1/34
異世界よりの使者
小さいころ読んだ絵本にはたいてい夢が詰まっていた。
森にすむ精霊使い、空を飛ぶ馬、火を吐く蛇。
一体いつからだろうか、そういった類のモノを信じなくなったのは。
セミが鳴いている。
「おーい、朝の会始めるぞ。」
男性教師の声が響き、姦しい教室も静かになる。
「と、その前に、だ。」
教員の眼鏡が、日光を反射する。
「今日はみんなに紹介する人がいる。転校生だ。」
教室は再び皆の声で埋まる。
「この時期に転校してくるって、何かわけありかな?」
「かっこいいといいけどなぁ。」
「えーっ、可愛い娘がいいかな。」
「はい、静かに。それじゃあ、入ってもらおうか。」
「さ、入って。」
「……始めまして。」
先刻の皆の期待は裏切られることになる。
教室に入ってきた男は、松葉杖をついていた。
それだけではない。
眼帯に、顔の大部分を覆う包帯、四肢にも何らかの処置が施されているのが、明らかに見て取れた。
その一見して異質な存在に、生徒たちは黙ってみることしかできない。
その生徒はそれ以上の説明をしなかった。
セミが鳴いている。