逆ハー追い出し5
「・・・あんたが信じれんでも、カイがリンの実に選ばれたのは事実。それに・・・あんな一晩中盛ったらそら子どもやって出来るわ」
思い出すのも嫌だ、と言う様に由岐は吐き捨てた。
それは、この城に居る者全てが知っている事だった。
リンの実を持って来ることに成功し、国王の伴侶となる資格を得た由岐だったが、その時既にアルスと婚姻を結ぶつもりの無かった由岐と、リンの実を持って来た者と婚姻を結ぶ事で王位を継げるアルスの望みが重なることは無く。
元々自分が国王になるのだと信じて疑わなかったアルスが、自身の望みを優先させ、由岐という異世界人を召喚する事の意味を考え無かった結果が、無理矢理由岐と体を繋げるという事だった。
当時、いつもなら朝早く城の図書室にやって来て、上級魔術師のジャンから色々な事を教わっていた由岐が来ないというので、ジャンや由岐と親しい侍女のマリエ、共に朝食を取る約束をしていた王妃が心配して探していた。
そこへやって来たアルス。
由岐を見なかったか、と尋ねたジャンの言葉に、アルスはにやりと笑いながらこう言った。
「あの女なら、俺の部屋で寝ているぜ」
その時、マリエには何故か嫌な予感が湧き上がっていた。
元々、由岐がアルスとその様な関係になる事は無いだろうと考えていたのだが、アルスが国王となるためには由岐との婚姻が不可欠だ。
かといって、アルスが由岐に対して想いを寄せている訳でもない事は周知の事実でもある。
政略結婚、というのも手ではあるが、ここリューヘルス国に限ってはそれは許されないことだった。
きちんと想いが通じ合っていなければ、国王の証たるリンの実は輝かないのだ。
それは、このアルスもきちんと知っているはずなのだが・・・。
気付けば、マリエは駆け出していた。
背後でアルスが何か喋っているようだが、マリエには聞こえない。
そして、アルスの部屋に辿り着いたマリエの目に飛び込んできたものは・・・
一連の出来事は、城中の人間が知る事となった。
アルスの所業に、王妃はもちろんの事、国王も激怒したのだ。
王位を継ぐために必要なのは、リンの実だけではない。
そのリンの実を青く輝かせ、自身の伴侶となる者を心底愛する心が必要なのだ。
もちろん、召喚された異なる世界の人間というので互いに戸惑う事もあるだろうが、リンの実の獲得という困難な道を共に切り抜けることで生まれる“愛”が、リューヘルス国を導くのだ。
当時、アルスが王位継承の有力候補であったため、それ相応の便宜を図られていたのだが、それがアルスを増長させた。
由岐がリンの実を持ち帰って来てしまった事もそれに拍車をかけ、このような事件を起こしたのだ。