020. 3人目のアバター
天井から落ちる天幕。
優しく香る花のにおい。
肌を包み込むフカフカの布団とベッド。
窓から淡く差し込む日差し。
(またか・・・)
気づいたときには見知らぬ部屋にいた。
部屋はピンクを基調とした乙女チックな洋風の内装で、見ているだけでも恥ずかしくなりそうなぐらいだ。
どこかの屋敷の中だろうか?
乙女の部屋には手入れさらた化粧台があり、化粧台の隣には姿見の鏡が立てかけられている。
近づいてみると鏡に映ったのは美しい下着姿の女性であった。
「これが、私の体・・・?」
まじまじと自分の体を見る。
フワフワでロングの髪は寝癖気味。
主張しすぎないハートの髪留め。
明らかに突出して大きい胸部。
首から下がるアクセサリで大人っぽく見えるが、その割には童顔で、箱入り娘のような雰囲気を漂わせていた。
(これは・・お嬢様のアバターか)
私が作っていたアバターは女性が多い。
今までは数少ない男アバターに2回もあたって少しガッカリしていた。
オダマちゃんのときに可愛らしい自分を見ていたが、どこかで元が男だという気持ちが引っかかっていた。
今回は待望の女アバターだ。
飛び上がって喜びたいが、突然のことで呆然と立ち尽くしていた。
恐る恐るブラからこぼれ落ちそうな胸部を持ち上げてみる。
ずっしりした質量を手に感じて、もう、ニュートン先生ありがとうございます!という感想だ。
それから体のラインをなぞるように上から下へと触っていく。
すべすべで透明感のある素肌を擦る音がした。
「んっ・・!」
下部まで触れたとき何か感じた。
そのまま、まさぐるように手を動かしていく。
「あっ、」
男の時には感じたことがないような感覚だ。
本格的にスイッチが入ろうとしたとき、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「おはようございまーす! お嬢様! 起きられましたか? 朝のお着換えを・・・はっ!」
「ひゃあ!?」
入ってきたのはテンションが高いロングスカートのメイドであった。
「お、お嬢様もそういうのに興味がある年頃ですものね。失礼しました。次からはノックします!」
「あっ、これはその・・・」
「ううっ、お嬢様は一人切なく男に飢えていたなんて。大丈夫です! 私たちがお嬢様好みのイイ男を連れてきますから!」
「ちがいますーーー! なぜそうなるのよ!」
「大変、皆さんー! 大ニュースです!お嬢様が性に目覚めたですよー!」
入口の扉を全壊にしたメイドは通路に解き放たれ、報告のために駆けずり回った。
「お願いだからやめてぇーーーー!」
下着姿の私に猪突猛進のメイドを止めるすべなどなく、噂は屋敷中に知れ渡ることとなった。
・・・・
朝の大騒動の後、ドレスに着替えさせられた私は朝食を摂るために食堂に向かっていた。
「おはようございます。お嬢様」
私が通りかかると執事やメイドの皆がお辞儀をして道を開ける。
慕われているのは分かるが、通り過ぎた後に誰もがひそひそ話を始めていた。
話の内容はスキルで聞くこともせずとも大体想像が付いてしまう。
食堂まで来ると部屋には私と付き添いのメイド一人となり、やっと落ち着くことができた。
ゲームの頃の記憶をよみがえらせる。
このアバターは秘境の洋館に住むお嬢様をイメージして作ったキャラだ。
イメージを大切にするためわざわざ何もなかった山を切り開き、屋敷を建て、お手伝いを雇い、農業で生計を立てつついくつかの村を作った。
いわゆるこの土地一帯の領主のような存在になるはずだ。
アバター名は・・・
「ミナズキお嬢様。本日のご予定を申し上げます」
そう、ミナズキである。
そして今、付き添っているメイドは確か、秘書のカリナだったかな?
朝起こしに来たメイドと違って冷静で落ち着きのある人だ。
この屋敷で雇っている執事やメイドは100人以上いる。
そのため、全員の名前は覚えてはいないが、お気に入りのキャラは頭に残っていた。
「まず、未処理の書類が2419件溜まっています」
「え? まず、なんて言われました?」
思わず間抜けな声が出てしまう。
カリナは顔色一つ変えずにゆっくりと一言一言を強調して言い直してきた。
「お嬢様に処理していただきたい書類が2419件溜まっています」
「・・・んーじゃあ次に?」
「はい。面会のご予定が2ヶ月先まで決まっています。他にも予算決め、人材管理、開拓地の管理など、打ち合わせが390件、財務、資源の調整、周辺国、商会などへの書簡のしたため、村の者への挨拶廻りなどやることはゴミのようにあります」
「もしかして、カリナは怒っている?」
口調が中々に鋭いところがあったため恐る恐る聞いてみると
「いいえ、お嬢様が戻られてとっても嬉しい所存でございます」
今すぐ地獄に落としてやるぞ、と言わんばかりの笑顔を向けられた。
負け時と私も笑顔を返す、が、こちらは引きずった笑いだ。
このアバターが最後にログインしたのは8ヶ月前、つまり約240日間放置していたアカウントである。
その間、領主としての仕事が山のように積み重なり、秘書が対応に追われていたとかだろう。
「ここ最近の私は何をしていました?」
もしそうなら、ログインしなかった空白の8ヶ月、私が何をしていたのかが気になる。
インしていないときに勝手にアバターが動いていたというのも少し怖い。
「8ヶ月前から部屋から出られな・・・あれ、何故わたくしはお嬢様を起こしに行かなかったのでしょうか?」
カリナは自分で何を言っているのか分からなく混乱していた。
それもそのはずだ。
主人が8ヶ月も部屋から出ないのは普通はおかしいと思って入ってくる。
疑問を持たずに過ごしてきたことが不思議だ。
(やっぱり、この世界の時間は現実と連動している?)
メニューを開き、ステータス画面を確認した。
聖戦士
真っ先にお嬢様アバターのクラス名が目に付いた。
日時を見ると118/8/2 10:20となっている。
(ルビィ?いる?)
呼ぶ声に応答はなく、メニューウィンドウが独りでに動くこともない。
(こっちの世界の時間の概念を聞いておくべきだった)
時間は経過しているようだが、いまいち見方がわからない。
メニューを見たついでに自分のステータスを確認すると、スキル一覧に覚えたことのないスキルが追加されていた。
―――――――――――――――――――――――
スキル「万物創造」
第47世界のありとあらゆるモノを創造できる。
発動に成功した場合、代償として■■が失われる。
失敗した場合は1/4のMPを消費する。
―――――――――――――――――――――――
(どこだよ!! 第47世界って!?)
中二病心を揺さぶる説明に思わずツッコミを入れる。
代償が伏せられているところあたり、相当ヤバそうなスキルなんだろう。
それにしても分からないことばかりである。
ここは、ゲームの中の世界でありながらもゲームの頃にはなかったものがある。
「とにかく、お嬢様! 外に顔を見せてください! 馬車の用意をしますのでご食事後、村に行きましょう! 村人はお嬢様の顔を見るだけでも勇気づけられますから!」
「え、ええ・・分かったわ」
カリナの勢いに押されて、食後の日程は村周りになった。
・・・・・・
お嬢様アバターの領土は平和な農村地帯だ。
山一帯は屋敷の人間の管理下で、山を下りた平地に一般の村人が住んでいる。
ただ、平地のほとんどは農作物を育てるために使っていて人が少ない。
スキル「遠方視認」
私は馬車にゆられながら外を眺めていた。
馬車の行き先は、中央の人が一番集まる"珊花奏"の村とのことだ。
ゲームの頃は村名を考えるのが面倒で空白にしていたから誰かが勝手につけたのだろうか。
馬車から見た外の景色には別世界が広がっており、非常に幻想的であった。
地面には青や紫、桃色の苔、宙に無数に浮かぶ淡白い光、それを食べる空を泳ぐ熱帯魚、セルリアンブルーの蝶、クリスタルのような鳥、虹色に変化しながら雲を作る蛇など見たこともない動物が動き回っている。
思わず息を飲む。
自分で作った場所であるが、生き物が追加されただけでここまで綺麗になるとは思っていもいなかった。
見る光景は何もが新鮮で、小学生の頃に戻ったような感覚である。
幻想的な景色を眺めていると、景色の中に取り残されたかのように遥か彼方先の山の入口あたりに鳥居らしきものが立っているのを見つけた。
「カリナ。あそこにある鳥居はなんでしょうか?」
「とりい・・ですか? お嬢様?トリイとは何でしょう?」
「ほら、あちらにあるものですわ」
「申し訳ございません。私にはよく見えません」
スキルを使って微かに見えるか見えないかのレベルのものだ。
スキルを持たないカリナには見えないのだろう。
あそこまで遠いと自分の領土範囲ではないが、恐らくゲームの頃はなかった。
そして、なによりファンタジー世界には似つかわしくない。
(後で行ってみるか)
・・・・・・
馬車に乗ってから3時間以上経ち、私もうたた寝をしていたところカリナが第一村人を発見した。
「お嬢様、起きてください」
村人は農作業をしているおじいさんで、馬車の通る音に気が付くと顔を上げてこちらの方を見た。
何となく領主らしく手を振ってみる。
すると、おじいさんはビックリして農器具ほっぽらかして飛び出していった。
「てーへんだ!てーへんだー! ばあさん!女神様だー! 女神様が来られたぞ!」
(・・・え? 誰が女神だって?)
振ってた手とともに固まってしまう。
私が再び起動するころには珊花奏の村に到着した。
3人目のアバターです。
ネタバレすると、全部で5人くらいアバターを出す予定です。
出さないと話が進まない。プロローグが長すぎる!
そして書くのが辛い。




