10 魔王城単独突入
単身、平野を抜けて国境先の大荒野へ走る。
走る。
走る。
この勇者には休憩など必要ない。この世界の物理法則は魔法によって一部歪んでいる。その不可思議な現象を一つ一つ捕まえて自分のエネルギーとしているのだ。
さらに魔王城への道も既に把握済み。女神による演習は実世界を再現した広大な仮想大地で行われていた。
王城──魔王城間の反復移動などは、もちろんお手の物である。常人ならば五体がバラバラになりそうな速度でひたすら突貫。
そして。
大岩壁へドガンと一撃突入、直後に力の向きを変えて上へ、上へ。目指すは魔王城最上階。
そう、彼は僅か数時間で数百キロの向こうまで到達したのだ! そこに格好良さなど微塵もなかったが効率的なのは疑いようがない。
唐突な衝撃に魔王城内は大恐慌に襲われた。この地は地震も起きない安息地。難攻不落と呼ばれた大城壁に空いた大穴を、外にいた魔族の多くが目にした。そのときのざわついた声も拍車をかけてくる。
「なんだ、なにが起こったと言うのだ。」
厳かに言う魔王の額にもうっすらと汗。
「目下確認中です、陛下。」
「しかし万が一があります。御出立の準備も──」
「その必要はありません、大魔王殿。」
勇者、最上階にて魔王と邂逅……!
片や元一般人の少年勇者、片や知恵と力の結晶たる魔族の長、黒光りする双角に筋骨隆々を備えた魔王。
だがこのとき、彼ら二人以外の者は凍りついたように動けない。魔族特有の感覚だろう。この勇者、只者ではない──!