08 女騎士と敵愾心
最前線。
第三臨時連合大隊の指揮官たる女騎士はいきなり顔を出した勇者という男に不信感しか抱いていなかった。
上からの通達では礼節整っていながら身勝手、だが冷静で侮れない男とされている。その時点で気に食わないが自分の前では普通の少年のように振る舞っているということも輪を掛けて感情を加速させていた。
「どうしたんです、かね?」
「そのわざとらしい辿々しさをやめろって言ってんの! 即刻口を塞ぐかマトモに会話するか選んで。」
「ちょっとよくわかりませんけど。うーん、困ったな。」
嘘だ。
表情も雰囲気も完全に困惑している少年のそれ。だが戦いの最前線でこの雰囲気を出せるのは絶対に無理がある。
間抜けさじゃない、戦いに抗うような気配。これを纏えるなら只者ではないはずなのだ。
「私、あなたのこと信用できないんで。早いとこ立ち去ってもらえると指揮に支障が出なくて済む。」
「はぁ、そうですか。」
そのまま軽快な足取りで去っていく勇者。
女騎士はこの男を凡夫であると思いたかった。だが想定以上の妖しさに、別れたのちも不信感を募らせるばかりだった。これは……統帥が兵として用いたがらないのも納得だ。