それは事故だった
「台風が上陸するのが速すぎませんかねぇ。天気予報仕事しろよ」
佐藤和也は、窓を見ながら嘆息する。朝の天気予報では台風は翌日の朝に上陸する予定であった。だが、予報は外れて外は出れる様子ではない。
おかげで電車は運休になっていた。そのため家に帰ることができなくなった佐藤和也は、そのまま友達の家に居た。リビングで居座っていた佐藤和也は家の住人である友達にある事を頼む。
「すまん。家に帰れなくなっちまったから泊めさせてくれねぇか」
「ああ、そのことか。大丈夫だぞ、電車も止まってりゃ帰れる訳がないしな」
そして、台風が通り過ぎるまでそのままリビングで友達とかたかたとゲームをしていた。
友達の両親は出張しがちであり、今夜もまた帰ってこない。そのため友達が佐藤和也を泊めることは苦にならない。佐藤和也の方は連絡なく泊まるということは日常茶飯事なため、困ることはない。
時間を忘れてゲームに没頭していた二人はふと気づくと外の風は少し弱まっていたのかゲーム以外の音は聞こえない。
風が弱まったことに気づいた友達は携帯電話を取り出し、画面を付ける。
「あ、もう十時か。どうする。他に何かゲームを持って来ようか?」
「それでも良いんだが。すまん、何か飲み物あるか? 喉が乾いた」
床に座っていた友達は立ち上がり伸びをしながら佐藤和也に聞く。だが、その申し出を受け取る前に、しばらく水を飲んでいないことに気づいたために言う。
喉が乾いたと言う佐藤和也の言葉に納得した様子で友達は台所へ行く。五分しない内に友達はコップを二つ持って来た。中には透明な液体が並々と注がれていて、一歩間違えれば零れそうであった。
その様子を見て佐藤和也は少し驚く。
「かなり水入れて来たんだな。溢れそうになってるじゃねえかよ」
「そうそう。少し入れ過ぎちゃってね」
コップは机の上に置かれた。透明な液体は炭酸が入っているのか無色だが、泡立っている。
喉が乾いていたために、コップが置かれてた瞬間に溢れそうになっていた位の量を一気に飲み干す。
その途端、世界が歪んだ気がして疑問を口に出そうとするが言葉になる事は無く佐藤和也は床に倒れる。
「……え?」
友達はその様子を見て驚いて並々と注がれたコップの液体を見る。だが、いくら見てもそれはただの炭酸水の様にしか見えない。
気が動転しているのか友達は救急車を呼ぶこともせずに慌てて台所へ向かう。台所は先程夕食を作っていた道具が片付けられずに散乱していた。
「ええと、さっき入れたのは……」
放置された道具には見向きをせずに先程入れた液体が入っていたペットボトルを確かめる。ペットボトルの裏側には紙が貼られていて、書いてあった文字を読む。
「あ、やらかした。何でこんなものを見逃したんだ……」
友達は嘆息をして、リビングに戻る。
法律で定められているので事故が起きない様にして下さい。