⑤(最終話)
昨日の後書きにも書きましたが、これで最終話です。
「あ、香月」
会計を終えた亨は、お店を出てすぐに話し掛けてきた。
「何?」
「もう遅いし、十夜呼んだから」
「それは嬉しいけど……このあと仕事あるんでしょ?」
元々、亨と今日会う予定はなかった。急に会うことになった理由は、仕事終わりの十夜から連絡をもらったから。
『香月さん、若があなたとお話したいみたいです。夜九時にいつもの場所で若がお待ちです。そのあと若には仕事があるので、あまり若に飲ませないでね。あ、若もそうだけど、香月さんも飲みすぎないでね。それとその仕事は僕も行くので、今日は家に帰れそうにないです』
だからこのまま亨と別れて、一人で十夜と住んでいるマンションに戻る予定だった。
「あー、入ってるけど……もう夜の十一時だし、お前のマンションまでの道のりすげぇ暗いし。それに、最近の十夜は働きすぎだから勝手に休ませる。代わりの奴呼べば何とかなるものだし……」
目線をあさっての方向に向け、歯切れ悪く話す亨に思わず笑ってしまった。いつも亨と会ったり話しを聞いたりする時間帯は、彼の仕事の都合上だいたい朝か昼になる。夜に会うなんて、大学の時以来だ。
その時はまだ例の彼女と出会う前だったから、女に優しくするなんて亨の頭の中にはなかった。そんな彼が、亨が、初めて帰りのことを心配してくれたのだ。素直に嬉しい。
「亨が帰り道のことを心配してくれるなんて意外だわ」
「そんなにか?」
「ええ、意外よ。本当に彼女を大切にしているのね。亨、ありがとう」
やや不満顔の亨をからかいつつお礼を伝えると、彼は照れ臭そうにそっぽを向いた。そして十夜の姿を視界に捉えると、じゃあなと足早に去っていった。
「さようなら、亨」
過去の恋の決別の意味も乗せた言葉を紡いで、夜のネオン街に消えて行く亨を見送る。彼の姿が見えなくなるまで見送ると、静かに私の横に来て声をかけた人がいた。
「香月さん、家に帰りましょう?」
「そうね。私たちの家に帰りましょう、十夜」
その人は、"今"の私が愛してる十夜だった。彼と手を重ねて、亨が消えて行った反対の住宅街に続く大通りへ足を向けた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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本日からまた現代の恋愛「僕の右肩-愛してる-」を更新しています。良ければそちらもご覧下さい。