018. 初めての依頼《なんて、できるかーい!》
オダマがダークロードに倒されたところの表現を修正しています。
メニューウィンドウの名前はセルビィスになった。
普段は呼びにくいためルビィと呼ぶことにしている。
最初はセルと呼んでいたが、緑の人造人間ぽいから嫌とのことだ。
なんのことか分からないが面倒な奴である。
私は宿を出て西区の冒険者ギルドに来ていた。
早朝だからかギルドには冒険者は一人としておらず、がらんどうな状態である。
受付の人までもがいないため、とりあえず依頼書が掲示されている掲示板を見に行った。
「マスター、依頼書をスキャンしてメニューに表示させるぞ」
「うむ! 頼むのだ」
メニューウィンドウを依頼書に照らし合わせると自動的に翻訳され始める。
「そういえばルビィはなんで文字を翻訳できるのだ? 向こうの世界の言語が分かるなんて」
「向こうの世界とは何処のことだ? 俺は現代語から古代語に変換しているだけだぜ」
ん? この世界では日本語は古代語として扱われているということなのか?
それならば・・・
「妾が話している言語はどこの言語じゃ?」
「はあ? マスター、唐突だな。頭大丈・・・」
「なんか言いあがったのだ?」
メニューウィンドウの両端を持って揺さぶる用意をする。
ルビィもその仕草が何を意味しているかは分かったようだ。
「ま、マスターが話しているのは日本語だぜ」
(日本語!?)
「妾が話しているのじゃぞ。本当に日本語なのだ!?」
聞き間違いかと思い、迫るように聞き直す。
「マスター!強く持ちすぎだ! 曲がる!折れる! 話す言葉はほぼ世界共通で日本語だろ!」
(そんなバナナマン! どおりでこの世界の人達ともうまくゴミュニケーションができたわけだ)
「じゃあ、日本語の日本とはどういう意味じゃ?」
「それは・・・」
メニューウィンドウはローディングアニメーションになり固まる。
この質問は予想外だったらしい。
「・・・分らん。 憶測だが古代にあった国と思うぜ?」
・・・
掲示板の依頼はいくつかに分類されていた。昨日受けた説明によるとそれぞれ次のように分類されているそうだ。
・通常依頼…一般的な依頼。依頼の受諾処理を行った後、請負人の完了報告と依頼主の承認により報酬を受け取る。
・常時依頼…正式に依頼受諾処理をする必要がない。成果により報酬を受け取る。素材の買い取り等
・緊急依頼…至急、急募、短期的な依頼。
・定期依頼…定期的に物を仕入れたり、魔物の討伐をしたりする依頼。月単位の契約になる。
ゲームでは分類されていなかったため、これは探す手間が省けてありがたい。
「どうする? 俺はできるだけ人気の少ない場所に行ける依頼がいいと思うぜ。力の加減を練習するのに丁度いいからな」
「分かっているのだ」
依頼書を順に流れるように見ていき選別する。
選ぶ基準はルビィが言った条件に加えて、クラス適正と短時間高報酬であるが問題は・・・
「う~む、報酬が安すぎるのだ」
私が受けられそうな依頼の報酬は銅貨、良くて銀貨数枚程度である。
ゲームの頃は金貨しか扱っていなかったから、どんな依頼でも必ず金貨数十枚は貰えるかと思ったが、そう甘くなかった。
魔王アバターでクレアと商業区を回ったとき、ある程度市場の価格は見ていた。
冒険者に必要な武器、防具、アイテムはなぜかすべて金貨単位だったのを覚えている。
一般的な道具、服は、銅貨、銀貨でも買えるのに、冒険用の装備になった途端、極端に値段が上がるのだ。これでは装備が整えられない。
緊急依頼を見ていると、ふと、目に留まったものがあった。
―――――――――――――――――――――――――――――
依頼日時:118/7/28
依頼者:王室
タイトル:魔王君臨
詳細:
預言者ニーナにより狐の森に魔王が君臨する預言があった。
狐の森にて魔王の存在の調査、及び戦力の確認をしろ。
期限:
本日より3日以内に報告
報酬;
魔王に関する情報の内容により金貨10~5000枚
魔王を退けたパーティーには思うがままの報酬を渡す。
―――――――――――――――――――――――――――――
(あははー、魔王だって、なんだろうねえそれ。いっそのこと、適当な戦利品に見えるものを持っていき、私が討伐しましたと言ったほうが稼げるんじゃないか?)
「あっ、オダマちゃん。朝早いのね!」
昨日、冒険者登録で説明してくれた受付の人の声がした。
受付の人はカウンターの仕切りを開けて、少し眠そうにホールに出てくる。
後からフラスに聞いたがこの人は"リアス"という名前らしい。
「おはようなのである!」
「おはよう。早速依頼を探しに来たのかな?」
なぜか頭に手を置かれ、撫でられる。
「うむ! 早くお金を稼ぐ必要があるのだ!」
「んー、どうしましょう。冒険者のほとんどは森に行っていますからね~」
リアスは私が見ていた緊急依頼、魔王君臨を剥がしながら言った。
他の冒険者に私の保護をお願いしようとしているのだろう。
「魔王君臨の依頼はもう受け付けていないのじゃ?」
「あっ、そうそう、先ほどニーナ様から危機は去ったという予言が発表されたのよ。今、Bランク以上の冒険者は狐の森に行っているけど、もう少ししたら戻って来るからそれまで待ちましょうか?」
「妾は一人でも大丈夫なのだ!」
「ほらほら、パーティーを組む方がその分、依頼が早く達成できてお金を稼げるわよ」
この人はどうしても子守をつけたいと思っているらしい。
どうしたものか・・・
そのとき、突如ギルドの入り口の扉がバーンと開かれた。
「話を聞いた~勇者オダマよ。私達があなたの剣となり、盾ともなろーう! う?」
開かれた扉の前には、シスターのエスティと騎士団長のフラスがいた。
えっ? エスティさんそんなことを言う性格だったっけ?
「勇者よ! 武器を持っていなかっただろう。とある親切な方からあなた宛てにプレゼントだそうよ」
「親切な方なのだ?」
フラスが手に持っているのは、そう、俺から私へのプレゼント「涙のスタッフ」だ。
スタッフを私のところまで持って来ると、ゆっくり手渡してくる。
「あわわっ」
受け取った私は少しよろけた。
このスタッフは大きすぎる。魔王の時にも大きいなと思っていたのに、今の背丈ではなおさらだ。
「おっと、大丈夫か? やっぱりこの武器はオダマちゃんには無理かな?」
「だ、大丈夫なのだ。これは私のものなのじゃ!」
腐っても私が集めた武器の一つだ。
持っていても意味はないが売ってお金にする方法だってある。
それに今はどのみち魔法しか使えない。
邪魔なら一旦置いて戦えばいい。トンファー置きっぱなし式論だ。
「なぜ、妾がここに来ていると分かったのじゃ?」
「んー、宿で地図を見ながら独り言をしている可愛いところをお客さんが見つけてね」
「ぶっ、まあ~、俺はマスター以外には見えないし、声も聞こえないから、傍から見たらそういう痛い人と思われるだろうな。ははっ!」
冷たい目でメニューウィンドウを見る。
「コホン、俺には信念伝達スキルで話すこともできるから、次からそうするこ・・」
無言でメニューウィンドウを回した。
「んあーー! やめろーーーー!!」
高速回転するウィンドウなんて知らないフラスは、心配そうに私の顔を覗き込む。
「オダマちゃん、なんで黙って宿を出て行ったの?」
「妾は少しでも早くお金を稼ぎたかったのだ。お世話になりっぱなしは悪いのじゃ」
「オダマ、気にしなくていい」
「依頼を受けるなら私達も連れて行ってほしいな。一人よりずっと安全に冒険できるぞ」
むしろ一人ではないと危険なんだ! と言っても信じてもらえないだろう。
「でも・・・」
私は何も言い返えせなかった。
そのまま王都一の騎士と教会のヒーラーがパーティーに加わることになった。
・・・・・・
「オダマ、依頼、どれ受ける?」
いつもと少し違うエスティは、冒険を楽しみにしているのか落ち着きなく掲示板を眺めていた。
「これなのだ」
私は通常依頼の場所に貼られた依頼書を指す。
「旅人の平原のゴブリンを8体退治、ここってちょうどオダマちゃんが倒れていたところ辺りだよね?」
その通りだ。今日の計画なんてもうどうしようもなく破綻してしまっている。
だからこの依頼を受ける目的は焦土化させた場所を確認するためのものだ。
「そうだな、訓練にはちょうどいい依頼だ」
「ん、楽しみ」
フラスとエスティも了承してくれた。
それを聞いていたリアスは受付カウンター越しに声をかけてくれる。
「決まりましたら依頼受諾処理をしますので、依頼書をお持ちになってこちらにお越しください」
「相変わらずその営業じみた対応は気持ち悪いな」
「いえ、他でもない騎士団長様ですからね! 誠実な態度でお・も・て・な・し・をしているだけですわ」
やっぱりこの二人はなにか仲が悪い。
一体どんな関係なんだろう。
リアスに依頼書を渡すと、ギルドカードを確認後、一旦奥に引き込んだ。
そして依頼書にハンコのようなものを押して返される。
「はい、これで依頼受諾しました。くれぐれもゴブリンだからと油断しないでくださいね!」
「もちろんなのじゃ。依頼、任されたのだ!」
「それでは行ってらっしゃいませ!」
フラスには営業笑顔、私には自然な笑顔を見せ、ギルドから送り出された。
・・・
レグルスの町の外に出る門(市門)までの道は、早朝だけあって、昨日と比べ行き交う人は少なかった。
相変わらず目立っていることには間違いないが、ずいぶん気が楽である。
南の市門まで来ると、門番らしき人物が無言で敬礼をして通してくれた。
旅人の平原までの道中は暇だったので、エスティから形だけでも魔法の使い方を教えて貰っていた。
「オダマ、詠唱はこうする。光の精よ、迷える弱きものに導きの光を。フォトンボール」
エスティが魔法を唱えると、本人を中心に魔法陣が展開され、手に光の粒子が集まり、球体が生成された。
その光景は幻想的であり、今、異世界にいることを再度認識させられる。
「分かったのだ。やってみるのじゃ!」
私も同じ魔法を覚えていたので試しに使ってみた。
「光の精よ、かの邪悪なるものに裁きの・・?? あれ、なんか難しいのだ」
同じ魔法を唱えようとすると違う詠唱が頭に浮かび上がってくる。
もしかすると魔法の熟練度により詠唱も変わったりするのだろうか?
「マスターの魔法とは構成が根本から違うからな」
(ルビィ? どういうこと?)
信念伝達スキルでルビィに話しかける。
変装術のせいか、スキルによって投げられた声もオダマ"ちゃん"の声だった。
「そこの嬢ちゃんが使うのは真正光魔法、マスターが使うのは重合光魔法だぜ」
(もう少し分かりやすく説明してくれ)
「要するに純粋な光魔法か、同じ光魔法でも特性が変化したり、複数の性質を持っていたりするかの違いだ。マスターは基礎となる魔法盤を作ったときの構成、覚えていないのか?」
ゲームEOLの魔法には、一般魔法、召喚魔法、環境魔法、死霊魔法などいくつか種類がある。
魔法盤は一般魔法を覚えるための板で、魔法盤にブロック状の宝石をパズルのように埋め込み、魔力を流し込むと魔法を習得できるというシステムだ。
宝石には魔力の流れる方向があり、宝石の練度や組み合わせや、魔力の流れ
(回路構成)により習得する魔法と効果が変わった。
(適当に組んだだけだよ)
魔術回路の構築は魔力伝導率、消費魔力量、燃費、詠唱短縮、再詠唱時間、発動数、同時詠唱数、効果範囲、発動魔法、修得に必要なスロット数など考え出すとキリがない。
面倒くさかったのでWikiに載っていた構成図を半分以上パクっている。
「それにしてはマスターの魔術の構成はもの凄いぞ! 全属性の初期魔法と、3属性の上級魔法が使えるんだからな。2属性の魔術が使えることだけでも珍しいのにどうやったらこんな構成ができるんだ?」
魔術回路にもっとこだわったアバターは別にいるし、私以上の廃人プレイヤーだっていたはずだ。
ルビィの珍しいとはNPCを基準に言っているのだろう。
しかしながら、魔術回路の構成が全く違うとなると、エスティの授業はつまらないものになりそうである。
面白くするためにもお得意の病気で話を脱線させることにした。
「そうなのだ! カッコいい光魔法の詠唱を思いついたのだ」
”---光陰よ、踊れ! 荒れ狂え! 波状となりて万物を飲み込め!”
”万物流転 《パンタ・レイ》”
「うん、すごくいい。なら、こんなのも・・・」
”---数多の集いし光よ! 我がマナに反照し、散乱し、光暈を燈せ!”
”感光反射 《ハレーション》”
エスティも中々なもので張り合ってくる。意外とノリがいい。
「その詠唱は同じ言葉を並べているだけのような気がするのじゃ。もっと意味のあるものがいいと思うのだ」
「む、繰り返し、強調する、だからいい」
「二人とも。 複雑な詠唱をしたところで、意味がなければ子供騙しでしかないぞ」
フラスがまともなことを言ってきた。
それによりエスティは自分が言っていたことに気づき、急に恥ずかしそうな顔をしてうずくまる。
あら^~いいですゾ。中二病はロマンだからね? 私も好きです。
そんな感じに魔法の練習をしているうちにいつの間にか例の平原までたどり着いた。
・・・・・・
「よし。少し早いがこの辺りで昼食の準備をしようか?」
フラスは自前のアイテム袋を取り出すと、中身を漁り始める。
「昼食なのだ?」
「こういうところで食う飯は旨いからな。オダマちゃんもお腹が空いているでしょ? 準備してきたぞ」
「おおー!!」
これは野営というやつだろうか?
そうなるとファンタジー世界ならではのモンスターの肉や、見たこともない魚、中には口に合わない珍味を食べることになるだろう。
教会や宿では、まだ、牛肉、鶏肉ぐらいしか食べていないので心配だが、少し楽しみでもある。
期待の眼差しを向ける私に、フラスは自慢するようにバスケットを差し出した。
「なんとフローラさんお手製のサンドウィッチだ!!」
「・・・」
「わー嬉しいのだー(棒」
「どうした? マスター、急に元気なさげな感じになって」
期待外れというのもあるが、サンドウィッチといえば・・・
(あー、うん。ちょっとダークロードに殺された光景を思い出してな)
・・・・・・
スキル「遠方視認」
90
→82(成功)
憂鬱な昼食のあと、私達はゴブリンの捜索を行っていた。
食べたものがサンドウィッチだったという実感が沸かない。
気持ち悪い感覚を忘れるためにも索敵に集中していた。
「あそこにいるのだ!」
敵をいち早く見つけた私はフラスとエスティに伝え、身を低くして隠れた。
「オダマちゃん。それは何をやっているの?」
「隠れているのだ」
「後ろ、見えているよ」
「なんじゃと!」
どうやら頭隠して尻隠さずという状態になっていたようだ。
やっぱり潜伏スキル値が1のアバターだ。
「オダマちゃんは気づくのが早いわね! 敵の目星は戦いの基礎でもあるから良いことだ」
フラスは腰に刺していた剣を抜き、目の前に構える。
「どうするのじゃ?」
「勇者を目指すなら剣の心得も必要だろう。まずは私が手本を見せよう!」
抜かれた剣はよく見るとただの鉄の棒切れで、例えるなら廃品鉄パイプの表面に歯車のような彫刻が施されたものだった。
持ち手の近くには小さくエツデナ商会と刻んである。
「機械剣」
フラスの一言によりその棒切れは次々と変形し始め、柄頭が生成され、柄の形状が変化し、鍔が展開され、刃は長く、そして鋭く光り輝かせる。
鉄が組み合わさる音が鳴り止むと、棒切れは立派な西洋剣になっていた。
(なんじゃそりゃーー!)
「勇者オダマ。戦闘において重要なことは3つだ!!」
フラスは踏み込み、剣に力を込めるとともに一気に加速してゴブリンに向かって飛び出した。
「ちょっと待つのだー!!」
ええ~! 何その剣、というより私とエスティは後衛だというのに距離もお構いなしに突撃しますか? 後衛が襲撃を受ける可能性とか考えないの?
フラスはゴブリンの懐までくると、その長い西洋剣を振り落とす。
「壱! 相手を圧倒させる筋力!」
1匹のゴブリンを両断した後、剣の先端の形状が杭のように変わり地面に突き刺さった。
「ギャー!」
剣を振るったフラスにスキができたと思ったのか、周囲のゴブリンが一斉に襲ってくる。
しかし、加速されたフラスの体は止まらず、地面に刺した杭を基準にコマのように回りゴブリン達を蹴飛ばした。
「弐! 攻撃の隙を与えない攻撃力!」
飛ばされたゴブリンの一匹は、地面に着地すると同時に追撃が来て絶命。
フラスが残りのゴブリンに剣を向けると、再度、剣が展開され今度は太さが数十センチはあるだろう大剣に組み変わる。
「そして参! 相手を確実に仕留めるパワーだー!!」
振り上げられた大剣はゴブリンが持っているナイフごと吹き飛ばし、そのまま手をすり抜け、回転しながら周囲の敵をフードプロッセッサーのように切り刻んだ。
「マスター、この人、相当な脳筋だぜ!」
剣 84 → 41(成功)
ゴブリンA:HP5 → -8(再起不能)
機械剣 形態:γ
ゴブリンC:「突き」(自動失敗→反撃)
ゴブリンB:「斬る」(自動失敗→反撃)
キック 90 → 74(成功)
ゴブリンC:HP4 → 2(気絶)
ゴブリンB:HP7 → 0(瀕死)
ゴブリンE:HP5 → 2(自動気絶)
槍 70+18=88 → 10(成功)
ゴブリンE:HP5 → -2(絶命)
機械剣 形態:α
ゴブリンD:HP6 → -2(絶命)
投擲 89+15=104 → 90(成功)
ゴブリンC:HP2 → -10(再起不能)
ゴブリンF:HP5 → -4(再起不能)
ゴブリンG:HP4 → -5(再起不能)
ゴブリンH:HP6 → -4(再起不能)
すさまじい勢いでログが流れていく。
あまりの早業に私は呆気に取られていた。
ログにはスキルという文字が見あたらないため、ここまでの動きは自力でやっていたということだ。
そして何より驚いたのは・・・
フラスの剣は連続する鍔鳴りのような音を立てて、ただの棒切れに戻る。
(おいぃぃ! ファンタジーどうした!!)
ゲームの頃の武器分類ガン無視のメカニカルな剣の登場に、私は心底でツッコミをいれる。
「よし、オダマちゃん、真似してみろ!」
《できるかーい!》
「うむ! 無理じゃな!!」
「おお、すまん。ついクセでオダマちゃんが倒すゴブリンを残していなかったよ!」
(あのー、そういう問題じゃなくてですねフラスさん)
「依頼、完了?」
エスティも何とも言えない顔で呆然としていた。
この分なら別に私が斬撃飛ばしても問題ないんじゃないかな?
「オダマちゃん。ちょっとこっちに来てみ?」
(うぇ、その死体だらけのところに来いと)
若干引き気味にフラスのところまで来ると、一面に散らばるゴブリンの無残な肉塊を目の当たりにする。
ただ、それを見て気持ち悪いと思っただけで、不思議と吐き気はしなかった。
(私も一歩間違えれば、騎士団長にこんな感じにミンチにされていたのか)
「いわゆる、マスターの成れの果ての姿ということだな」
(そうだね・・エスティの宿に泊まれることに感謝だな)
ん? ルビィ、今なんて言った。
「オダマちゃん。魔物を倒した時はこのように稀にドロップ品がある。ゴブリンなら銅貨程度だ」
フラスは肉塊の中にある硬貨を指しながら言う。
私が初めに倒したゴブリンからは金貨がドロップしたのにその違いは何だろう。
じっくりドロップ品を見ようとしたとき、ダボダボの服を踏んづけてしまい、思いっきりコケた。
「はぅ!」
その勢いで、スタッフでフラスを叩いてしまう。
(殺ってしまった!) そう思った。
いくら涙のスタッフが弱いからといって、攻撃ステータスが高い私が武器で相手を攻撃したのだ。
ただで済むわけがない。
慌てて起き上がり目を見開くと、フラスがゴブリンによって負っていたかすり傷が回復するのが見えた。
「!?」
「あら、私に回復魔法をかけてくれたの?」
「違うのだ」
(何が起きたのだ?)
メニューウィンドウを呼び出し、ログをスクロールさせた。
叩く
78
→24(成功)
ダメージ
-2
(マイナスダメージ!?)
「マスター、装備のステータスを見てくれ!」
ルビィが驚いていたので、言われるがまま装備ステータスを開く。
・装備ステータス
両手:涙のスタッフ
攻撃:-8
(攻撃がマイナス値になっている!)
「ああ、俺も初めて見たぜ。そのスタッフは攻撃力が弱すぎる。それに加え、マスターの体格に合わない武器だからかマイナス補正が掛かっているようだぜ」
体格による補正? そんなパラメーター聞いたことがない。
(まさか? マイナスだから回復したといことなのか?)
「信じられないがそうとしか思えんな」
・・・・
「はい、8体のゴブリン討伐完了です」
無事、依頼を済ませた私たちは、ギルドに戻って依頼完了処理を行っていた。
目的の焦土化した場所は、何事もなかったかのように平原が広がっており少し安心した。
あの後も何体かのゴブリンを発見したが、魔法も物理も使えない私には当然出番はない。
そんな感じで依頼が完了したので、ギルドから貰った報酬も私は断固とし受け取らなかった。
「今日はなにもできなかったのだ」
ギルドから宿への帰り道にてつい不満が出てしまう。
決してフラスのせいではないが、うまく異世界生活を始められないのに憤りを感じていた。
「・・・オダマちゃん。ちょっと私の昔話をしよう」
フラスに私がどう見えたのかが分からないが、不意に昔話を始める。
「私も前は冒険者をやっていた時代があってな。あの頃はとにかくがむしゃらで、魔物を見つけては片っ端から全力で潰しに行っていた」
なぜだろう、騎士団長がヒャッハーしているところが何となく想像できた。
「騎士団に入ってからもこの戦い方を続けていたが批判するものも多くてな」
(まあ、そりゃーそうでしょうね。後衛からしたらはた迷惑だもん)
「ああ、全くだ」
ルビィも賛同してくれる。
初めて気が合ったような気がした。
「だが、あるときレグルスに現れた冒険者が改めて証明してくれた。その王道の戦い方こそ強さだと」
(そんなバカな証明をしたのは誰だよ。全くもう!)
「ん? ん~そうだな。本当にバカな奴もいたもんだな」
「そう、私は伝説級冒険者、ブジョーノ・オダマにあこがれている。魔物や魔族は卑劣な手を使って戦うのに正々堂々と挑む姿勢。たとえ一人でも、無謀な状況でも、正面からただ貫くことに専念し勝利する姿は、私たち騎士というもののあり方を教えてくれたんだ」
(あー 、改めて考えると素晴らしい戦法だなー。考えた人ヤバイ、天才かもしれん)
「ただ単にスキルがないだけだろマスター。いい加減、現実を見た方がいいぜ」
「オダマちゃんにはその面影があるわ。そう何も急がなくても、将来有望な冒険者になれるぞ!」
(はっはー、面影もなにも本人ですからね)
「マスターが有望・・?」
やっぱりルビィ。貴方は私とは馬が合わない!!
・・・
宿近くまで戻って来るとフラスは足を止めた。
「どうしたのじゃ?」
エスティと私は振り向き、フラスの様子をうかがう。
「済まないが私は騎士団長としての仕事がある。ここで失礼させていただこう」
「そうなのだ?」
フラスだっていつまでも初心者冒険者の相手をしているわけにはいかないのだろう。
騎士団長という立場は、私には想像つかないほど多忙で、そんな中、付き合ってくれていたのかもしれない。
「フラス。ありがとなのじゃー」
「どういたしまして! それとエスティ殿にはお世話になった。両親には先に挨拶をしていたが、改めてお礼を言っておいてくれないか?」
「む、伝える。必ず、また来て」
「心配しなくても、マナリス教会もこの宿も常連さんにさせてもらうよ」
エスティと私は手を振りながら見送った。
・・・
宿に戻った私は匂いに誘われるように食堂に吸い込まれてしまった。
「お待ちしておりました、オダマ様。エスティ様。本日の冒険お疲れ様です。ご食事の用意ができています。どうぞこちらへ」
食堂に入ると、当たり前のようにウェイトレスが席に案内してくれる。
食堂は相変わらず席が余っていたが、昨日よりも少し人が多くいた。
エスティも一緒に連れられ、私の前に座らされていた。
「それではしばらくお待ちください。本日はシェフのおすすめのコース料理になります。万が一お口に合わないものがありましたら遠慮なくお声かけください」
流石は高級宿屋だけあり対応が良い。今だけでも上流階級なったような気分だ。
「ん、ここの料理、舌がとろけるほど、おいしい。覚悟、して」
(ほう、It is interesting! <<それは興味深い>>)
「マスター、なにいっているんだ?」
エスティの宣言通り、次々と出される料理は文句の付け所がなかった。
最近のコンビニ弁当美味いなと思っていたのが嘘のようだ。
惜しいといえば、やっぱりファンタジー世界ならではの料理がなかったことだろう。
美味しい料理を食べると自然と会話も弾む。
主に中二病的な話しかできないが、控え目なエスティも、その本性を隠しきれていないのがまた面白かった。
・・・・・・
「疲れたのだ~」
自室に戻った私はベッドにうつ伏せに倒れこむ。
「お疲れ。マスター」
部屋に戻る前に、エスティの両親に一言伝えたかったが見かけることはなかった。
うつ伏せの状態で部屋の周囲を見ていると、ふと、立てかけているスタッフに目がいった。
起き上がり、手に取ってみる。
そのまま試しに自分の頭をスタッフで叩いてみた。
「コツン」
「あたっ!」
優しくたたいたつもりが、スタッフの重さで思ったより勢いよく当たる。
しばらくの間、おでこを抱えてうずくまった。
「うう~ん。痛いのじゃ~」
痛かったが、ログにはオダマに-4のダメージと表示される。回復はしたらしい。
「マスター、何やっているんだ?」
「本当にダメージを受けないのか、回復量が変わったりしないのか確かめているのじゃ。いざというときに役には立つのだ」
「マスター! なんと健気な!」
ルビィが感動していた。
なんか苛立ったので、また、超級覇王電影弾の刑にした。
「ぶっ、まあ~、俺はマスター以外は見えないし、声も聞こえないから傍から見たらそういう痛い人と思われるだろうな。ははっ!」
冷たい目でメニューウィンドウを見る。
「コホン、俺には信念伝達スキルで話すこともできるから、次からそうするこ・」
無言でメニューウィンドウを回した。
「んあーー! やめろーーーー!!」
高速回転するウィンドウを見たフラスは、私にダーツを渡してきた。
ギルドホールのどこからかドラムロールが流れ始める。
「ぱーじぇーろー! ぱーじぇーろー!」
「貴様ら~~! それが人間がやることか~!」




