾ハゲてへん?」

「ああ、疥癬かいせんか思って獣医さんに聞いたら、こいつは生まれつきやろうって。それで捨てられたんかもしれんなあ」

「へーえ」

 一回納得したけど、もっと近づくとナットクは蒸発した。


 尻尾、ただのハゲと違う。

 ぬるっと光ってヘビみたいや。

 それだけやない、耳が、犬耳があらへん。顔は日光江戸村やし脚は熱血虎党タイガース、胴体は黒くてもやもやしとってタヌキって言った方がよっぽど合ってる。

 猿、虎、狸、蛇……

 ここまで並べて俺リーチ、こいつ古典の資料集におった!


 ぬえや!!



「わーかわいい!」

って駆け寄ってく弓花お前ウッソやろ。

 思わず「あかん!」って言うやん。したらじいちゃんが犬(異議あり)抱えてこっち来るし。

「大丈夫や剣太郎けんたろう、大人しいから」

「じいちゃんそれ鵺やって!!」

「ぬえっていうん? おもしろい名前、抱っこさせて!」

 俺が止める前に弓花は犬(審議請求)を抱き取った。柴犬サイズやけど、ちびっこい弓花が持つとやけにでかく見える。

 俺は犬(棄却)を抱いて縁側に座った弓花の周りをウロウロした。

「えーおま、重いやろ、ムリすんなよ」

「平気やもん、ほらふわふわー。暑いの大丈夫、ぬえ?」

 夏の庭で妹が妖怪に顔をうずめる。

 普通なら背筋凍るとこやけど、その顔があんまり嬉しそうやから俺は何も言えんくなってしまった。



 ここにちょっとした事情がある。

 俺たち鳥井兄妹って言ったけど、この名字まだ慣れてへん。

 半年前まで大阪におったけど父ちゃんとは別々になって、母ちゃんの旧姓に変わって京都に来た。

 俺は中学、弓花は小学。ちょうど進学のタイミングやってそれはまあよかってんけど、もともと引っ込み思案な弓花は上手く友達作れてないみたいで、夏休みもずっと家でしょんぼりしとった。


 せやから今、

「兄ちゃん、ぬえと写真とって! お母さんに見せよっ」

ってめっちゃ笑顔でねだられるとお兄ちゃん的にホッとするとこもある……

「はいちーず」

 複雑な気持ちでシャッター切ってやると、鵺のサル顔が俺をバカにして「はんっ」て笑った。やっぱあかんってこれ!


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