逆ハー追い出し8
「な、なぜだ!ここでその女を捕らえ、城の周りに居る兵がこちらへやって来る手はずだったろう!?」
つまり、その兵達を使って権力を我が物にせんと企んでいたのだ。
それが、エーリュジョン北候の由岐の捕縛拒否によって第一歩が狂ってしまった。
「何故って言われてもねぇ・・・。それに、貴方が言う兵とやらは誰の兵の事をいっているんですか?あいにく、うちの兵士達はそんなものの為に居る訳じゃないんで、勝手に命令されても実行しませんよ?」
「そ、そんな・・・」
アルスの計画では、エーリュジョン北候の兵が城の周辺を警備するというのでそれを利用し、由岐を王妃という地位から追い落とした後、一気に城へと雪崩れ込ませて上皇に自分に権力を全て譲ると言わせるはずだった。
それをエーリュジョン北候も了承した・・・はずだった。
混乱するアルス。
愛花も、何が起こったのかよく分からなかった。
あの由岐という女が捕らえられるはずだった、ということは分かったのだが・・・。
この、アルスと話していた金髪の男が何かをした、ということか。
愛花はじっとエーリュジョン北候を見てみる。
アルスにも負けないぐらい・・・いや、それ以上に愛花の目を惹く容姿を彼はしていた。
元々あまり城まで出向くことは無く、その顔も自身の領民以外に見せる事などほとんど無かったエーリュジョン北候をこの場で初めて見た、という者も幾人かはいるだろう。
「あ、貴方、本当にそのエーリュジョン北候?って方なんですか?私、貴方の事見た事無いです。まさか・・・アルスを騙すために?」
ここで愛花は、自分がほとんどアルスと共に過ごしていたため、他の人間との接触が限られていたことなどすっかり忘れていた。
自分の世話をしてくれるメイド数人と、警護として愛花に付き従っていた兵士が一人、そして、アルスにお忍びで連れられた城下町で対応してくれた店員ぐらいしか、まともに自分と話したことが無かったのだと。
前国王である上皇と、その妃すら、今初めて出会ったのだと。
「・・・随分失礼な女ですね。こんな女が良いだなんて、やはり貴方は国王になれない器の様だ」
気分を害した様子を隠すこともせず、エーリュジョン北候は愛花を蔑んだ目で見た。