09 表立って密かに大突撃
魔王軍の本格攻勢に合わせて友軍も随所で防衛体制へと移行する。を開始。統帥の檄の籠もった指令書により戦意は十分。この日も前線の膠着状態を維持できるだろう、と誰もが考えた。そこへ……
「待て!」
「逃すな、追え!」
何人もの怒号が背後から聞こえてくる。おかしい、後方からの奇襲対策として次元ゲートは使えないようにしてあったはずだが……と女騎士が考えたところでそれらの声の主たちが次々と視界に現れる。
彼らの先にはあの勇者!
「あれらはギルドのろくでなし共か! 何が起こっていると考えられるか、補佐どの!」
「皆目見当つきませんな。」
丸メガネを中指で支えて指揮官補佐の男が答える。
「それでも考えるなら、あの勇者が作ったなにがしかの問題がギルド構成員を激怒させた……とかでしょうかね。召喚から三日も経っていないのにそんなことになるかと言われれば自説を引っ込めざるをえませんが。」
「ふむ。」
勇者が逃げていく小高い丘を見据える。
あの方面にも我が軍は展開しているが、うまく間隙を縫って走って行っているため……!?
「待て、あのままでは奴ら我々の防衛線を越えてしまうぞ!」
一瞬、誰もが目を離した間に勇者は急加速。戦場に取り残される冒険者たち。彼らをそのままにしておくわけにはいかない、と協力してカバーに回る周辺各部隊。その動きに対応するため命令をさらに広域に発する女騎士の中央指令団。
不測の事態に魔王軍では攻勢から一転様子見。
その趨勢の変化を利用し、未だ誰にも再捕捉されていない勇者は全力で駆け抜ける!