05 大勢の転換点
宰相一団は困っていた。
異世界からせっかく召喚した勇者がどうにもコレジャナイからである。
「そもそも強過ぎるにしたって自分の力に動揺するもんじゃないですかねぇ!」
吠えているのは近衛兵総長の男。
彼が言っているのはいわゆる異世界転移時に転移者に付与される圧倒的能力のことである。強いのは良い。強過ぎるのは少々困る。だが規格外という枠ですら破壊する問題児、かの勇者に関しては皆同じ心持ちだった。
「『私は何もしておりません。申し上げるならば近衛兵様方の万端に敷かれた戦闘準備にささやかな力添えをさせていただいたまでです。みなさま、ありがとうございます。』右も左も判らぬ世界に転移させられた異邦人のしかも少年が言う言葉じゃないでしょうが、これは!」
宰相自身もかの勇者にはなんとも言い難い思いを抱いている。
問題がなさ過ぎるという大問題には呆れ果てるほかない。
「そう、そうだな。これでは」
「これでは異世界人の力に頼り縋ろうとした我々がまるで未開人じゃないか!」
穏健に済ませようとした宰相を遮って王国軍統帥が叫ぶ。
だが、これに反論する声は各内政大臣からも出てこない。
「くそっ、勇者なんて必要ない。我が軍は独力での逆転劇を画策するべく動かせてもらうぞ。あんなクソガキに礼節を見せつけられて我々が何も自助努力をしないでいると思うなよ。」
吐き捨てるように言って軍靴を鳴らし去っていく統帥。
召喚された少年の影響による世界変革への道が二日目にして既に始まっていた。