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021. お嬢様《女神様?》


 私の名前はイーナ = モゲカール・ミナズキ。

 ここら一帯の領主のような存在であり、この村、珊花奏(さんかそう)(誰かが勝手に命名)を作った張本人だ。

 この土地に初めて来た私はまず、水を安定供給するためのダムを山奥に作り、それに続く川や用水路を整備した。

 次に平地に田畑を耕し、人々が生活できる居住地を建設して農作物を売るための流通も発展させた。

 それからは山に住み、平地のことは村人任せで領主として税金を搾取していた。


 要するに私が何か手を入れなくてもお金が自動的に入る仕組みを構築したのだ。

 そんな適当な私が村に戻ってきた時の村人の反応がこちらである。


「女神様がお越しになられたぞ~~!」

「女神様だ!」

「ああ、神よ」

「美しいお姿。生きていて良かった」

「女神様、ありがとうございます。おかげで幸せに生活できています」

「女神様! どうか罪深き私に裁きを与えてください」


(・・・? 領主だよね。 本当に私は領主だよね?)


 どう見ても珊花奏の人々は私を女神と称し、ひざまずき、祈りを上げたり、救いを求めたりと信仰している。

 

「あははー、女神です。どうもどうもー」


 村人に対して雑に手を振る。

 今の状況がどういうことなのか分からないのだから仕方ない。


「カリナ、私は一応この村の領主ですよね」

「はい。お嬢様は領主です。だからもう少し領主らしく振る舞って下さい」

「女神と呼ばれていますけど?」

「はい。領主兼、女神です」

「カリナ、女神とはなんでしょうか?」

「土地を守護するもの。大いなる生命の母。狩猟、漁業、農業における大猟、豊漁、豊作を司るもの。とらえ方は様々ですけど、人智を超越した存在であることは間違いないです」

「もう一度聞きますけど私は女神ですか?」

「はい。いい加減自分のしたことに自覚を持って下さい。それから女神らしく振る舞って下さい」


 冷淡なカリナの声が突き刺さる。

 女神って普段どのようにしているっけ?と真面目に考えさせられた。


 村の中央にある広場に来ると馬車が止められた。

 馬車が通る道は人があふれていてパレードのような状態だ。


「すごい人の量ですわね」


 この小さな村のどこに隠れていたのかと思うくらい多い。


「最近、人口増加問題が懸念されています。後で報告書がたーっぷりありますのでご確認下さい」


 カリナは私を薄目で睨み付けながら言った。

 その目はなんか怖いからやめて欲しい。


 馬車から降りると村人を代表するかのように一人のおじいさんが出迎えてくれる。


「女神様、ご足労いただきありがとうございます。わたくしがこの村の村長オルマと申します。本日は女神様がごゆっくりできますよう村の総力を挙げて歓迎します。しかしながら準備の方ができておらず今しがたお待ちいただけないでしょうか?」 

「は、はあ・・・」


 なんと反応していいか分からず曖昧な返事が出た。


「ありがとうございます。その間、わたくしが村の建築状況、農作物の成長具合などご報告させていただきます」

「ええ、もちろんそのつもりです。ご案内よろしくお願いします」


 私が口を開ける前にカリナが勝手に反応する。


「それはよかったです! 是非とも見ていただきたいものがありますので早速こちらへどうぞ」


(いや、了承していないし)


 その場の流れで私は村長について行かされることとなった。


・・・・・・



 村長は最初に村の西側にある教会へ案内してくれた。

 教会は村のどこからでも見えるひときわ高い建物で、近くに来ると視界に収まらない程の大きさであった。

 前はこんな建物はなかったはずだ。

 

「大きいですね。いつのまにこのようなもの作られました?」

「かの有名なエツデナ商会に協力を仰ぎ、1ヶ月前に完成させました」


 (ここでもエツデナ商会か)


 1ヶ月前に建てられたという事は、7ヶ月以下でこの大聖堂を建築したということになる。

 魔法による建築方法とかあるかもしれないが外観の彫刻を細々と作りこまれているあたり、いかに商会の技術力が高いかが分かった。

 エツデナ商会とはどのようなものかを知りたいが村長の言いっぷりから常識のようで、無知な女神とか思われそうで聞きづらい。


 村長が教会の入り口の扉に手を掛けゆっくり押す。

 中に入るとステンドグラスの高い天井が広がり、左右にずらりと長椅子が並べられていた。

 派手な模様でありながら色彩にこだわっていて、静かで落ち着く空間を(かも)し出している。


「美しい教会ですねー」

「お褒めにあずかり光栄でございます」


 真っ直ぐ進むと正面には祭壇があり、祭壇の後ろには天井から差し込む光で照らされた銅像が立っていた。

 そしてその銅像を見た瞬間、言葉を失いかけた。


「・・・何でしょうかこれは」


 銅像はどう見てもほぼ全裸に近い私の姿だ。

 ちょうど黒い服を身にまとった教会の神父らしき人物が扉を開けて祭壇の近くに来る。


「女神様。お待ちしておりました。ここは女神様を祀る教会"モゲカール教"の本部です」

「モゲカール教!?」

「はい。 私達が女神様に感謝をささげるための教会です。そして私はこちらで務めさせていただいています"ルマン"と申します」


 そういうと神父は一礼をする。

 第一印象は落ち着きのある聖職者で、懺悔(さんげ)などをよく聞かされていそうな優しそうな人だ。


「それで、あちらの銅像は?」

「素晴らしいでしょう! これはエツデナ商会の中でも一流の技術者、ゲ・ハルマ殿に頼んで作ってもらったものです。私たちの記憶から女神様の容姿をお伝えして細部までこだわり・・・」

「今すぐ撤去しなさい!」


 自分の体ではないのに、自分のヌードが飾られていることに恥ずかしさのあまり死にたい気分だ。

 

「・・・とはいわれましても、こちらの銅像は芸術的価値が高く、教会の象徴でもあり来る人としては無ければならないものです」

「本物の私がここにいますわ!!」

「女神様はなかなか外に出られないので私たちには拝むような場所が必要なのです!」


 神父は銅像に対して祈りを捧げ始める。


「1日に一回、女神様にお祈りを捧げる為に教会に人が集まり、交流が深まります。女神様の前で友ができ、知恵が集まり、夢が叶い、愛が生まれ、生命が誕生し、学び、働き、喜び、悲しみ、怒り、笑い・・・そして最後を飾るのです。お願いです! 銅像を撤去しないで下さい!」


 今すぐにも泣いてすがりつきそうな神父を見てドン引きした。


「ああ、なんて神々しいお嬢様! 銅像でも重要な役割を果たしていたのですね。アーメン」


 カリナまでもが銅像に向かって手を合わせ、お祈りを始める。


「ちょっと!なんであなたも銅像に拝んでいるのですよ!」


 カリナは横目で私と銅像を見比べると、銅像の方が神らしいと思ったのか、再び銅像に祈りを捧げ始めた。


「カリナー!!」


・・・


 その後も何度か説得しようと試みたが、結局、うやむやにされて銅像は撤去までには至らなかった。

 諦めて仕方なく次の場所に移動しようとしたとき、神父より呼び止められる。


「お待ちください。女神様にお供え物として様々な物を頂いております。倉庫の方にありますので是非ともお好きな物をお持ちください」

「お供え物ですか」


(神へのお供え物といえば食べ物とかだろうか?)


 神父により私は教会の隅にある倉庫に連れられた。


・・・


「お入りください」


 鉄でできた頑丈な扉の鍵が開かれると独特な匂いが広がる。

 庫内には雑貨、武器、防具、装飾品などといった装備品が所狭しと詰められていた。

 揃っている装備品の種類は一般的なお店よりずっと豊富であり、教会の倉庫とは思えない。

 それに全体的に武器が多い気がした。


「教会は反乱を起こす準備でもされているのでしょうか?」

「とんでもございません! これらは全て女神様へのお供え物です!」

「全てですか!?」


 この量の装備を田舎の村人が持っているとは考えられない。

 質はあまり良くないものだろうと思い、適当に近くにある剣を抜いた。

 刀身は白く光り、魔力の流れのようなものが見え始める。


「これは!光剣ルヴァスティンではないですの!」

「よくご存じでございます女神様。いかにも、そちらは宝刀としても扱われていますルヴァスティンです」


 ゲームの頃は攻撃力は低いが防御無視ダメージを与える剣で、序盤から終盤まで汎用的に使える有名な武器だった。

 お店には売っておらず、ダンジョンを深く潜らないと手に入らないものだ。


(向こうにあるのは一撃で死ななくなるスキルが付く防具、こっちにあるのは魔法反射がまれに発生する腕輪!)


 辺りを見回してみると、他にも有名なレア装備がぞろぞろと出てきた。


「お供え物としてはちょっと豪華すぎませんの?」

「どれも我々信者が持ち寄りました家宝物です。どうぞご自由にお使いください」


 「全部持ち帰りたい」と言いたいところだがこの量は馬車には乗りそうにない。

 それに村にいざという時の戦う戦力も持っておきたいところである。


「こちらにある数々のアイテムは村の自衛にでも有効活用してください」

「そうですか。女神様のお心遣いありがとうございます」


 少し残念そうな神父を見た私は、以前エスティの母から言われたことを思い出した。


「あー、えーっと、せっかくなので一つだけ貰っておきますわ」


 倉庫内でぱっと目に付いた指輪を手に取る。


―――――――――――――――――――――――――――

「不滅の指輪」


 一度使用したスキルは使用できなくなることはない。


―――――――――――――――――――――――――――


(スキル消去やスキル封じ、スキル盗り対策の指輪か・・・)


 ゲームではスキルまでに干渉するような凶悪な技を使う敵は少なく、一部のダンジョンを除きこの指輪の使用用途はなかった。

 ただ、デザインだけは私の中二センスがくすぶられるものである。


「こちらの方を貰います。皆様のお気持ちは頂きました」


 指輪をして神父に見せびらかした。


「女神様、とってもお似合いです」


 神父は安心したのか穏やかに笑っていた。



・・・・・・



 教会を後にした私達は引き続き村長より村の建築状況を教えてもらっていた。

 村の建物としては教会以外は私が作った時とほとんど変わっておらず、相変わらずの農村地帯である。

 そのためか木造の古民家とレンガ造りの新しい教会のアンマッチが目立っていた。


「教会を見て驚きましたが、他はほとんど変わっておりませんのね」

「できるだけ女神様の作られた光景を壊したくなかったからです。ここら辺で増やしたのは荷物を運ぶための馬車の停車場所ぐらいです」


 確かにこの美しい景色を見て、自然の神秘と偉大さに感動した。建物を増やすことはそれだけ環境破壊をおこなうということである。


「女神様が作られた田畑のおかげで今や周辺の森から様々な動物が集まり、生態系を保っております。たとえばあちらをご覧ください」


 村長の指す方向にはキツネかネコみたいな動物か堂々と座っていた。

 

「こちらの動物はキツネコと言い、農作物を食べ荒らすネズミなどを捕食します」

(キツネコって、まんまやな。名前に捻りがない)


 キツネコは私と村長が近付いても全く逃げようとせず、それどころか座り込んだ私の胸に飛び込んできた。


「ひゃあ!」

「おお、キツネコも女神様のところが好きなようですのお」

「ははっ、可愛いけどくすぐったいですわ!」


 抱えてみるとキツネコは腕の中で丸まる。

 触っても逃げずに大人しい。

 そして何よりもさもさしていて肌触りが非常に良かった。


「ああー幸せだわー」

 

 キツネとネコの可愛さがダブルパンチである。


「カリナ、この子を屋敷に連れて帰ってもいい」

「お嬢様・・・」


 にこやかな顔のカリナも、キツネコに癒されてうっとりしているようだ。


「私たちの負担をこれ以上増やすおつもりでしょうか?」

「あっ、はい、すみません」


 ただの思い違いだった。


「本来、キツネコは警戒心が強く人前には出てきません。こうやって出てくるのも餌の豊富さと天敵の少なさが安心感を与えているのでしょう」

「村を大事にしていただいてありがとうございますわ」

「女神様からの感謝のお言葉! ありがたき幸せです」


 ちょっとオーバーすぎる村長。

 私はボタン一つで村を造っただけなのに女神と慕われる感覚がむずがゆい。

 

「ここは豊かで平和な村ということもありまして外部からも移り住みたいと言う人が多いです。また、娯楽も充実していて住むものは皆、生き生きとしています」

「娯楽?ですか・・・」


 ぱっと見た感じ、田畑が広がっている土地にしか見えないし、元から娯楽が豊富な村づくりをした覚えもない。


「そちらについては後から案内しますのでご安心ください。きっと女神様も気に入られると思いますぞ」

 どういうことだろうか?


・・・


 一通りの案内と報告が終わり広場まで戻ると、来た時に溢れかえっていた人がウソのように居なくなっていた。


「村の皆様はどうなされたのですか?」

「皆様は女神様を歓迎するための準備を行っております。久しぶりに来ていただいたのですからさぞかし張り切っているのでしょう」


 ちょうどそのとき民家から若い青年が一人、家の扉を半分開けて村長にサインを送る。


「女神様、準備の方ができたようなので最後の場所にご案内します」



・・・・・・



 村長の案内により私達は民家の一角にある地下への繋がる階段を降りていた。

 

「ずいぶん深くまで下りるのですね。この先には何があるのでしょう?」

「降りてからのお楽しみですな」


 地下倉庫は創ったことがあったがここまで深く掘ったことはない。

 つまり村人が作った場所ということである。

 最後に案内するぐらいだから相当なものなんだろう。

 例えば伝説級のアーティファクトでも眠っているとか?


 期待しつつ長い螺旋階段の降りきると、数名の村人が出迎えてくれた。

 そしてその後ろには想像の斜め上を行くものがあった。


「・・・町ですわね」


 見渡す限りの広大な町が広がっていたのだ。


「ようこそ、女神様、珊花奏の地下迷宮都市、"月華乱(げっからん)"へ」

「ええー!?」


・・・


 地下の町には舗装された道があり、道に沿うように照らす街灯と洋風の建物が立ち並んでいた。

 遠くには宮殿まで見える。そして、そのどれもが輝かしい飾り付けが施されていた。


「あのー、もしかしてここも、いや、この町もエツデナ商会が・・・」

「左様ですな。エツデナ商会の迷宮作成技術を応用しております。エツデナ商会には感謝するばかりです」


(これも私がいない8ヶ月の間に造ったの?)


 もし、町づくりにゲームプレイヤーが関わっていたとしてもこの広さの町は到底つくれそうにない。

 実は民家種というものでもあり、植えてから生やしたのではないか?


「・・様、女神様?」


 思考が空を羽ばたいていた私を村長が呼び戻す。


「ああっ、そうわね、エツデナ商会にはお礼をさしあげなければならないですね。でも本当にこの町全てエツデナ商会の方々が造られたのでしょうか?」

「いえ、5万人以上の村の方々の力があってこそのものです。ここまでの人たちが協力いただけたのも女神様のおかげでございます」

「5万!? えっと、失礼ですが今、村人はどれぐらいの人が住んでいるのでしょう?」

「確か、7万人程度でしたのう」

「はっ?」


 それはもう村とは呼ばないことぐらい私でも分かる。

 というより王国だろこれ!


「本日は女神様のご帰還お祝いとして祭典を開催させていただきました。どうぞご堪能下さい」

「それでずいぶんとにぎやかなのですね」


 よく見ると飾り付けされた道沿いには屋台が並び立ち、行き交う人も今朝見たときと違う、お祭りのような衣装であった。


「ここでの案内は祭典の主催者、ライアンくん、よろしく」


 出迎えてくれた村人の中で中年の眼鏡をかけた男性が私のところに来る。


「女神様! お初にお目にかかります。わたくしはこのお祭を主催していますライアンと申します。月華乱については精通していますので何か疑問があれば遠慮なくお尋ねください」

「よろしくお願いしますわ」

「では、馬車を用意していますのでこちらへ」


 ライアンはそう言うと馬車までエスコート・・・しようとしてきたから気づいていないフリしてスルーする。


「お嬢様、わざとでしょうか?」


 カリナからツッコまれるがとぼけて返した。


「何のことでしょう?」


 ともあれ町を案内してもらうこととなった。


・・・


 ここでは朝のようなパレード状態にはならず、馬車でも非常に動きやすくなっていた。

 というより、私たちが通る道は人数を規制しているようにも見える。

 おそらく混乱を避ける為であろう。

 ただ、相変わらす信仰されており、通りかかった人は必ず私にお祈りしたり手を振ったりしていた。


「女神様がお戻りになられて、祭りを開催できて村人は皆、喜んでいます。いかがでしょう? 折角ですので今後毎年この時期に、みなづき際と名付けてこのようなお祭りをおこなうというのは?」


(水無月? ここは今、6月ということだろうか?)


「んー、別にいいんじゃないんでしょうか?」

「おーい! 皆の者!ミナズキ際の件、女神様より許可をいただいたぞー」


(・・・って!よく考えたらミナズキは私の名前! 自分の名前の祭りを作るなんて恥ずかしい!)

「あっ、あの~ちょっと、待っ」


「おおー! 祝いだ! また行事が増えたぞ!」

「よっしゃー! 酒だー! 酒盛りだー!」


 騒ぎ立てる村人には聞く耳は持ってなかった。


・・・

 

 祭りということだけあって通りには食べ物の屋台が多い。

 通過するだけでも馬車にいい匂いが立ちこめてきた。

 

「あちらに見えます宮殿は上層部の集まる場所となっていまして、元老院のような・・・」


 屋台の方が気になってライアンの解説が全く耳に入ってこない。

 案内してもらっている途中だからと遠慮していたが、気になる看板を見つけてしまって、つい我慢ができなくなった。


「ちょっと止めていただけないでしょうかしら」


 馬車から降りて屋台に直行する。


「すみませんー?」

「へい、注文かい? おいらの自慢の一品ドラゴン焼き・・・って女神様!?」

「ドラゴン焼きを一ついただきたいのですが」

「あっ、えっ、ちょっとおまちくだせー! 直ぐに焼きたてを持ってきますんで」


 そう、名前からしてもファンタジー世界ならではの料理、珍味を食べてみたかったのだ。

 しばらくするとこんがりと焼けた匂いと共に骨付き肉が出てくる。


「お待たせいたしましたー」

「ありがとうですわ」


 引き換えに代金を渡そうとすると店員は驚愕の顔をした。


「女神様からお金を貰うなんてとんでもねー。しかもそりゃー金貨じゃねーか! 店ごと買うつもりか?」


(そうだった。ゲームの頃の金銭感覚とは違ったんだ)

 とは言えお金を渡さないわけにもいかないので適当な言い訳を考える。


「えーっと、これは将来のための投資ですわ。今後私が食べに来た時はタダでお渡しすることですよ!」

「もちろんです! 女神様!!」


 お金受け取ったことを確認して買った骨付き肉に思いっきりかぶりつく。

 所々少し固めであるがそれが程よい食感になり、豚や牛、鳥とはまた違った感覚であった。


「おいしいですね。材料はやっぱりドラゴンの肉なのでしょうか」

「さすがに本物は無理だ。ドラゴンに近いワイバーンのそれも弱い部類のものを使っていますぜ」

「気に入りました! さっきの約束通りドラゴン焼きを後二ついただけないでしょうか?」

「おう、喜んで!!」


 この後この屋台は女神様が立ち寄ったところとして人気のスポットとなり、1時間もせずに材料不足で店を閉めることとなった。


・・・


「待たせてしまいましてごめんなさい。どうしても気になりまして」

「いえいえ、女神様のためのお祭りですからご自由にお過ごし下さい」

「そうですか。あっ、ライアンさんとカリナの分も買ってきましたよ」

「ありがとうございます。女神様」

「お嬢様、君主は仕えるメイドに対して直接施しを与えるなどしません。ましては神ともなれば・・・」


 文句を言いながらも受け取るカリナ。

 少しお腹が空いていたのかもしれない。


 買ってきたドラゴン焼きはカリナとライアンにも好評だった。

 カリナは後で屋敷のレパートリーに追加するそうだ。

 食べ終わった後、馬車に乗り込むと再びライアンによる案内が再開された。


「それで、向こうにありますのが・・・」

「あちらの屋台も気になりますわ!」

 

 が、そんなのお構いなしに飛び出すミナズキ。

 呆れたカリナは止める気もせずに見送った。


「申し訳ございませんライアン殿。お嬢様が勝手なことばかりしまして」

「カリナ様。わたくしは気にしておりません。女神様の元気なお姿を見られただけでも幸せですので」

「今日のお嬢様はいつにも増して元気なのですよ」


・・・


 ミナズキが向かった屋台には天井からいくつかの輪っかが吊り下げられていた。

 手前には長机があり、机の上には銃のようなものが置かれている。


「女神様!? どのようなご用件でしょう?」

「こちらはなんのお店でしょうか?」

「えー、机に置いています魔法銃でぶら下がっているターゲットを撃ち抜くゲームをやっています。銃から発射された風弾(ふうだん)が、吊り下げているリングをくぐりぬけますとリングの色により景品を差し上げます」


 要するに射的のようなものだろう。

 吊り下げられている輪っかは穴が小さいものや回転するものもあり、狙うのが難しいものほど色が濃い。

 机の上の銃は拳銃のような片手で持つことができるタイプで、照準を合わせるための溝が付いてた。


「元々は一部の国で流行していますスポットショットという競技を真似して作ったものです」

「おもしろそうですわね! 早速やってみますわ!」


 店主の持っているお金からプレイ料は銅貨何枚かのようだか、面倒だから金貨を机に置く。


「女神様? こちらの金貨は一体?」

「1ゲーム何発まで撃ってよろしいですか?」

「10発ですが・・」

「では、この金貨をプレイ料として払いますわ! その代わり全弾当てられましたら2倍にして返すことです!」

「ええっ! 流石にそれは・・」


銃「射撃」

 40→(自動失敗)


 店主が了承する前に一発目をあえて明後日の方向に撃った。

 銃から発射された風の弾は魔力でも帯びているのか色があり、誰が見ても外れたことがわかる。


「あら? 意外と難しいのですわね! ちょっと残念ですけど後9発は当てて見せますわ!」

「あのー、女神様。リングまでの距離が遠かったようですので机を移動させましょうか?」

「わたくしを見くびらないでいただけます?」

「しっ、失礼しました!!」


 これでも引きこもりゲーマーである。FPSだって少しはできる。

 1発目に撃った弾道を思い出し、照準に補正をかけ一気に連射した。


銃「射撃」

 40+35=75→47(成功)

 40+38=78→46(成功)

 40+30=70→58(成功)


 次々と並んでいるターゲットに命中させていく。

 風弾がリングをくぐりぬけるとリングが美しく発光した。


(なるほど。スキル値は狙うものや集中力によっても変化するのか)


 結果は9発全弾命中。

 やり切った顔で店主を見ると気まずそうにしていた。

 

「あの・・女神様。やはり女神様からお金なんていただけません」


 往生際が悪い店主。仕方ないから押し通す。


「貴方はわたくしとの懸けに勝ったのですよ。その報酬を貰わないとはどういうことです?」

「あ、いえ、ありがたくいただきます! それならせめて、こちらにあります景品でお気に召したものがありましたら何でもお持ち帰りください!」

「分かりました。見せていただきますね!」

 

 射的が目的だったから景品はどうでも良かったが、見ていると気になるものがあった。


「あの~これってもしかして、あちらに掛かっていますリングと同じものでしょうか?」


 景品には先ほど銃で狙ったリングのようなものがある。

 リングは選べる16色だ。


「はい。ターゲットは元々腕輪や足輪として使われていたものを利用しています。こちらの腕輪は輪の内側に風が通りますと反応して光るので当たったのが分かりやすいのです」


 試しに腕に付けて振ってみると青白く光り始める。

 いかにもお祭りでありそうな玩具であるが、私の中二病センサーが反応した。


「気に入りました! こちらのリングを頂きますね!」


 この後、この店も女神様が立ち寄ったところとして大人気になり客が押し寄せた。

 さらに、ミナズキが付けたリングはとある理由で深刻な品不足に落ちることになった。


・・・


「戻りました!」

 

 リングを手足に付けてルンルンで帰ってきたミナズキを、ライアンは快く迎えてくれる。

 

「女神様。(ともし)風輪(ふうりん)を貰ってきたのですね」

「灯の風輪? これは有名なアイテムなのでしょうか?」


 ゲームの頃は聞いたことがないアイテムである。


「月華乱では有名です。暗い地下では光るものは重宝され、村人により多くの光物が開発されています。特に灯の風輪は手元や足元を照らすので街灯が造られるまでは良く使われていました」

「そうでしたの。それではこのリングは伝統工芸とも言えるのですね」

「伝統工芸・・なるほど! それはいいアイデアだ。流石です女神様!」


 ライアンは何か思いついたのか嬉しそうにしていた。


・・・


 地下都市ぶらり旅もひと段落したところでライアンは馬車の進む方向を変えた。


「女神様。そろそろ本日最後のイベント会場"闘技場"にご案内します」

「闘技場?」

「はい、闘技場で女神様の席をご用意しております」


・・・・・

 

「一大事だ、緊急イベントだ!突如、女神様が闘技場にお越しになられた!?」


 闘技場の舞台入口前に待機する私に会場を盛り上げる司会の声が響いてきた。


「カリナ、私は領主兼、女神ですわよね」

「はい、お嬢様は一応女神です」

「普通、来賓席に座るはずですよね。なぜ、武道大会に出場させられているのでしょう?」

「それは用意された席が闘技場のチャンピオンという席だからでしょう。お嬢様は豊穣神(ほうじょうしん)地母神(じぼしん)、ついでに戦神(せんじん)としても祀られていますから」

「戦神とはなんでしょう」

「戦いを快楽として人々を戦に駆り立て、傷ついた者達の血肉を食らいせせら笑う神です」

「えっ、それ誰のことですの?」

「お嬢様のことです」


 何の話か分からない。分かりかねない。

 アホな顔をしている私にため息交じりにカリナは言う。


「はぁー、お嬢様は以前、手当たり次第強い者をシバいていたからじゃないでしょうか?」

「・・・」


 会場からはお祈りを揚げる声や、熱烈な女神ファンの声援が響き渡っている。

 そして、その中には「女神を殺せー!」という声も混じっていた。


(んー、確かにレベル上げのためにそんなことをしていた時期もあったような気がしてきた)


「おほほほー、これってわたくしは出場しなければダメでしょうか?」


 何をいまさらという呆れた顔を向けられる。

 

「挑戦者陽炎の騎士!華麗にパフォーマンスを決め準備も万全のようだ!

そしてー、いよいよ我らのチャンピオン女神様のご登場だー!」


 会場のボルテージがマックスになり呼び出しの声がかかる。

 それから舞台の入口付近に演出のための煙が立ち上がった。

 目の前には、さあどうぞとばかりに闘技場の係員が笑顔で立っている。

 私に拒否権はない。どうすることもできない。


(もうどうにでもなれ)


 やけくそで勢いよく舞台に飛び出した。


「おお、女神様だ!」

「カッコいい!」

「がんばれー、女神様ー!!」

「これは歴史に残る戦いになるぞ!」


 声援がさらに大きく耳に響き渡った。

 舞台には頑丈な鎧に包まれたいかにも強者のような騎士が待ち構えている。

 ど派手な演出による登場にも微動だにしない騎士は私をまっすぐ見て剣を向けた。

 その目はまるで薄っぺらな私の心を見透かしているかのようである。


「我が神よ。今日は本当にいい日だ。なにせ待ち望んでいた夢が叶ったのだからな」

「あのー、わたくしはあまり荒事が好きではなくてですねー」

「ふっ、ご冗談を。今にも戦いたいような目をしていらっしゃる」


(えー、うぇえーー この人見透かすどころか、突き抜けていますよ~!)


「この命、尽きるまで貴方と剣を交えよう。我が最期の戦い見届けて頂きたい」


(いや、いや殺さないよ! というか、あんな屈強なやつ相手だったら私がやられる! それにどうしよう。このアバターではまだ何も試せてない!)


 自分の攻撃がどのくらいダメージが出るかもわからないし相手から受けるおおよそのダメージも分からない。

 対人戦をやったことがないから間合いとか駆け引きとかも知らない。


(大丈夫なの? 

>いや、大丈夫ではない!)


 自問自答するわたしに遠慮なしに騎士は突っ込んできた。


「では、参る!」

「えっ、ちょっと、まって!」


 慌てて回避系のスキルを使う。


スキル「反重力の羽衣」

 100→23(成功)


 途端に自分のドレスのリボンが青紫に光だし、4枚の翼のように展開され、間一髪でフワリと剣撃を避けた。

 

「あぶっ」


 付けていた腕輪と足輪も風を受けて光始める。

 避けた剣撃は地面に突き刺さり、人に当たれば確実に死ぬ威力があることが分かった。


(回避スキルが付くドレスを着ていて良かった)


 騎士は避けられたことに驚きもせずミナズキが飛んで行く軌道を読むと剣を振るった。

 振った剣からは斬撃が放たれ、着地地点めがけて飛んでくる。


「うっそ!? 何それ!」


 何とかまとっているリボンを制御してスレスレで避けた。

 

(あの斬撃! スキル?魔法?それとも武器の効果なの!?)


 着地して態勢を立て直そうとしても、隙を与えないかのように次々と斬撃が飛んでくる。


「ひゃあ! ヤバイヤバイ、死ぬ死ぬ!」


 このアバターは両手剣と武道による近接攻撃を主力としていた。

 相手に近づかなければ牽制はできない。

 だが、攻撃が激しすぎて全く近づくことができない。


(あの斬撃がスキルか魔法なら使用回数があるはずだけど・・・)

 

 遠慮なく使っているところから使用回数無制限の武器の効果なのだろう。

 そんなことを考えながら少し高めに飛んだとき、無数の斬撃に紛れて飛んできた魔法が私のリボンの翼を砕いた。


「なっ! スキルブレイカー!?」


 持っていた指輪が光り、効果が発動して翼は瞬時に再生される。


(あぶっない、今の指輪がなければ絶対死んでた、死んでた!!)


 避けるのが手いっぱいで、どうすれば反撃できるか、どの技を使えばいいかも考える余裕がない。

 空中で360度グルグル回された頭で思い付いたスキルはあれだった。


スキル「万物想像」

 80→23(成功)


「なんでもいい、銃みたいな遠距離から攻撃できる武器をお願い!」


 スキルが発動すると胸元に魔法陣が浮かび上がる。

 私が魔法陣を触ろうとすると中から黒い液体がボトボトと排出され、鉄の塊になった。

 誰もがその異様な光景に目を奪われた。


「これは! ガトリングガン!?」


 そのとき、突如会場にドラの音が響く。


「ターイムアップ!! そこまで!」 


 同時に武闘大会を盛り上げている司会者が試合を止めた。


「残念! 挑戦者陽炎の騎士! 制限時間の10分以内に女神様にかすり傷一つ付けることができなかった!! 流石は戦神ミナズキ様だ!」

「えっ? 助かったの・・・」


「おおーーー!」


 会場にはどよめきが広がる。


「あの陽炎の騎士でも歯が立たなかった」

「ミナズキ様相手では当たり前じゃろ。フォッフォッフォ」

「すごいよ! すごいですよ!」

「女神様! 最高ー!」


 呆然と立ち尽くしている私に祝勝の声が贈られた。



・・・・・・



「あっという間でしたわね」


 私は馬車に揺られながら屋敷に帰る道を進んでいた。


「ミナズキ様は物足らなかったのでしょうか?」

「そういうわけではありませんわ」

 

 あの後は訳もわからないままトロフィーやら盾やらの記念品を貰い、意味のない勝利者インタビューに答えた後、嵐のように退散することになった。


 物足らないどころか二度と行きたくないのだが挑戦者の方はあれで満足したのかが気がかりだ。

 なんやかんやで後で恨まれて闇討ちにでも遭ったらと思うと恐ろしい。

 それとも私の想像力が豊かなだけか?


「ここから屋敷まで帰るのには時間がかかりますので、主催者側に巻きでお願いしますと伝えていました」

「そうでしたのね、ありがとうですわ」


(どのみちしばらくは村には行かないからいいかぁ)


 お得意の現実逃避により考えることをやめる。

 馬車の中であくびをしながら外を眺めた。

 帰路は夕日で照らされ、幻想的な景色は赤々と輝いている。

 山手の方には行きに見た鳥居も見えた。


(帰りに見ておきたかったけど、今日は遅いしまたの機会かな)

 

「それにしてもわたくしの村も大分変りましたね。確か、珊花奏と月華乱でしたっけ?」

「はい。地上の村はお嬢様の豊穣神のイメージから珊花奏と名付けられています。そして地下都市の月華乱は戦神の一面から付けられたものでございます。教会で武器のお供え物が多かったのもお嬢様が戦神として祀られているからです」

「カリナはあの村の事を知っていて、なぜ私に教えてくれなかったのですか?」

「聞かれなかったからです」


(うん、私、この人嫌いだ)


「冗談です。本当は今の村の状況を見まして、めが・・お嬢様がどう思われるかが気になっておりました」

「驚きましたわ。わたくしが居なかった8ヵ月であそこまで発展させたのですからね。村人とエツデナ商会には褒賞でも与える必要がありますわ」

「思われたことはそれだけでしょうか?」

「それだけですがなにか?」


 私の素っ気ない感想を聞いたカリナは少し安心しているように見えた。


「お嬢様にあらかじめお伝えしなかった理由はもう一つあります」

「?」

「村のことを何も知らずに訪問して、赤っ恥をかいてほしかったです」

「カリナさんはご趣味が悪うございます」

「それほどでもございません」



・・・・・・



 屋敷に戻ると執事がズラリと並んで迎えてくれた。


「おかえりなさいませ。お嬢様!」


 朝とは違ってメイドが全く見当たらない。


「えっとー、これはどうしたのでしょう?」


 周りには眼鏡系イケメン、筋肉系イケメン、ビジュアル系、ワイルド系、着ぐるみ系、オネエ系、高身長からショタまでありとあらゆるイケメン執事か並んでいる。

 ここは特殊なホストクラブかと思わせられるほどだ。

 イケメン達が並び立つ中、一人だけメイドの姿があった。


「ミナズキお嬢様! お帰りですー!」


 朝の暴走メイドだ。


「これは一体どういうことですの」

「男に飢えているお嬢様のために、あらゆるタイプの執事を集めました。リーダー! 自己紹介の方をよろしくです!」


「では失礼させて、わたくしはお嬢様のハーレム"白銀の輪舞"のリーダー、ジュードと申します。本日よりお嬢様の身の回りのお世話をさせていただきます。わたくしたち一同、お嬢様のために最大限尽くしていく所存です」


 暴走メイドはいい仕事をしたと思っているのか、ドヤ顔で私の肩に手を置き耳打ちしてくる。


「いかがでしょうか? お好みのお方は見つかりましたでしょうか?」

「・・・」

「お嬢様、肩が震えています。嬉しいのは分かりますが落ち着きください」

「・・・戻しなさい」

「ほぇ?」

「今すぐ元に戻しなさい!!」

「なぜでしょうか? ここは天国ですよ! お嬢様の権限でイケメン達をこき使い放題ですよ! 夜伽(よとぎ)だって選び放題なのですよ!」


 心が少し揺らいだ。

 俺の心ではない。私の心だ。

 

「まさか、お嬢様は女性の方が好き・・」


(ああ、そうだよ! 中身は男なのに誰が好きで野郎に囲まれた生活をしなければならないんだ!)


 という声はグッと抑えておく。今の私は女なのだ。


「そんな・・・私はまだ準備が出来ていないです。知識不足です。女性同士の繋がり方なんて守備範囲外なのです」

「いいから早く通常通りの業務形態に戻りなさい!!」


 私の一言でホストクラブは結成一日目で解散となった。



・・・・



「うう、疲れたわ」


 部屋に戻った私は着慣れないドレスのままベッドにダイブした。

 闘技場の一戦の疲れもあるが、領主兼、女神として周りからチヤホヤされるのが精神的にも辛い。

 悪い気分ではないが、引きこもっていて自分のことは自分でするしかなかった俺からしたら全く違う世界である。

 屋敷に戻っても「○○のご用意できました」「○○のお手伝いします」など至れり尽くせりで、今やっと自分だけの時間ができた。


 改めてメニュー画面を開き、装備、魔法、スキル構成を確認する。

 あの時は混乱していたから仕方なかったのだが、闘技場ではこの魔法を使えば良かったなど反省点がいくつも出てきた。

 そして闘技場でのスキル使用履歴に「万物創造」→「ガトリングガン」という文字があった。


(おそらくこのスキルは現実世界の物を呼び出すものなんだろう。その代償は・・・)


 説明テキストを見ると伏せてあった字が変化している。


”~代償として()()が失われる。”


(やっぱりか)

 

 私は呼び出したこの鉄の塊が一体何なのかが分からない。

 少なくともスキルを使う前までは現実でどのように使われていたかわ分かっていたのにだ。

 現実の私の記憶を照合してみる。


(私、いや、俺は引きこもりで、このゲームEnd of Lifeを年中やっていて、家族は・・・)


 思い出すと酷い人生を送っていた。

 ガトリングガン以外のことは忘れていないことからスキルは呼び出した物についての記憶が失われるようだ。


「使いづらいわね~」


 このスキルでスマフォやゲーム機、PCなど呼び出したとしても、使い方が分からなくなるどころか中に入っていたゲームの内容も忘れてしまう可能性もあるのだ。

 折角、現実の物を持ち込めると思ったがぬか喜びである。

 

 ベッドで寝返りを打って姿見鏡に映る自分の体を見た。

 

「はぁ、お嬢様、女神様ねえ」


 私の容姿はメニュー画面に映るアバターをまんまリアリティ増したような感じで、控え目に言っても神がかった可愛さだ。日本なら有名コスプレイヤーにでもなれただろう。


「・・・」


 それ故にまた少しいじりたくなる。可愛いから仕方ない。

 ドレスをはだけさせ素肌を大胆に見せつけた。

 そのとき突如、入口の扉が開け放たれた。


「お嬢様、ミルクのご用意ができ・・・」

 

 前触れもなく部屋に入ってきたカリナは、私のあられもない姿を見て固まった。

 そして、今の状況を理解してしまった。


「朝のお噂は本当のようでしたね。()()ズキお嬢様」

「あ、えっ、と、これはですわね」

「ミルクはこちらに置いておきますのでごゆっくりどうぞ」


 カリナは何事もなかったかのように顔色一つ変えずにお辞儀して部屋から出て行く。


「ああうわー」


(泣きたい)

 ベッドに頭をうずめて嘆いた。


「だから、なぜノックしないのよーー!」


 早くアバターが変ってほしいとミナズキは切実に願い続けるのであった。




―――――――――――――――




 闘技場での大会が終わった後、一人の男は顔を隠して月華乱の酒場に来ていた。

 酒場では女神の話題で持ちきりだった。

 店内では賭けに負けて嘆くものや、戦闘研究家が女神の戦い方に関して持論を展開している。

 その一角では酒場のマスターの子供たちがはしゃいでいた。


「ほら、これ、女神様が付けてたリング! 4つ集めると飛べるようになるんだぞ」

「おおーすごいすごい! 僕もこれで飛べるようになるのかな?」

「こら! ガキはも寝る時間だぞ!」

「はーい」

 

 ミナズキが付けていた灯の風輪は憧れの装備として扱われ、

 また、別の一角では・・・


「光をまとって自在に飛ぶ女神様は妖精のようでした」

「そうそう、ものすごく綺麗だった。それでつい私も風輪買ったんですよ」


 流行のファッションとして注目が集まり、

 また、別の一角では・・・


「実はこのリングを伝統工芸としてお土産品で売り出そうと思っている。商品名も分かりやすいように、天使の光輪(エンジェルリング)なんて付けるのはいかがだろう」


 新たなビジネスが作り出そうとされていた。



 顔を隠した男はカウンター席の端に座っている武闘大会の司会者を見つけると隣に座った。

 そしてマスターに二人分の酒を注文すると話を切り出す。


「世話になったな」

「これはこれは武闘大会で敗退した陽炎の騎士くんじゃないですか。 私にいちゃもんでも付けに来たのですか?」

「いや、分かっているぞ。私の身を案じて早めに切り上げたのだろ? 錬金術師コースト殿」

「あらー、分かっていましたか。そうですよ。時間は後3分ほど残っていましたからね」

「あの女神が召喚した黒鉄には何か嫌な予感がした。あそこで終わっていなかったらこの鎧もろとも粉々にされていたかもしれん。コースト殿も何か感じたのか?」

「はい、それはもうこの世界の法則を超えた何かであることぐらいは。こう見えても私は王国一の錬金術師と呼ばれていますからね」

「コースト殿には感謝している。だが、神の戦いを妨害したとして殺されるかもしれんぞ」

「そこは大丈夫です。側近のカリナ様に土下座でお願いしました。彼女も女神様の機嫌を損ねないように立ち回ってくれているでしょう。本当、あのお姫様・・・カリナ様は苦労されていると思います」

「カリナ姫殿下か。昔から勤勉で今もなお大衆からの人気は高いのになぜあのようなことになったのだろうな」

  

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