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008. 教会スタート

 目覚めたとき、目の前には洋風の天球が広がっていた。


 いわゆる、知らない天井てやつだ。

 壁には非常に神々しいステンドグラスが張り巡らされている。


(最近寝てばっかりだな・・・)


「起きられましたか?」


 白髪(はくはつ)の清楚なシスターが笑顔で顔をのぞき込んできた。


「ここは・・・」


 体を起こしながら自分の体を確認する。

 魔王アバターの変装した状態だ。

 近くの袖机の上には俺のアイテム袋と、装備一式とみられるものが置いてある。


「ここは、王都レグルス内のマナリス教の教会です。貴方が狐の森にてダークウルフに襲われていたところを、騎士団の方々が助けて、傷を癒すために教会まで運んでくれたのですよ」


 周りにはいくつかベットがあり、俺と同じように癒しを受けている人達もいた。

 白髪のシスターの後ろには、空色の髪で小柄な童顔のシスターもいて、こちらを見ている。

 他にも、教会内には何人かシスターや神父がいるようだ。


「起きたばかりですが、お名前とご年齢、ご職業、どこに住んでいるのかをお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 白髪のシスターは質問してきた。

 

 名前? 年齢? どうしよう・・・

 リアルシスターに目を奪われ、何も考えていなかった俺はとっさに頭を回転させる。

 ステータス画面に年齢なんてない。出身地の設定もない。強いて言えば魔王城である。

 アバター名なんて "下半身 第三次" だ。言えたものではない。

 

 えっ? なぜそんな名前を付けたかって? 一時のノリと勢いだ。 


(レグルスの住人との初コンタクトになる。第一印象が大切だ)

 反応に困っていると、シスターは何かを察したかのように言った。


「ああ、私は"クレア"といいます。見ての通り教会のシスターをしています」


 クレアと聞いた瞬間、吐き気がした。

 なんだろう、最近トラウマになるようなことがあったような・・・?

 はっ!?もしかして、マンガとかでよくあるは吐き気を催す邪悪とはこのことか!


 続けて、後ろの背が低めのシスターが単調で冷静に言う。


「"エスティ"。よろしく」


 そして、貴方の番ですよと言わんばかりの顔で俺を見てくる。

 コミュ障の俺にとってこの状況はキツイ。

 こうなったら仕方ない。なるようになれ!


「わーっはっは! よくぞ聞いたぞ、シスター! 我は夜の魔王と称される者」


 とっさに思い付いたセリフがこれである。もう、どうしようもない人である。


 魔王という言葉に周囲のシスターと神父たちが一気に警戒した。


「落ち着いて。この人の職業は遊び人。夜の魔王とはつまりそういうこと」


 シスターのエスティがあきれたように言う。

 その言葉を聞き、周りにいた神父は警戒を解き、シスター達はさらに警戒(軽蔑)する目線を向けてくる。


 アイスブレイクのためのちょっとしたジョークを飛ばしただけなのに、第一印象は最悪だ。 

 俺は改めて言い直す。


「・・・私の名前は"あすか"、21歳だ。とある目的のために旅をしていた」

 

 頭の中で自分の設定を練る。

 

「旅人でありましたか。一応ですがどの辺から来られたのでしょうか?」


 シスタークレアが深く追及してきた。


 もしかして、今は何か緊迫したことが起きていて警戒しているのではないか?と感じた。

 そのため、無難に答えておく。


 「ふむ。前は"メオル"という国の繁華街で遊んでいたんだが、かわいこちゃんがいなくてな。平和なレグルスには初々しい子がいるだろと思い、旅に出たということだ!」


 自分で言って、誰だお前と思った。

 だって仕方ないんだもん。相手には遊び人と思われているのだから。

 ちなみにメオルはゲーム中ではここから一番遠くにある国だ。


 若干引き気味でシスタークレアは言う。


「(うわー)それで、こんなところまでわざわざお越しになったんですね・・・(この人キモ!)」

 

 所々で心の声が聞こえてくる。


「ところで、さっきから何か緊迫した空気を感じるんだが何かあったのかね?」

 

 俺は気になっていたことにあえて突っ込む。

 クレアさんは少し考え、言いにくそうに答えた。


「実は、狐の森に魔王が君臨するという予言がありました」


 魔王? ダレノコトダロウカ?


「あっ・・・あくまで予言なんだろ? お金欲しさとかに適当にでっち上げただけではないのか?」


 ちょっと動揺してしまったが一般市民らしきことを言う。


「いえ、それが大預言者"ニーナ"様の予言なんですよ」


 聞いたことのない名前だ。

 いや、ゲーム中すでに出てきた名前かもしれないが覚えていないだけだろう。なにせ、一般のNPCが言うことは特にイベントが発生するわけでもなかったため読み流している。


「へえー。預言者ニーナというのは有名な人なんだな」


「はい。ニーナ様は予言者という職業がないときから予言による人助けを行っていた人です。

昔は遊び人と同じ扱いを受けていましたが、修行を積み重ね、今では国からも頼られる預言者なんですよ(あなたみたいな人とは違って)」


 確かにゲームで預言者クラスが実装された当時は、遊び人の派生クラスであった。

 ニーナという人物は預言者クラスと深く精通しているのかもしれない。


「あっ! 遅れてしまったが、助けてくれてありがとう。感謝している」


 俺は丁寧にお辞儀をしてお礼を述べる。頭が低い日本人のクセが出てしまってた。

 クレアさんは笑顔になり答える。


「ふふっ。教会のシスターとして、けが人の癒すのは義務ですから。あなたのような人は助けたくなかったけど」


「おい、心の声出ているぞ!」


 クレアさんは何のことですかと言わんばかりのとぼけ顔をしていた。

 このシスター、腹黒なのかもしれない。



・・・・・・



 その後、クレアさんは引き続き俺の容態を確認し、シスターエスティは隣のベットに寝ている人の看病を始めた。


 俺はクレアさんから言われた通りに体を動かして異常がないか確かめる。

 

「体はだいぶ回復していますね。このまま復帰しても問題ないですよ」


 体を動かしていると、隣でエスティが癒しているの人がチラリと見えた。

 それを見た瞬間、思わず固まってしまった。


「どうかしました? 何か悪いところでも・・?」


 俺の目線からクレアさんは察して説明してくれる。


「ああ、そちらの方は平原の方で倒れていた冒険者さんです。ゴブリンにでもやられたんじゃないかって騎士の方がおっしゃっていました。あっ! 可愛いからってこんなところで手を出さないでくださいね」

 

 誰だ!? そんな雑魚にやられたやつは?

 そう、俺だよ!


 正確には、ダークロードにやられた「段ボールおじさん」のアバターであった。


「その方は、体の方は大分回復しているのようですけどなかなか起きないのですよね」


「おっ、おう」


 そりゃそうだ。中身はここに居るのだから。

 逆に起きていたら、中に誰が入っていますかということになる。


 とにかく、ここから離れた方がいいような気がする。

 ドッペルゲンガー的なものではないが、俺の感がそう言っている。


(よし、すぐさま退散しよう)


 机に置いてあった装備に早着替えをして、助けてくれたお礼として教会にささやかな寄付金を渡す。

 周りの神父とシスターにもお礼を言いながら教会を立ち去ろうとしたとき、クレアさんに止められた。

 

「あっ、ちょっと待って、アスカさん! この国に初めて来たんじゃないんですか? 食事するところとか泊まる宿とか大丈夫です? 今、王都は警戒が厳しくなっているから変な動きをしていたら疑われるかもしれませんよ?」


 確かにゲームの頃のレグルスの町は知っているが、このレグルスの町がそれ通りとは限らない。

 それに今は状況が悪い。ここは一つ助けが欲しいところ・・・


「よおーし、今日は若いシスター、クレアちゃんをつれて町に繰り出そう!」


「素直に町を案内してくださいと頼んだら?」


 ・・・この人、読心術でも使えるのかな?


いえ、アスカさんが単純(バカ)なだけです。

「クレアァァァァァァァ!!!」(ヴェイグ並みの声で)

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