あべこべ世界の男子アイドル
「何で?私の何がいけなかったの?理由を教えて?何でもするし、直すから、ねえ、たっちゃん」
泣きじゃくる由紀、俺の女だった。
「何でって・・・飽きたからだよ!」
俺は今まで、女に困った事がない。
いつだって、女が寄ってきてくれた。
付き合いは別れ、別れては付き合い。
俗に言う「クズ」というヤツなんだろう。
でも、それが俺、俺の正義なのだ。
そうやって女を取っ替え引っ換えしてきた。
さっきの女は特に巨乳だった。
女は俺にとって欲求を満たすための道具でしかない。
きっと誰にとっても羨ましい対象なんだろう。
だけど、そんな日々が俺にとっては。
本当に退屈な日々だった。
「はぁ〜、何かもっと面白いことないかな?」
女を振り払って、歩きながら俺は独り言を呟いた。
その瞬間。
ガタガタガタガタ〜〜!!メシメシメシメシ〜〜!!
凄い勢いで地面が揺れた。
今までにない揺れ方だった。
「うわぁぁぁぁ〜〜〜〜。」
はー、こんなに退屈な中で俺は死ぬんだ。
そう思っているうちに地面の揺れが止まった。
「はぁ〜、助かった。」
ふと周りを見渡した。
あれだけ揺れたのに、全く変わった様子はなかった。
変わった様子はなかったのだが・・・俺は妙な違和感を感じた。
でもそれが何かわからないまま。
家に帰り着いた。
「遅かったじゃない!!一体何をしてたの!!?」
玄関で母親が激怒した。
ただ今、夜の9時。
日付が変わる直前に変える事が少なくなかった俺。
むしろ早いくらいだ。
「は?意味わかんねーよ、いつもより早くかえってきたのによ」
「何言ってるの?男の子がこんな時間に外を歩き回って!襲われたりでもしたらどうするの!?」
母親にそう返された俺は・・・。
「はいはい、わかりました、すみません。もう飯も食ってきたし、今日は疲れたから寝るわ。」
意味がわからなかったけれど、とにかく母親があまりにも凄い剣幕で怒ったので、そのまま部屋にこもって寝ることにした。
部屋の中で・・・俺はまた考えていた。
俺の母親は俺の親父と別れてから、1人で俺を育ててくれた。
仕事が忙しかったのもあったが、母親は俺のやる事には、そんなに口を出すことはしなかった。
友達みたいで、気楽な母親だった。
そんな母親があんなに怒るなんて・・・。
やっぱりひとり親だから・・・急に心配になったのだろうか。
そんな事を考えていたら・・・気が付いたら寝てしまっていた。
次の日の朝。
俺はいつも通りに目を覚ました。
母親が作り置きしてくれた朝飯を食べて。
俺は高校に行くバスに飛び乗った。
バスの中で・・・。
やっぱり何か違和感を感じていた。
学生でいっぱいのバス。
俺にはその違和感の正体が何かわからなかった。
でもその違和感の理由を俺は。
学校で知る事になった。
「おっはよ〜〜」
クラスのお調子者のアッコ。
振り向いた瞬間。
俺は。
尻を触られた。
「何やってんだ、お前!!」
「何言ってんの?いつもの挨拶じゃん。」
アッコは不思議そうな顔をしていた。
普段は俺に寄ってくることさえないくせに。
席についてから周りを見渡した。
いつもなら
「キャー、キャー」
言ってこっちを見てはしゃいでいる女子達。
今日は何だか見下した顔で、薄ら笑いを浮かべて見られている気がした。
俺が由紀を酷く振った事がバレてしまったのだろうか。
いや、でも由紀は他校の生徒だ。
そんなに早く噂が広がるはずがない。
「昨日から何だか変なことばかりだ」
そんな中で一限目が始まった。
日本史だ。
教科書を見た瞬間。
俺は自分の目を疑った。
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康・・・あらゆる武将の肖像画が全て・・・。
女になっている。
それだけじゃない・・・。
「男性参政権運動・・・?」
俺は・・・夢を見ているのか?
教科書を隅から隅まで見た。
先生が話す・・・。
「今回のアメリカの大統領選挙では初めての男性大統領が誕生するかもしれませんね。」
俺は全てを悟った。
「そうか・・・バスや街の違和感・・・」
スーツ姿の女性達ばかりで・・・くたびれた男性サラリーマンを殆ど見かけなかった。
「一体、何が起きているんだ?」
俺の頭の中は「?」で、いっぱいになってしまった。
そうやって下校の時間になった。
「じゃあね〜〜」
またアッコに尻を触られたが、俺は何も言う気にはなれなかった。
いつもの帰り道。
何も違わないように見えるのに。
何もかも違って見えて。
何だか涙が出そうだった。
「酷い遊び方したからバチが当たったのかな?」
バスを降りて。
トボトボ歩いていたら。
いつものコンビニがあった。
「気晴らしに何か買ってくか。」
そう思いながら、入った。
何気なく、店内を見渡した。
そして成人向けコーナーが目に入った。
俺は自分の目を疑った。
雑誌の表紙。
ビキニ姿の女・・・ではなく男だった。
俺は。
一目散に家に帰った。
そしてインターネットを片っ端から調べて。
テレビをつけて番組を観まくった。
そして全てを悟った。
「この世界は・・・男と女の立場が入れ替わっている世界なのか。」
とても信じる事は出来ない。
俺は夢を見ているのかもしれない。
眠ってから、起きたら世界がまた戻っているかもしれない。
そうやって俺は眠りについた。
それから・・・。
一カ月の月日が経った。
俺の世界は・・・元には戻らなかった。
一カ月の中で俺はこの世界の事を学んだ。
世界を表で動かしているのは女性。
世の中の要職に就くのも女性。
男は本気で働きたいならば結婚は出来ず、結婚したい男は女性を立て服従しなければならないということ。
そして・・・性的搾取をされるのも、この世界では女性ではなく男だということ。
「腕力で何とかすればいい」と思うかもしれないが、この世界の女達は男の力を無力化する不思議な力を使うのだ。
男は・・・女を喜ばせなければ生きていけない。
よほど優秀で男である事を捨てなければ、まともな就職もできない。
高校を卒業しても大抵の男は結婚するか、パートタイマーになるか。
当たり前に就職するつもりだった俺は絶望した。
家に帰って。
ぼんやりと。
テレビを見る毎日を過ごしていた。
女性を持て囃すテレビ。
添え物の様に居る男達。
そんな風景にうんざりしながらテレビを消そうとした時。
俺は運命的な出会いをすることになる。
「DK(男子高校生)スペシャル、出演者募集」
優勝者には賞金が送られ、その出演者の優秀者の中からアイドルグループを作るという。
以前、俺が居た世界では女性でよく行われていた企画だが。
どうやらこの世界では、男で行われているらしい。
男女入れ替わった世界ではあったが。
俺が女性にモテるのは変わらなかった。
散々セクハラもされたが。
それは俺がこの世界でも通用する証拠だった。
俺は・・・自分を試してみたくなった。
「俺、これに応募してみる。」
母親も最初は反対していたが、俺の押しに負けて。
許してもらえることになった。
こうして。
俺のアイドルとしての。
長い長い戦いが始まったのだ。
第2話に続く。