12 交渉
「単刀直入に申し上げます。停戦を願いたい。」
「見返りは。」
「現時点での被占領地域を新国境と認めます。」
「なるほど、なるほど……。」
魔王は考える。このまま進撃を続けて汎人国家を押し潰したとして。敵がいなくなった以上、今度は大魔亜連合で内紛が発生することは確か。
ならば攻めあぐねている現在の状況を利用して「講和せざるをえなかった」とし、敢えて外部の敵勢力を残しておいた方が良いのは明らか。
……と、ここまではあくまで汎人側の勝手な分析。願望の含まれた、しかし現実的な落としどころとして一蹴されることはないだろう提案。
「軍団大参謀、どう思う。」
勇者の隣の位置に控えている褐色女が答える。
「気に入りませんな。」
「ほう、何故だ。」
「我が軍の絶対的優勢は覆りません。この状況で相手の持ちかけてきた講和など一蹴して当然。むしろ受けた場合、恐れながら魔王様の判断能力を臣下が疑うこととなりましょう。」
「聞いての通りだ。お帰り願おうか。」
それを受けて勇者、短剣を捨てる。そして空気中で手を一振り。短剣に変わって手にしたのは真紅に発光する長槍。
「大参謀ともあろうお方が見たいと仰るならば見せて差し上げる他ありませんね。貴軍の絶対的優位を覆せる存在が汎人側に現れたことを。」