002. ゲームの中の世界?
扉に手を掛けた手が、自分のものではないことに気づいた。
確かに手を動かしているのは自分であるが見た目が全く違う。
例えるなら悪魔の手である。
「なっ!」
思わずドアノブから手を離し、手を平を裏返してグーとパーを繰り返す。
分かっていても信じられないものであった。
寝ぼけていた頭も一気に冷めて、視線を手から体の方へ向ける。
(‥!?)
体は頑丈で歪な鎧に囲まれ、背中には邪悪を連想させる黒く刺刺しい翼。
頭を触ると角まで生えている。これではまるで魔王である。
それよりも驚くことは、自分がやりこんでいたゲームのアバターにそっくりなところである。
もしかするとと思い、目の前の扉を開く。
そこには、先が見えないほどの長い通路が広がっていた。
通路は薄暗く照らされ、インテリアはアンティークで不気味な雰囲気をかもちだしている。そして何より目立つのが通路の壁や床がガラスのように透き通っているところである。
(やはり・・・)
昔、ゲーム内で作った"プレイス"と構造が全く一致する。
息を呑み込みゆっくりと通路を進むことにした。
コツ、コツと静かな通路に自分ではない自分の足音が響き渡る。
自分がやっていたゲームはファンタジー系のいわゆる、ローグライクという分類のものであった。
ゲーム中では、ブロックごと分割されたフィールドにオブジェクトが配置可能であり、プレイスと呼ばれる自分の家、陣地、領地を作ることができた。
作ったプレイスを強化したり、他人の作ったプレイスを冒険したり、陣地を占領するため攻め込んだりと自由度が高く、また、非常にやりこみ要素が多いものであった。
そんなゲームにハマった自分は無駄にアカウントをいくつも作った。
数は覚えていないが2桁以上のアカウントがあったと思う。
何故そこまで作ったかというと、ゲーム中では、はじめの適正検査によりクラス及び種族が決まり、それによってステータスやスキルが変わるようになっていたためである。
特にクラスはスキルに大きく影響して、初期クラスだけでも次の19個は確認されている。
・剣士
・盾術士
・槍術士
・弓術士
・調教士
・銃士
・武闘家
・魔法使い
・吟遊詩人
・治療士
・盗賊
・風水師
・心理学者
・預言者
・召喚士
・死霊術師
・操縦士
・隠修士
・精霊使い
クラスは適正検査により決まり、後からほとんど変更できない"メインクラス"と、付け替えが可能な"サブクラス"が存在する。
メインとサブの選択の仕方によってゲーム内での立ち回りまでが変わるため、いくつものアカウント(アバター)を作った。そして、アバターに合った装備、装飾品、スキルを集めをしたものだ。
おそらく、この格好は3番目ぐらいに作ったアカウントである。
ゲーム中では魔王と自称し、種族を魔族に、クラスを死霊術師に設定していた。
強い、弱いに限らず、魔王に見えそうな装備を必死で集め、死霊術や悪魔との契約により魔族を増やし、最終的には魔王ダンジョンまで作り上げた。
非常にエンジョイしたアカウントであり、炎上したアカウントでもあった。
もう3ヵ月はログインしていない。
背中の装備「漆黒の翼」は、プレイス制圧戦争で1度でもトップに立ったもののみ貰うことができるアイテムだ。
そして、今歩いている通路の端に飾っているいくつもの旗は、過去に制圧したことがあるプレイスのマークである。
(あれ? 自分の知らない旗があるような?)
暫く通路を進むと突き当りに付き、先には七差路が広がっていた。
ここを左に曲がると"魔王の間"である。
魔王の間からこちらの通路には魔王が許可した者のみ入れるようになっている。
特に理由もなく魔王の間に繋がる扉を開けると
そこには一人のメイドがいた。
「おかえりなさいです。魔王様」