変わる彼女と揺れる心
結局、謎は深まるばかりだった。
霧崎くん……、彼はいったい何者なのだろうか。
午前の授業、今は国語。
教室の窓からは、朝日が差している。
不思議な感覚だ。
私が知っていること……。
数日前に転校してきた、男子……。
それくらいしか……、思いつかない。
もちろん、学校を案内したりはしたけれども。
もしかして、他の人たちは私以上に彼のことを知らないのではないだろうか。
お昼でも、授業中でも、篠崎くんが誰かと関わっているところをあまり見ていない。
しかし、私がいろんなことを知っているのかと言うと……、そうじゃない。
何か怪しい雰囲気を感じる。
前方では黒板に古語が並べられていく。
今朝の出来事を思い出す。
時計のほうを眺めても、今は秒針が動いている。
壊れているわけではなかったのだろうか。
正直、今も朝、私に起こった出来事はよくわからない。
何かが曖昧だ。
そう、確証がない。
全てにおいて。
いくら時間が遅く感じても、実際に時計で計ったわけじゃない。
『……ンチ……、……ールド……。』
はっきりと聞こえたわけじゃない。
この前の『おまじない』だって、本人がおまじないと言ってしまったのだから、科学ではわからない、何かなのだろう。
それこそ、気休めのおまじない……、とか。
思考とは裏腹に表情は少し険しい。
何か苛ついているのだろうか。
彼、霧崎くんと関わるほどに、彼の正体がわからなくなる。
不思議な出来事が、多すぎる。
私はいったい何がしたいのだろうか。
でも、気になる。
おまじない……、もとい、不思議な力が気になる。
「それでは、今日はここまで。」
午前の国語が終わった。
考え事をしすぎて、番所を取れていない。
日直が消してしまう前に、ノートに書き写そう。
……彼はどうやら、廊下の方に行ったらしい。
次は昼食の時間。
屋上に行ったと考えるのはおかしいだろうか。
人と関わりたがらない彼なら、行きそうなところだ。
でも、彼のことを知りたいからと言って、どうすればいいのだろう??
同性でもあまり関わりの少ない人には話しかけずらいのに、霧崎くんは……。
板書を書き終わった。
お弁当はある……、でも……。
「つっきー、お昼にしよう!!」
「うん。」
……こういうといもあるよね……。
午後の授業は体育だ。
掃除の後に、二時間ある。
夏のこの時期はつらいものがある。
特に、私は……。
やりたい種目ごとにグループでわかれ、数種目を行う。
男子は室内ならバスケットボールか卓球、室外なら野球かサッカーだ。
女子はバレーボールか卓球、室外に出たがる人はいないようだった。
大体そうよね。
運動部の人は女子でもバスケットボールかバレーボールをする。
運動苦手な娘は卓球に行く。
どこの学校でもそうじゃないだろうか。
私は一応、少しばかりは動けるということで、よくバスケをする。
「つっきー、行くよ!!」
「はいっ!!」
芹那さんと、ね。
いつもお昼には来てくれるし、体育でも一緒に授業を受けている。
私の少ない友達の一人。
つっきーと私を呼ぶのも、彼女が最初、始まりだった。
ディフェンスに囲まれてしまった。
「ならこっちっ!!」
「ナイッシューッ!!」
「いいぞ、つっきー!!」
運動や人と関わるのが苦手だった私も、何とか買われているのは芹那さんのおかげ……、かもしれない。
授業終わり、体育すわりをしていると人差し指から出血しているのを見つけた。
ボールで擦りむいたのだろうか??
「つっきー、行こう。」
「うん。着替えたら保健室行ってくるね。」
「どした??」
「怪我でもしたの??」
「うん、ボールで指を切っちゃったみたい。」
「あー、バスケはパスで回すからね。」
「うん。ちょっとばんそうこう貰ってくる。」
「わかった。」
「あ、そうだ。今日帰りにクレープ食べて帰らない??」
「うん、いいよ。」
「へへ、それじゃあ、教室で。」
「うん。ありがとう。」
一緒に着替えた後、保健室へ行った。
制汗剤のブルーアップルの匂いを纏って。
「すいません、体育で指をケガしてしまって、ばんそうこう貰えますか??」
「はーい、ちょっと待ってね。」
保健室の先生は慣れた手つきで消毒してくれた。
少し染みる。
絆創膏も巻いてもらった。
「うん。これで大丈夫。軽いけがだけど、気をつけてね。」
「はい。ありがとうございます。」
保健室から出ようとした、その時。
……霧崎くんだ。
「霧崎……くん……。」
今朝から考えていたことと、突然の出現に戸惑い、名前を口にしていた。
「……ケガしたの……??」
「え……、えぇ。ちょっと擦りむいちゃったみたい。」
「……。」
すると彼は、私の指を自分の人差し指で指しながら、何かを唱えた。
青白い光が起こり、消えた。
まただ。
彼のすることは、何をしているかすらわからない。
不思議な力だ。
「い、今のは……。」
「……おまじない。傷、早く治るといいね。」
これまで起こったことが、不思議だった。
『……ンチ……、……ールド……。』
そして、質問をはぐらかした彼に怒ったのか。
『エルホ……ラング……。』
去っていく背中を見て、思わず絆創膏を剥がした。
「……?!」
衝撃だった。
「き、霧崎くんっ!!」
彼はゆっくりとこちらを向いた。
「お話があります。」