王国サイド『勇者の”烙印”』
グランドスラム王国――
――剣の間
王は感嘆の余り、叫んでいた。
「おお!ついに、救国の英雄が!勇者がぁっ!」
伝説の剣・サダーンの前に光が収束していく。
今まさに、勇者が現れようとしていた。
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
そして、猛々しい雄たけびと共にその者は現れた。
――――漆黒の翼と禍々しい呪詛をその身に刻まれて。
「えっ」
「えっ」
「う……ぐっ、お、れは……」
「の、のう、神官。本当にあやつが救国の英雄なのか?」
「い、一応は……」
「本当に?」
「で、伝説の剣の前に召喚されましたし……」
「確認してくんない?」
「私がですか!?」
「あの人、怒ったら怖そうだし、儂、王だし」
「お言葉ですが、王だからこそ、王直々に聞かれるべきなのでは?」
「えー嫌だよ、怖い」
「怖いって……私だって怖いですよ!」
「言うこと聞けよー、王だぞ、儂」
「それずるいですよ!」
「ずるくなーい。王だからずるくなーい」
「……おい」
放置されたまま、痺れを切らした恭弥が二人に話しかけた。
「ほ、ほら!怒ってるみたいだから、早く行ってよ~」
「嫌ですよ~怒ってるんだったら~」
「おい!聞いてんのか!」
「ほら、本格的にキレ始めたって、早く行ってよ!あとで、お菓子あげるから!」
「もう!お菓子絶対ですよ!」
「うんうん、あげるから早く早く!」
「ハーゲノゲッツーですよ!」
「ちょ、高級アイスはずるくなーい?!」
「ずるくありません!」
「いい加減にしろよッ!!!」
ついに恭弥の堪忍袋の緒が切れた。
「「は、はいっ!!」」
「どっちでもいいから、来い!今すぐ!」
なおも神官と王は互いに目配せしている。
「早く!」
「……は、はいっ!」
諦めたように神官が恭弥の元へ走っていった。
「な、なんでございましょう?」
「ここはどこだ?」
「グランドスラム王国の城内にある剣の間でございます」
「グランドスラム王国……?」
「ご存知ないと思いますが、説明しますと……貴方にとって、”異世界の王国”になります」
「異世界?なんで、そんなところに?」
「それはそのーー……我々がお呼びしました」
「なんのために?」
「は、はい、素養のある者を。救国の英雄、勇者様として呼び出し、王国を世界を救ってもらいたいと思ってですね……」
「……英雄?……勇者?」
「はい、それでですね……大変失礼ですが……勇者様、ですよね?」
「え?」
「いえ、ですから……きゅ、救国のえ……」
神官の語尾は段々小さくなっていた。
だから――
「はい?」
恭弥は聞きかえしただけだった。
だが――
「あ!やっぱりそうなんですね!」
神官はイエスだと受け取ってしまった。
「え?」
「王!やっぱり勇者様でした!」
「おお!そうかよかった!今日は宴じゃあ!」
「……お、おい?」
無邪気にはしゃぐ二人を見て、恭弥は引いてしまった。
(俺が勇者……英雄?……世界を……救う???)
(本当か?)