おねぇの優しい独り言。
目にとめていただきありがとうございます。
第2回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞応募作品です。
少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
キーワードは「おねぇ」です。
「ハァ…」
噴水前のベンチで、何度目かもわからないため息をつく。
たくさんの恋人たちが行き交う街の中、一人寂しい自分の姿はひどく不釣り合いに思える。
確かにちゃんと約束したわけじゃない。
でも断られたわけでもない。
諦めきれずに繰り返し圏外のアナウンスを聞き、既読にならない画面を何度も見つめている。
「ハァ…」
ため息をもう一つ重ねたところで、誰かが電話をしながら隣に座った。
「だからねぇ、少し落ち着いてって言ってるのよぉ。」
相手の声はもちろん聞こえないが、泣いているようだ。
「そうよねぇ、あなたが彼をどれだけ好きか、アタシもわかってるのよぉ。
でもね、彼はあなたのこと本当に好きなのかしら?」
悪いと思いながらつい聞き耳を立ててしまう。
「せっかくのクリスマスに、『仕事の様子を見て行けたら行く』なんてバカにしてると思わない?」
…驚いた。
似たようなセリフを私も言われたのだ。
「プレゼントも、彼はリクエストしてきたけどあなたは聞かれてもいないんでしょう?」
私もそうだ。彼からは某ブランドの財布をねだられたけど、私のは聞かれなかった。
「わかる!わかるわよぉ、値段の問題じゃないし、サプライズで用意してるかもって思うわよねぇ。」
うんうん。
もう、自分が盗み聞きしているのも忘れて頷きそうになってしまう。
「だけどね、こんな時間まで何の連絡もないのよ?
本当に仕事が忙しいのかもしれないけど、結論も出さずに平気であなたを待たせるなんてアタシは許せないの!」
なんだか悲しくなってきた。
認めたくない事実が頭に浮かんでしまう。
「ごめんなさい、少し興奮してしまったわ。
あなたが大事にされていない気がしてつい、ね。
泣かないで。でも考えて。あなたのために。」
話を聞きながら私も考えていた。
相変わらず携帯は沈黙している。
「アタシはあなたが大事なの。あなたはあなたが大事?」
私は彼に“さようなら”と送信した。
そして隣の人の前に立ち、頭を下げる。
彼女は一瞬、驚いた顔をしたが、電話をしながらウインクをくれた。
さぁ、ラッピングされた財布を売り払って自分のために靴を買おう。
私は軽い足取りでベンチを後にした。
「うまくいったかしら?」
携帯からは現在時刻が聞こえている。
そう、あれは全部“独り言”だ。
神様はアタシに女の体はくれなかったけど、人の悩みがわかる勘をくれたみたい。
涙目の、吹っ切れた素敵な笑顔を思い出しながらアタシも清々しい気持ちになっていた。