016. ギルド公認、伝説級《に痛い》冒険者
あけましておめでとうございます。
そして、ストックがお亡くなりになったのでしばらくお休みします。
自称勇者(行き倒れ)である私は、シスターのエスティさんと騎士団長のフラスベールさんに街を案内してもらうことになった。
案内してくれるのはありがたいのだが・・・
(じぃ~~~っ)
なぜか教会を出た後からエスティの視線を感じる。
私が何かしたとでもいうのだろうか?
「あっ、フラス様、今日はどちらに向かわれるのですか?」
通りすがりの女性が話しかけてきた。
「新米の冒険者のお世話ですよ」
何気なく騎士団長は返す。
他にも道行く男性からは好意、女性からは憧れのような視線が騎士団長に向けられていた。
騎士団長フラスベールがそれだけ有名な人だという証拠である。
その分、後ろから付いて来ているエスティと私も一際目立っていた。
「この当たりでは見かけない冒険者だな」
「あの子、滅茶苦茶かわいい!」
「決めた!俺は靴屋を辞めて冒険者になるぞ! これからは彼女の靴となるんだ」
(きっと私のことではないだろう。隣にいるエスティのことを言っているはずだ。
私はおじさんだ。私はおじさんだ。私はおじさん・・おじさ)
自己暗示をかけて恥ずかしさを緩和させた。
・・・・・・
この国は非常に豊かである。
道には大道芸の芸が輝き、行く人は子供から大人まで誰もが笑顔が絶えない。
(うん、既に知っているから! 2度目だから!)
自分で自分にツッコミを入れる。
先導してくれている騎士団長の説明は、ほとんどクレアから聞いた内容ばかりである。
退屈だが相手は親切心でやっているので興味深そうに聞くしかない。
ディ〇〇ーランドで、同じアトラクションで案内人が違うクルーズ船に2回乗るような気分だ。
「よし、オダマちゃん。次は生活の基盤となる商業区に行こう! 武器や防具、雑貨、食材となんでも手に入るわよ」
終いには、騎士団長は、私にとって二度目となる地獄の商業区を案内すると言い出した。
「妾は早くお金を稼ぎたいのだ・・・」
思わず本音が出てしまう。
そんな私にエスティは助言をしてくれた。
「お金を稼ぐ。 冒険者ギルド、一番早い」
「エスティの言う通りであるが、冒険者として活動するためにも体を鍛える必要があるぞ。オダマちゃん」
"体を鍛える"という言葉に反射的に拒否反応が出る。
そのため、適当に思いついた言い訳をした。
「わっ、妾の得意分野は魔法なのだ。体を鍛える必要はないのじゃ!」
事実、サブクラスを変更すれば魔法だって使える。
後から突っ込まれても問題はない。
「撃たれ弱い魔法使いは実践で真っ先に狙われるわよ」
「うぐっ」
ごもっともである。ゲーム脳の私でも分かってしまった。
クラス隠修士のレベリング中もそれは痛いほど味わってきたからだ。
(元のオダマの体ならそこそこ鍛えられているからいいのになー)
いっその事、変装術解こうか? いい加減めんどくさくなった。
解いたときの周りの反応が怖かったからあえてこのままでいたが、今の苦労を考えたらマシだと思う。
「ふっふっふ、そう言っていられるのも今のうちだけじゃ。妾の本来の姿を見るがよい!」
華麗にジャンプをした後、某特撮の仮面をかぶった騎乗者クラスのようなポーズを取る。
「変身! 解除!」
魔王アバターでやったように、頭の中で変装術の解除を念じた。
(・・・あれ、解けない)
身体には何も変化が起こらず、残ったのは場のシラケた空気のみだ。
「オダマちゃん、そのポーズは何かな?」
フラスベールは笑顔で質問してきた。
隣でエスティも私と同じポーズを真似している。
「・・・メオルの伝統芸能なのだ~」
私は半泣きで答えた(堪えた)。
・・・・・・
「でも、冒険者としてギルドを知っておく必要もあるよね。オダマちゃんはレグルスで冒険者登録はしていないでしょう? ギルドに行きましょうか?」
「妾は、登録し・・・」
"登録している"と言おうとしたが、一つの考えが過る。
(待てよ。このまま冒険者ギルドに行けば今の問題も解決するんじゃないか?
このアバターは各地を転々として、多くの功績を残してきたS級冒険者だ。
そして、ゲームではたとえ変装した状態でギルドに来たとしても、S級冒険者ブジョーノオダマとして扱われていた。ギルドにはなんらかの本人照合システムがあるかもしれない)
「騎士団長殿、冒険者ギルドまでの案内よろしくなのだ!」
「了解しました! 勇者殿。それと、私のことはフラス、もしくはベールでいいわよ」
身分など気にせずに話してくれということだろう。
実にいい人である。
「じゃあ、ギルドに行く前に・・・」
フラスは、私のダボダボの服を見る。
「まずは服を買いに行きましょうか?」
「えっ!?」
服だと!? それは女物のしかも子供用のものではないか?
嫌がる私を取り押さえ、着せ替え人形のようにされる未来が容易に想像つく。
「い、嫌なのだ。これは大切な人の形見なのじゃ!!」
着ている服を大切に握りながら必死で泣き真似をした。
何が何でも阻止しなければならない。
スキル「演技」
50
→23(成功)
「あっ、ごめんね。オダマちゃん。そんなつもりじゃなかったのよ」
フラスは私があまりにも泣きまねが上手かったのか、嫌な出来事を思い出させてしまったと考え、結局、服を買いに行くことはなくなった。
・・・・・・
騎士団長フラスの案内により、私達は王都レグルス西区の冒険者ギルドの前まで来ていた。
周りの建物と比べひときわ目立つ大きな屋根。
2階建てでありながら、3階建ての家より高く作られてある。
(キター! 懐かしの初心者ギルド!)
ゲームを始めたころは色々なアカウントでよくお世話になっていたものだ。
私はギルドに向かって一目散に走っていくと、正面にある両開きのドアを勢いよく開けて入った。
後からフラスとエスティがゆっくり付いて来る。
ギルドホールにいた冒険者たちは皆、珍しい訪問者に注目していた。
「おいおい、フラスさんはついに子持ちになったってか?」
「畜生! 昔から狙っていたのになんてことだ! もう俺の人生は終わりだ」
入口より少し奥の方の壁に寄りかかっていたガラの悪そうな冒険者達が言う。
そんな冷やかし(?)にフラスは冷静に剣をふるって対処する。
冒険者の頭擦れ擦れの壁に剣をぶっ刺した。
「次にそのようなことを言ったら、ただで済むと思うなよ」
「ひぃ~」
「でも、そういうところもスキ!」
フラスがテンプレ冒険者とドンパチやっている中、私は受付に直行していた。
少し高めの受付台に背伸びして顔を出す。
「ここは冒険者ギルド、"ビギナーズ"です。冒険者の支援から、依頼の受付、素材や道具の売り買いなど、なんでも承っております! 何か御用でしょうか?」
受付の人の懐かしのセリフ。
いつの間にか読み飛ばすようになっていたメッセージも、今では安心感を持てるものとなっていた。
「妾はS級冒険者、オダマだ。ブジョーノ・オダマなのだ。妾に似合った依頼を受けにきたのじゃ!」
背伸びした足がプルプルしている。
「ええっと、では、ギルドカードはお持ちでしょうか?」
「なっ」
(ギルドカード?・・・しまった! それを入れていたアイテム袋ごと盗まれたんだった)
思考がフリーズして体が固まってしまう。
「どうしたの、オダマちゃん」
丁度、フラスはちょっかいを出した冒険者達をシバキ倒して戻ってきた。
固まっている私の代わりに受付人が答えてくる。
「この子がですね、ブジョーノ・オダマだから、難しい依頼を頂戴って言ってきたのよ」
「オダマちゃん。いくら勇者になりたいからって、伝説級の冒険者と名乗るのはどうかと思うぞ」
「伝説級?」
首を傾げる私に受付の人が自慢するように言ってきた。
「ブジョーノ・オダマ様は、どんな魔物に対しても、堂々と正面から戦う正統派冒険者です。これまでにもギガントバジリスクや、エメラルドドラゴンなどを単騎で倒し、多くの人たちを救ってきました。彼はS級冒険者の中でも特に優れた逸材、伝説級と呼ばれているのですよ」
伝説級と来たか。これは聞いていて悪くない。
思わずニヤケ顔になった。
フラスも受付の人に賛同するようにうなずく。
「そうだ。きっと今も魔王軍と最前線で戦っているはずだ。こんなところに来るわけがないよ」
(いえ、こんなところに来ています。貴方の目の前にいますよ)
「こんなところとは失礼ね? 騎士団長さん」
「そうだろ? 初級冒険者の躾もまともになっていないのだから」
「では、先ほど壊した壁の修繕費を頂こうかしら?」
受付人と騎士団長の間にはなぜかわからないが険悪な雰囲気が漂っていた。
「ふん、それで、王国一の武闘派騎士が今日はどのようなご用事でしょうか?」
「この子をレグルスで冒険者として活動させたくてね。ギルドカードを作ってくれないか?」
受付の人は私を見て意外そうな顔をする。
「本当なのだ。妾はS級冒険者のオダマなのじゃ・・・」
思い通りに行かない私はボソリと言った。
「そのS級冒険者になるためにもギルドカードを作りましょうね」
完全に子供扱いだ。悔しいがどうすることもできない。
「ギルドカードを発行しますので、まずはこの書類に名前をお書きください」
ゲームの頃の登録とは違い、契約書のような書類を差し出された。
文面は紙一枚程度に収まる内容だったが、問題は
「読めないのじゃ・・・」
困っている私に横からエスティが助けてくれる。
「読んで書いてあげる」
「ありがとなのだ」
文字が読めないことは珍しくないのか、受付の人やフラスは特にこのやり取りに疑問を持ってなかった。
ただ、住む世界が違う私はどうも腑に落ちない。
(言語が違うのにどうやって私は話すことができているのだろう? 自動翻訳スキルでも持っているのか?)
エスティが書いてくれた名前もやっぱり読めないような字であった。
・・・・・
「はい、ありがとうございます。それでは次にこの水晶に手を当ててください。現在のクラス適正、ステータスを測ります」
一通りの事務処理が終わったところで、ゲームでも有名なステータス鑑定の水晶が目の前に出された。
差し出された水晶に素直に手を当ててみる。
(ん? よく考えたら何もオダマのネームバリューに頼らずとも、クラスやステータスがS級冒険者と証明してくれるのでは? 今はサブクラスに勇者もある。ゲーム準拠なら、ギルドの持つ水晶はキャラクターの全てのステータス情報を見ることができるはずだ)
水晶に浮かび上がる文字を受付の人がじっくり確認する。
すると、突如、驚いた顔をして声を上げた。
「ふふふ! だから言ったのだ! 私がオダマであり伝説級の・・・」
「クラスは隠修士ですね」
(あれ、サブクラスは分からないのか?)
「見かけからして治療士と思っていましたけど珍しいクラスですね! あと、ステータスは・・・」
受付の人がステータスの欄を読もうとすると次第に水晶の光りが強くなっていく。
終いには煙が発生し、風船のように破裂した。
「ひゃあ!」
(フフフ、これはステータスが高すぎて水晶では測りきれなかったというものですね! わかります。
これから伝説級の冒険者オダマだと担ぎ上げられ、チヤホヤされる未来が見えるぞ!)
「ん~ 機械の故障かもしれませんね。ギルド長なら詳しく解析できるかもしれませんけど、生憎、今日はいらっしゃらないですからね」
思わずズッコケた。どうやっても伝説級冒険者オダマとは見てくれなそうだ。
「とりあえずギルドカードは発行しますね。犯罪歴等はなさそうなので」
(あの水晶は犯罪歴まで見ることができるのか。迂闊なことはできないな)
水晶の便利さに感心した。
そんな私を受付の人は冒険者登録に不安を感じていると見えたのか、優しい声で言ってくれる。
「大丈夫ですよ。冒険者は危険な仕事ばかりではないです。5年も続ければ運搬者クラスになれますよ」
ものすごく馬鹿にされてたような気がする。
「新人冒険者となると、訓練を受けることもできますがいかがなさいますか?」
「ああ、是非ともお願いしたい」
フラスが勝手に了承した。
私的には必要ないし、そんな怠いことはしたくはない。
(はっ! そうだ! 別に測定器に頼らずとも、実力で示せばいいだけのことなのでは)
「よろしくなのだ!」
私は元気よく返事した。
そして受付の人に案内されるがまま、笑顔で演習場に向かうのであった。
この後、私は"二度あることは三度あるという"ことわざを身に染みて思い知ることとなった。
・・・・・
受付の人に案内され、ギルドの裏手にある演習場に到着した。
演習場は何人かの新人と思われる冒険者達が訓練をしていて、木刀がぶつかる音がする。
そして、中央には中年でありながら筋肉質の教官らしき人物がいた。
「腰を落とせ! 踏み込みが甘いぞ!」
(カッコいい!)
指導する教官を見て思わずそう思ってしまった。
変装術は思考にも影響が出るらしい。凄く微妙な感覚だ。
(あんな教官に冒険者のHowToを教えて貰えるならうれしいかも)
筋肉質の教官は私達の存在に気付くと指導を止めて、こちらに向かってくる。
先に受付の人が教官のところまで行き説明をしていた。
教官は騎士団長がいることに少し驚いているような感じだ。
「これは騎士団長殿。お噂はかねがね聞いております」
「ああ、ガルド教官殿。以前は世話になったな。今回はだたの付き添いだから気にしないでくれ」
そう言うとフラスは私を見る。教官の視線も自然と私の方に移された。
「嬢ちゃんが新しい冒険者かい?」
「ふっふーん♪ そうなのだ! こう見えて私は勇者なのだ。結構強いのじゃ」
張れるような胸がないが胸を張って言った。
受付の人は困り顔で教官を見ると、教官はそれから何かを察したようだ。
「・・・まあ、とりあえず実力を確認しよう。得意な攻撃を私に対して使うがよい」
ええ、やってやりますとも。見せてやりますとも。
・・・・・・
騎士団長や受付の人、シスターエスティ、訓練していた冒険者達までもが見守る中、私は教官と対峙していた。
教官は手ぶらな私を見て不思議そうにする。
「お嬢ちゃん。剣は持たなくてもいいのか?」
「妾は魔法の方が得意なのじゃ。剣は邪魔なのだ」
本当は手加減ができないかもしれないからである。
攻撃力を弱めた魔王アバターでも剣を振ったら斬撃が飛んで行ったんだ。
攻撃特化の段ボールおじさんが振るうと大ごとになることは分かる。
そうなったら訓練どころか犯罪者になり兼ねない。
教官との距離を少し取り、メニューウィンドウを展開させる。
「いつでもどこからでもいいぞー!」
教官の通る声が伝わってきた。
私はサブクラスを魔術師に変更して構える。
流石に焦土化させるわけにはいかないが、無詠唱でやれば通常の威力くらいになるはずだ。
クラスを変更したときエスティが眼を見開いていたような気がした。
「ふっ! ならば妾の魔法を見よ! サンダーボール!」
「・・・」
あたりは静まり返った。なぜかって? 何も起きないからだ。
「なぜじゃ!? なぜ何も起きないのだ?」
答えは簡単だった。MPが0になっていたのだ。
MPなんてほとんど使った覚えがなかったのに!
(・・・あっ! そういえば、スキル、チートにMPが消費されるとか書かれてあったような?)
冷や汗をかいている私を周りの人が、めっちゃ暖かい目で見ている。
少し遅れて教官が叫んだ。
「うあ~~痺れる!! 流石勇者様の電撃~~~」
フォローしてくれたのだ。
「うおおおぉぉぉ~~!」
教官はやられの名演技を披露すると、ボロボロになったつもりで私のところまで来る。
「勇者のお嬢ちゃん。素質ありますよ。だから、私がさらに伸ばしてあげますよ!」
がっしり体系のイケメン教官が、肩をがっしり掴んでサムズアップした。
(全然嬉しくない!!)
何だろう。最近、痛い行動ばかりしている気がする。
きっと、これもアバターのせいだ。
魔王(大人視点)
道には吟遊詩人の歌が響き、行く人は貴族から奴隷まで誰もが笑顔が絶えない。
オダマ(子供視点)
道には大道芸の芸が輝き、行く人は子供から大人まで誰もが笑顔が絶えない。
同じ景色でも変わって見えるものです。
・・・
華麗にジャンプをした後、某特撮の仮面をかぶった騎乗者クラスのようなポーズを取る。
「変身! 解除!」
魔王アバターでやったように、頭の中で変装術の解除を念じた。
(・・・あれ、解けない)
身体には何も変化が起こらず、残ったのは場のシラケた空気のみだ。
「ウソダドンドコドーン!」




