友達、ということ
「じゃあ、後で集合な、つっきー。」
「うん、ありがとう。」
芹那さんには、しばらく待ってもらうことにした。
帰りの会の後、屋上前の、階段で彼を待つ。
「……。」
彼だ。
「霧崎くん、まずここにきてくれてありがとう。」
「……。」
相変わらず、何も話そうとしない。
表情も変化しない。
いつもの無表情だ。
「その……、そろそろ聞いておきたいの。」
背中からは、ガラス張りのドアからの日光が差す。
彼の白髪が煌めいた。
「つまり、あなたがしていることについてなんだけど……。」
しかし、ここで一つの問題があった。
そう、彼の使う不思議な力、あれをどのように聞けばいいのか、だ。
「(『超能力は超能力と言う言葉があるから、それは超能力なの??』って聞けるのよ。)」
彼がしていたことは、一体、どんな原理で、どんな力なんだろうか、と。
彼は何も言わずに、ただ、まっすぐと私に視線を向けている。
紅い瞳だ。
でも、私も覚悟してきた。
「この前の、部活紹介の時、ボールが飛んできていたのだけれど。」
「ああ……。」
「あの時、どうやってボールを止めたんですか。」
「なるほど……。」
「え……。」
今、なんて。
彼、なるほどって。
どうしようか、質問に対しての答えになっていないような……。
落ち着こう。
そうだ。まずは彼の立場を明確にしよう。
「やっぱり、私に教えることはできませんか。」
ゆっくりでいいんだ。
あの力の正体、そして、彼はいったい……。
「……説明を行ってもいい……。ただ、そちらの時間がなさそうだが……。」
彼はしゃがれた声で言った。
最近、杖を突かなくなった。
頭や手には相変わらず包帯が巻いてあるけれど。
快調に向かっているのだろうか。
それでもやはり、喉はなかなか治らないのだろうか。
「いったい、どういうことですか……。」
気が付くと、立場が逆転した。
文字通り、物理的な立っている場所だ。
いつの間にか、彼が階段の上にいる。
彼の背からは日光が差し、眩しかった。
私はとっさに辺りを見渡した。
さっきまでは、彼が立っている場所に、私がいたはずだ。
「つっきー、そろそろ帰らない??」
芹那さんだ。
どういうことだろう。
まだ、5分も経っていないはずだ。
「芹那さん、どうしたんですか。」
「つっきー、10分くらいで話し終わるって言ってたじゃん。でも、なかなか来ないからさ、学校中走って探したんだよ。」
「え、芹那さん、すいませんが、何分くらい経ってますか。」
「えーっと、帰りの会が終わったのが、4時45分だから……。」
後方の時計を見る。
時刻は5時15分だった。
「ほら、だからさ、30分くらい経ってるし、つっきーに何かあったのかなって。」
おかしい、やはり、何かがおかしい。
私の体感では5分も経っていない。
これも、彼の力なのだろうか。
「芹那さん、ごめんなさい、忘れていたわけではないのだけれど、思ったより長くなってしまったみたいで……。」
どうしよう、時間がこんなに早く経つなんて。
正直、一番接点のある同性だからか、涙が出そうになってきた。
嫌われたくない。
「いーのいーの、これくらいなら。つっきー、そろそろ行こ。」
「え、でも、霧崎くん……が。」
振り返るとそこには誰もいなかった。
「……誰もいないよ??」
「……、そっか。」
もう、疑う余地はない、と言うことよね。
私はそう受け取らせてもらうわ。
そして、芹那さん、ありがとう。
貴女に直接言うのはまだかもしれないけれど、今日はあなたのやさしさに助けられた気がします。
私は芹那さんと一緒に下校することにした。
約束のクレープ屋を目指して。
「つっきーさ、委員長になってから、何か悩んでない??」
「……ん、そうかも。」
「でも、変わったところもある。」
「……そうかな?」
「うん。前なら多分、悩んでないって聞いても、何でもないって、答えてたと思う。」
「あ……、そうかも。」
「他人がどういうかは知らないけどさ、私はいい変化だと思うよ。」
「そ、そうかな……。」
「うん。だからさ、話くらいなら聞くよ??」
「ありがとう。」
時間も少し遅くなった。
小麦色に焼けた肌が夕日に照らされて、輝いて見えた。
芹那さんの、笑顔がまぶしい。
彼女はいつも全力で生きているように見える。
だから、夕日を背に笑う彼女の笑顔は眩しく、満面の笑みと言えるだろう。
「そういえば、つっきーは何にするの、クレープ。」
「うーん、チョコバナナでどうでしょう。」
「じゃあ、私は抹茶にしようかな。」
今日、一緒に食べたクレープは、きっと思い出になると思います。
「あ、食べる前に写真とろっか。」
後日、メールで送られた写真には、笑顔の私がいた。