003. 魔王城「イスターカーテン」へ《ようこそ》 さようなら!
まさか人がいるとは思ってもいなかった。
思わず言葉に詰まってしまう。
そこには、紺碧を基調としたメイド服の小柄な少女が立っていた。
体格に見合わない巨大な鎌を持ちつつ、人間ではない魔性の瞳を輝かせている。
魔王アバターで遊んでいた3ヵ月前の記憶をよみがえらせる。
この子の種族、クラスは覚えていないけど確か2層ぐらいに"リリーシュ"と名前を付けて配置していたけ?
(すごい、喋ってた! 動いている、口も瞳も手も!)
初めて見るリアルなメイドでもあり、昔にL〇ve2Dを初めて見たときと同じような興奮を持った。
・・・落ち着こう。冷静になれ!今はそれどころではない。
表情に今の心境が出ていないかを確かめ、
《すいません。ここはどこでしょうか?》
そう言おうとしたときである。
「ここはどこだ!!」
ん?
今の声は誰だろう。
メイド(リリーシュ)は答える。
「はい、偉大なる魔王様が作られた "魔王城 イスターカーテン"です」
そう、ここは自分が作ったダンジョン、俗称、魔王城 イスターカーテンである。
その名の通り、ショッピングモールで使われている透明な鉄シャッタを彷彿させるようなデザインにしている。
外観は天を貫くような塔になっており、下層から上層に昇るほど凶悪な魔物を配置している。
"来るもの拒まず、生きて返さず!"がモットーの全34層のダンジョンであり、これまで数々の挑戦者を教会送りにした。
《それはわかっています》
そう言おうとしたとき
「そんなこと分かっておる!」
またもや知らない人の声が響き渡った。
いや、もうすでに知っている。自分の声である。
「大変失礼いたしました」
メイドは深々と頭を下げて謝る。
「私目の不敬をお詫びするとともに、なにとぞ、お許しいただけないでしょうか?」
おかしい。
自分の言おうとしたことが、荒っぽい言葉に変換されてしまう。
一体どうしてしまったのだろうか?
考え混んでしまって、メイドの質問に返答をせず、黙ったままの横を通り過ぎてしまった。
「あの! 魔王様! もう一度言い直させていただけないでしょうか?」
「よい、好きにしろ」
「ここは、偉大なる魔王様が作られました魔王城 イスターカーテンの最上階 "魔王の間"です。
本来ならば私めのような下っ端がおるべき場所ではないと存じ上げています」
そういえばそうだった。
ゲーム中ではプレイス(ダンジョン)は、1フロア(1層)につき30階まで作ることができ、34層あるこのダンジョンでは、2層の魔物が最深部に来るとは到底考えられない。
《なぜ、ここにいるのでしょうか?》
「理由があるのだろう。言いたまえ」
セリフが自動変換される。
「はい・・・魔王様がご不在になり1ヵ月が過ぎたころ、イスターカーテンの民の者は皆心配になりました。"このまま魔王様がいないダンジョンなんていずれ陥落させられるだろう"と」
「民の者たちは魔王城を血眼になって探しましたが見つからず、もしかすると下界に降りられたのではないかという説が挙がり・・・」
リリーシュはそこまで言うと俯いてしまう。
「私は、魔王様が必ずここに帰って来られることを信じて、一人で魔王の間にてお待ちしておりました」
そういうことだったのか。道理で人の気配がなく静かな気がする。
「・・・申し訳ございません。本来お迎えするはずのメイド隊のものも出払っています」
そこまですると、魔王城の方が危なくなるでは?
そう言おうとした矢先に、リリーシュはドヤ顔で言う。
「現在、ほぼ全軍を下界に繰り出し、ありとあらゆる人族共を根絶やしにしながら魔王様を探しておりますです!」
(うん! なんかわからないけどヤバイ!寝よう!)
現実逃避である。
「そうか、ご苦労だった。我はまた部屋に戻る」
軋む音とともに隠し扉を開き、即時退出だ。
「ああっ! 気を落とされないでください。早急にメイド隊と侵攻軍の者たちを召集させ、魔王様のお出迎えを・・・」
リリーシュが言い終わる前に扉が閉じられた。
長い通路を引き返し、部屋に戻ってベットにダイブする。
周囲に「バフ」という音が響くとともに眠りに落ちた。
余談ですけど、
リリーシュは清楚に見えるポンコツ系ロリ死神メイドです。
魔王様もポンコツなため、そんなことは覚えていません。
1フロア当たり30階まであり、それが34層あるのは
全合計で999階まで作りたかったという思想からです。
999階には魔王の間があり、
それ以降の階には隠し部屋として宝物庫や魔王の自室、研究室等があります。
ゲーム中には下界とかの区別はなく、魔王ダンジョンの魔物たちが外の世界を勝手にそう呼んでいるだけです。
自動変換前のセリフは《》でくくっています。
敬語書けない。鳥肌が立ってしまう。