2/60
02 伝説との食い違い
彼はゆっくりと片膝をつき、前傾姿勢となってその場に控えた。それは確かに礼節に則った宮廷仕草ではあったが……
「勇者様、どうして我々の世界の作法を既にご存知なのでしょう。」
訝しむような目で王の側から老宰相が尋ねる。
「女神様のお告げにございます。」
すらりと少年が答える。
が、相変わらず彼の不審さは消えない。
無理に作られたような表情、姿勢、雰囲気。
「ふむ……。」
普段なら優柔不断な王も疑念を呈し始める。玉座から側女へ幾つか指令を囁いたのち、やがて返ってきた王下審議会の結論を広間の皆へ通達した。
「皆のもの。我々は通常にない手段で魔王軍へ対抗出来うる人物を召喚した。しかし彼の様子は伝え聞くものや研究結果として挙げられていた勇者殿のそれではない。したがって本来ならば即刻王都防衛網に組み込む予定であったが数日間の猶予をもって彼の正体とその真価に今一度向き合おうではないか。」