04 勇者の対応力
「殿下、お下がりください!」
言うや否や守るように妃を取り囲んでそのまま退路を確保する近衛兵。素晴らしい練度により奇襲中の奇襲でありながら即座に対応してみせた。随行していた兵の士気も高い。数人ずつ束になって魔族連中へ飛びかかっていく。
だが、それよりも圧倒的に早く、そして速く、この勇者は行動を開始していた。
「えー、あー。」
高速回転している頭脳に口がついていけず、不安を煽るような連続音と化した声を上げながら猛然と壁に向かって両手を振るう。今度は勇者によって破壊される荘厳な青色の壁。
その場の全員が気づくよりも先にその一連の動作は行われた。
壁の中の発光する青い石を核として成長していく剣の形。再度両手を振りかぶって壁の中から現れたその両手にはしっかりと『青の勇者の剣』そのものが握られていた。
諸刃の剣身は水のように透き通り、柄は黄金色に輝いている。刀剣職人ならば誰もが夢見る伝説の剣を、勇者は躊躇いなく投擲。再度形成。再度投擲。
長い回廊に打剣の音が何重にもなって重く響く。
その僅かな間に、現れた全ての敵は全身を破壊されて息絶えていた。
勇者が何かをしたのだろう。
近衛兵たちにはそれしかわからなかった。
襲撃してきた相手と切り結ぼうとした直後に敵が全身を損壊された姿で崩れ落ちる。そんなことはまさしく未知の経験だった。