逆ハー追い出し3
「まず、リンの実。言い伝えとかやったら湖の底の神殿にあるってなっとるけど、実際は違う。霊峰フィッツルースの火口にある、たった一本の木からしか採れん」
そこに至るまでの道のりが、国王の伴侶への試練となっている。
代々の伴侶達も、その試練を乗り越えて結ばれたのだ。
もちろん、由岐も・・・。
由岐の言葉に周囲がざわめく。
愛花の言葉より、由岐の言葉の方が彼らには真実に思えたのだ。
もちろん、由岐のそれまでの信頼も要因ではあるが。
「お前の言う事はデタラメだ!」
周りの様子に、アルスは叫んで否定した。
アルスがそうする事を予想していた由岐は、懐からあるものを取り出し、アルスや周囲の人間に見えるように掲げた。
「それは・・・」
愛花が目を見開いて呟く。
「これが本当のリンの実。そっちのと比べてツヤツヤしとるやろ?高温であっても失われんツヤ、これはリンの実が霊峰フィッツルースの力を蓄えとるけん」
その聖なる力が、国王と伴侶に幸運をもたらすとされていた。
由岐にも訪れるはずだったのだが・・・。
「それに、リンの実には特徴がある」
そう言って、由岐はリンの実をアルスへと投げた。
「何を・・・くッ!」
突然の事に驚くアルスだが、リンの実を難なくキャッチ・・・出来なかった。
リンの実が光り、アルスの手を拒絶したのだ。
リンの実はアルスの手を拒絶した後、カイの手元にやって来た。
カイが手を差し出すと、リンの実はその手にすっぽりと収まり、青い輝きを放つ。
その様子に、さらに周囲はざわめく。
そんな中、由岐は再び口を開いた。
「リンの実の特徴・・・それは、リューヘルス王国の国王を選ぶ事。国王に相応しい者が手にしたらリューヘルス王国の色の青色に輝いて、そうじゃない者は触る事すら出来ん。まぁ、国王の伴侶は別やけど」
そんなリンの実に拒絶されたアルス。
周りの人間はもちろんの事、愛花も驚くしかなかった。
自分が聞いた話とは全然違った。
リンの実の獲得云々はほぼ形だけのもので、大して重要な事ではないと言っていた。
本当なら、直ぐにでも自分とアルスは結ばれるはずだったのに・・・。
「うちは正直あんたが誰と結婚しようがどうでもええ。ただ、この子・・・カイがあんたの息子である以上、それなりの事はして欲しかった」
カイと会う事すら愛花が来てからは無くなり、由岐に対する態度も良いとは言えなかった。
自分一人ならまだ我慢も出来るが、カイにまで被害が及ぶのは許せない。
由岐が玉座を奪う決意をしたのは、そんな事が積み重なった結果だった。
愛花は最初から勘違いをしていた。
異世界トリップを果たしたのは自分のみで、由岐は自分がやって来るまでの身代わりだと。
愛花がやって来る前から由岐とアルスとの仲が冷え切っていたというのもあるが、周りの者も突然やって来た、本来ならば来るはずの無い“もう一人”の異世界人に戸惑い、由岐のことを伝えることをしなかった。
・・・愛花がやって来たときからアルスに囲われ、周りと接触する機会がほとんど無かったという事情もある。
しかし、城の廊下やお忍びで出掛けた城下町などで見て、違和感を持つべきだった。
色とりどりの髪をした人々が辺りを行き来する中、黒い髪を持つものが由岐のみという事に。
リューヘルス王国のある大陸に、黒髪の持ち主など王の伴侶となるために呼ばれた異世界人しかいない。
そんなリューヘルス国での常識を、愛花はアルスから教えてもらっていなかった。
自分から調べようともしなかった。
ただ、自分が国王の伴侶に選ばれ、由岐など自分の身代わりで、かつ自分に対して嫉妬する人物としか思わなかった。
伴侶になる試練という、アルスいわくほとんど形式的な、簡単な儀式を終えればそんな由岐が城から居なくなると思ったのに・・・。
周囲の目がなぜ冷たいのか、愛花には分からなかった。
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