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ショートショート4月~

疑似恋愛

作者: たかさば
掲載日:2020/04/12


「ねえ、あなた、恋をしたことがないと聞いたわ」


「ええ、僕は恋を知りません」


「誰かをいとおしいと思ったことはないの?」


「ただ漠然と、かわいいなとか、話が合うなとか、そういう気持ちを抱いたことはあります」


「恋をしたいと、願うの?」


「願いません。そもそも僕は、ひとが苦手で、一人でいるほうが気が楽なんです」


「一人で不安に飲み込まれてしまうことはないの?」


「不安は、自分ひとりで向き合い、認め、消化することができると思っているのです」


「ねえ、あなた、私と、擬似恋愛をしましょう」


「擬似?必要ないですよ。僕は一人がいいと心から願っているのです」


「じゃあ、すこし、私のゲームに付き合って?」


「ゲーム?」


「そう。擬似恋愛をしてみて、あなたが恋を知れるかどうかの賭けをしましょう」


「賭け?僕は何をしたら勝ちで、何をしたら負けなんですか」


「あなたが恋を知れたら、私の勝ち、あなたが恋を知れなかったら、私の負け」


「勝ったら何かもらえるんですか?」


「勝ったら、あなたは自分が独りでいることに対する、絶対的な自信を得ることができる」


「負けたら?」


「負けたら、あなたは誰かと共にありたいという、本音を自覚することができる」


「意味のない勝負を、僕に受けろというのですか?」


「意味がないと決め付けているの?」


「僕はすでに自分で答えを出しているし、誰かに気持ちを乱されたくないのです」


「心乱され、気持ちが揺れる、それが恋だと、あなたは知っているの?」


「恋は、知りません、しかし・・・」


「いつまでもうじうじと過去を振り返ってばかりいるあなたに、変わるきっかけを与えたいと思うのだけど」


「自分の生きてきた道筋を辿って、懐古することを、他人に否定されたくありません」


「懐古?それは本当に懐古なの?回顧ではないの」


「回顧、なのかも、知れない、そこに良い、印象が、確かに、ない、から」


「懐かしく思うことと、囚われることは同じと考える?」


「考えて、いるかもしれません」


「一人で弱音を吐いて、一人で克服して、一人で満足しているひとはたしかに多いけれど、ここには私がいるのだから」


「恋を擬似で体験して、愛を得ましょう、ね?」


「そもそも、愛というものが、よくわからないのです」


「愛はあふれているけれど、ただあなたが気が付いていないだけだと思うわ」


「そうでしょうか」


「ひとはね、愛がたくさん詰まった如雨露を持っているのよ」


「如雨露?またえらく即物的な表現をしますね・・・」


「そう?わかりやすく説明しようと思うのだけど」


「如雨露は、その人の愛が詰まっているのよ。大きさは、ひとまちまち」


「誰かに、その愛を降り注ぐと、中身は減っていくの」


「惜しみなく愛を降り注ぐひとがいるわ」


「誰にでも、愛を降り注ぐから、誰からも愛を返してもらっているの」


「惜しみなく愛を降り注ぐひとがいるわ」


「でも、誰からも愛を返してもらえない人もいるのよ」


「返してもらえない愛でもいいからと、惜しみなく与え続けているの」


「とんでもなく、大きな如雨露の持ち主なのか、ただの馬鹿なのか、どっちなんでしょうね」


「もらった愛を、如雨露いっぱいになっているのに、誰にも与えず、溜め込んでいる人もいるの」


「よほどの業突く張りなんですね」


「それほどまでに、愛に飢えた生き方をしてきたとは、考えられないかしら」


「減った愛は、誰かに注いでもらわなければ、増えることがない、から?」


「そうね。減ってしまったらいやだから、出し惜しみする。」


「減り続けたら、枯渇するときが来ると思います」


「枯渇する前に、誰かから注いでもらえばいいのよ」


「僕の如雨露には、愛はありません」


「出し惜しみをしているだけなんじゃないの?」


「してない。もらったことがないんですから」


「如雨露の中身は、自分で確認できると思う?」


「わかりません」


「あなたは、今まで、愛を、誰かに分けたことはある?」


「ありません」


「じゃあ、私が今からあなたに、愛をあげる」


「そんな・・・簡単に与えるものじゃないでしょう、愛って」


「あら、やっぱり、あなた、業突く張りじゃない」


「もらうことばかりに執着して、与えることを拒否していると、私は感じたわ」


「僕の中には、愛がないからです」


「あなたは、そう、信じているのね?」


「事実です」


「私は、あなたをとても繊細なひとだと知っているわ」


「みんなの、いい人、であることも、知ってる」


「当たり障りのない人、で、通っているからね…」


「誰にでも、寄り添って、その人の意見を肯定し続けているものね」


「誰かの意見を否定したら、軋轢が生まれてしまうと思っているので…」


「それは、愛を与えているのだと思うのだけど、違うかしら」


「僕の与えているのは、相手のほしい言葉であって、愛ではないから、返してもらう愛はそこにありませんよ」


「感謝、うれしい気持ち、そういうものが、少しづつ、あなたの如雨露にたまっているとは、思えない?」


「それは、愛なんでしょうか」


「愛だと、私は思うのよ?」


「・・・。」


「恋をしたら、愛のやり取りが頻繁になるの」


「もらったら、ちゃんと返してあげて」


「もらいっぱなしでは、相手の如雨露が枯渇してしまうかもよ」


「枯渇したらどうなりますか?」


「愛をくれないあなた以外のひとから、愛をもらいに行くのよ」


「あなたに恋をしている相手なら、どこかで注いでもらった愛を、注ぎ続けてくれるかもしれない」


「あなたが愛を注がないなら、このひとは私に愛を注いではくれないんだと、消えてしまうかもしれない」


「この人に愛を注ぎたくないと相手が思ってしまったら、恋は終わる」


「僕は、恋すら始まっていないということですね」


「恋を知らないと、言っていたじゃない」


「注ぎたいと思うひとがいないんです」


「私に注いでみてと、私がお願いしているのに、注いではくれないの?」


「君には、注げません。僕の愛は、枯渇しています」


「本当に、枯渇しているの?」


「わからない、です」


「あなた、言い訳が多いわ」


「そんなことはないと思いますよ」


「私は何一つ、あなたを否定していないのに、あなたは私を否定してばかりいるのね」


「そんなことは、ないですよ」


「あなたは、誰かの意見を受け入れる心の広さを持っているの?」


「いつも僕は、誰かの気持ちを、受け入れているよ」


「それは、肯定の言葉を待っているひとに、望む物を与えているだけではないの?」


「ほしがる言葉を与えて、安心感を齎すのが、僕の役目だと思います」


「否定したらかわいそうだと、勝手に決め付けて、意見を捻じ曲げて?」


「僕の意見は、その人は求めていないんです」


「あなたの意見で、また違った選択肢が増えるかもしれないのに?」


「僕は、誰かの道筋に介入するつもりはないんですよ」


「自分が、自分の道を進みたいから?誰にも介入してもらいたくないから?」


「自分の世界を、荒らさないでほしいと思います」


「誰かと、言葉を、愛を、交わすことで、自分の道が新たに発見できるかもしれないのに?」


「・・・僕には、必要ありません」


「誰かに愛を与えて、自分にも与えてもらう。そのやり取りが、できないの?」


「できないから、僕は一人、ここにいる。」






僕の中から、擬似恋愛の、相手が消えた。


消えた後、僕の中に残ったのは、喪失感。


ああ、消えて、しまった。


この、もったいなかったと思う僕の心は、もしかしたら、恋のかけらなのかもしれない。


僕は、確かに、擬似恋愛から、少しだけ、恋を学んだ。


論破することに着目して、小さな恋愛のかけらを、つぶしてしまった。


僕は、何と戦っていたんだろう。


自分の矜持。自分の考え。自分の思い込み。


自分の中の誰かではない、僕以外の誰かと、話がしたい。


話が、したい。


話が、したい。


話を、させてください。


話を、したいんです。


誰か、僕と、話をして下さい。


誰か、僕と、恋をして下さい。


誰か、僕に、恋を、教えて下さい。


僕は、誰かに頼ろうとしている。


誰かに頼りたいと思い始めることができたのは。


間違いなく、擬似恋愛することができたから。


ああ、この勝負は、僕の負けだ。



ふらふらと立ち上がり、スマホを手にとって、僕は。


# 僕と恋をして下さい


引っ込み思案の僕にしては、考えられないような、呟きをする。






返信は、まだ、ない。


返信の来る日を、待っている。


この。待ち焦がれる気持ち。



これこそが、恋、なのかも知れない。



僕は、恋が、したい。


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