015. また、教会スタート
目覚めたとき、目の前には洋風の天球が広がっていた。
いわゆる、知っている天井・・・だったからまた寝た。
(絶対に起きたくない!)
だが、それをシスターさんは見逃してくれなかった。
「エスティさん、平原の女の子が起きましたよ!」
そう声がかかると、可愛らしい小さな足音が近づいて来る。
近づいてきた人物は、どこかで聞いたことのある冷淡な声で言った。
「寝ている・・・」
私は必死で寝たふりをする。
周りからはきっと、ゴブリン程度にやられた哀れな奴と思われているはずだ。
早く別のアバターに代わるか現実に戻ってほしい。
(まだ寝ているぞ~、このままほっといてくれ~~)
そう願う私とは裏腹に、表の腹が言うことを聞かなかった。
「ぐう~~~~」
ついお腹がなってしまう。
渋々体を起こし、何食わぬ顔でシスターエスティを見た。
「おはよう。体、大丈夫? お腹すいている?」
シスターからは何か食いたい顔に見えるようだ。
「うむ・・・」
私は何故か素直に返事をしていた。
・・・・・・
しばらくすると、手元に簡単な食事が用意された。
”絶対食欲なんかに負けたりしない”と意気込んでいた私は、無意識に食事にがっついていたようだ。
・・・空腹には勝てなかったよ。
我を忘れて食べていると、エスティが私の前に座ってきた。
しばらくじっと見た後、話しかけて来る。
「あなた、助けられた。名前、何?」
「エスティ先輩、流石にそれは・・・」
あまりにもぶっきら棒な話し方だったため、エスティを呼んだもう一人のシスターがフォローに入る。
聞いている感じだとエスティが年上、もしくは立場が上のようだが、見た目はフォローに入ったシスターの方が色々と成長していた。
「私は、ここマナリス教会のシスター、"ユニス"です。こちらがエスティ先輩。あなたが平原で倒れているところを騎士団の方々が助け、先輩が看病をしてくださったのですよ」
「ん、よろしく」
紹介されたエスティは短く返事をする。
ユニスは続けて私に質問してきた。
「あなたのことも、教えていただけませんか?」
・・・さて、なんて答える?
「旅の者ですが」と言っても、この世界で最弱のゴブリンに倒される者が旅をするなんて無謀にもほどがある。
だからと言って、王都に住んでいることにしたとしても、家まで送り届けると言われたときが面倒だ。
正直に旅の途中、平原でダークロードに襲われたというべきか?
でも、よく考えたらそのダークロードに心当たりがある。
確か、ラリゴの配下にダークロード軍団がいたような・・・
とにかく、今は魔王アバターが魔王軍の召集命令をかけている以上、レグルス周辺は平和なはずだ。
わざわざ混乱を招くようなことを言うべきではない。
ここは適当に誤魔化しておくか。
(ええい! なるようになれ!)
「わーっはっは! よくぞ聞いたぞ、シスター! 妾はメオルの勇者と称される者、勇者オダマじゃ!」
なぜだろう、すごく死にたい。
私はコミ障を拗らせ、ゴミュニケーションをするようになったようだ。
若干引き気味のシスターユニスは聞いてきた。
「メオルでは初対面の人にはそんな挨拶をするのでしょうか」
「うっ、うむ、そんなことも知らないのか。最近の流行りじゃな!」
メオルの国の人ごめんなさい。風評被害です。
「なぜ、平原に倒れていたのですか?」
「勇者の特訓をしていて疲れてしまったのだ!」
「ええっと、それじゃあどうやってレグルスまで来たのですか?」
「勿論、勇者の力を使ってじゃ!」
(いける! 勇者という言葉は万能!)
「はぁ・・・そういわれましてもとても勇者には・・・」
ユニスは私のひ弱な体を見て言った。
(なんとでも思うが良い。何せこっちには切り札がある。
魔王アバターのとき、何も言っていないのにエスティは私のクラスを知っていた。 おそらく、エスティはクラス看破系のスキルを持っているはずだ。
そして今の私には勇者クラスがある。
今までの妄言がエスティさんの一言により、本当のことに変わってしまうのだ。思い付きの作戦だったが、案外私って頭いいな!)
私はエスティの方を見て、必死で訴える。
今なら自力でテレパスが使えるかもしれない。
(さあ、言うが良い、言ってくれ、その一言を!)
エスティはそんな私を見て、首を傾げただけだった。
(ノーーン!? なぜだ? もしかしたらサブクラスは読み取れないとかそういう制限があるのか?)
結局、教会の人達からは、田舎村から商人の馬車に乗ってきた勇者願望のただの行き倒れという認識になった。
・・・・・・
食事を終えた後、私はクレアに見てもらったときと同じように、身体に異常がないかエスティに確認してもらっていた。
服はさっき返されたヒーラーの服に着替えている。
傷一つなく、相変わらずサイズが合わないぶかぶかな状態である。
着替えている途中、エスティとユニスが私を囲っていたが理由が分からなかった。
体を検査してもらっている間、私もメニューウィンドウを開き、自分の状態を見てみる。
堂々とエスティの顔の前にウィンドウを展開したが特に反応がなかった。
どうやら、他人にはメニューウィンドウは見えないようだ。
メニューウィンドウを見たとき、真っ先に重大なことに気づいた。
(お金が0G・・・)
「そのー、エスティとやら、妾のアイテム袋は知らないか?」
「知らない。落ちていなかった」
エスティからは素っ気ない返事が帰ってくる。
かすかな希望にかけて聞いてみたが、やっぱり盗まれたんだろう。
お金と時間をかけて必死で集めたものは、一瞬の夢の様に儚く
私はただ、床に両手をつけて落ち込むことしか出来なかった。
「オダマ、どうした?」
「お金もアイテムも、武器もない・・・」
「んー、そう」
今後しばらくはアカウント名と同じく、段ボールおじさん生活をする羽目になりそうだ。
・・・・・・
メニューを詳しく見ていると、致命傷だったのに回復している理由が分かった。
スキル一覧に見覚えのないスキルが追加されていた。
スキル「チート」
自動起動スキル
チート的な能力が稀に発動する。能力の内容はランダム。起こりうる事象によりMPが消費される。
判定時はどのステータスで判定されているかわからず、判定結果も分からない。
(・・・もしかして、これのおかげか?)
このアバターで教会に復活地点は作ったことはない。
仮にスキル"チート"により、死者を生き返らせるような効果が発動したとするならどうだろう。
それでも服まで元通りになるものなのか?
ダークロードに切られた日までログをスクロールして確認する。
すると、原因らしきものが見つかった。
魔法「時間の逆行」
魔法の判定結果が記載されていない。おそらくスキル「チート」が変化したものだ。
効果が全く分からないが名前的にもこれしか考えられない。
そんな考察をしていた時、部屋の入口あたりが騒がしくなった。
ざわめきの中から逞しい女性の声がする。
「助けた者たちの様子はどうだ?」
「さっき起きたばかりです、あちらにおります」
差された方向には私がいた。
部屋に入ってきた鎧姿の女性は、堂々とした様子でこちらに歩いてくる。
目の前まで来ると、目線を合わせ自己紹介をし始めた。
「私はこの国の騎士団長、"フラスベール"である。助けた者達が気になってきたのだが、体調の方はいかがかな?」
なんと、女性は幾度もなく私を助けてくれた騎士団の団長とのことだ。
女性が騎士団長を務めているのは珍しいが、それだけ実力がある人なんだろう。
なんにしても感謝してもしきれない恩がある。ここは誠実な態度でお礼をしなければ・・・
「助けてくれて、ありがとなのだ~」
腑抜けた声がした。うん、私の声だ。
「ふふっ、元気そうで何よりだ」
騎士団長は私の失礼な態度を気にせず笑ってくれた。
この人、いい人である。
「もう一人はどうした?」
フラスベールは近くにいたシスターに聞いた。
ちょうど、隣のベッドを整えていたシスターが答える。
「体に異常もなく、すぐに復帰できる状態でしたので早々に出ていかれましたよ」
「そうか、まあ、大事に至らなかったことは良いことだ」
「だた、その子には問題がありまして・・・」
何やら、シスターと騎士団長は私には聞こえないような声で話し始めた。
話を聞いた騎士団長は目を輝かせながらこちらを向く。
「オダマちゃん。勇者志望だそうね。でも、いきだおr、じゃなく、事情がありお金も住むところもないと聞いたよ。なに、遠慮はいらない。この王国一の騎士が一人前になるまで面倒見てあげるわ!」
騎士団長は私に衣食住を提供してくれるだけではなく、成長するまで付き合ってくれるという。
お人好しである。
これでは私は引きこもり学生を通り越して、更生施設のお姉さんに手取り足取り、リハビリを受ける人になってしまう。
男として非常に恥ずかしい。いや、今は女だからいいのか?
ただ、彼女の言う通りアテがないのも事実である。
少なくとも、お金を稼ぐまでの何日間はお世話になりたい。
「ん、私も付き合う。オダマについて行く」
何かを受信したエスティが私を抱きしめてアピールし始めた。
「ええ~、エスティ先輩は教会のお仕事があるじゃないですか」
「クレアだけ外に出るなんてズルい。私もたまには冒険する」
ユニスは必死でエスティを止めようとしていたが、言うことを聞かなさそうだ。
「うむ・・・よろしくなのじゃ」
エスティの柔らかい肌攻撃に魅了され、私もつい了承してしまった。
この後、いろいろ話をした結果、シスターエスティと、騎士団長フラスベールにレグルスを案内してもらうことになった。
・・・・・
「あっ、ちょっとお待ちください」
教会を去り際、私は一人のシスターに止められた。
止めたシスターは顔立ちが清楚であり、胸が規格外に大きく、これぞ聖女であるという雰囲気をか持ち出している。
聖女は手を伸ばし私の顔に触れると呟く。
「女神、マナリスの加護が貴方にもありますように」
いわゆる"おまじない"をかけてくれたのである。
スキル「チート」→「蠱毒の呪い」
ログに何やら不穏な文字が流れたので、慌ててメニューウィンドウを開く。
状態異常の欄に「???」という項目が追加されていた。
スキル「状態鑑定」
90
→41(成功)
ゲーム EOLでは相手からかけられた状態異常が分からないこともある。
そのため、面倒であるが状態異常になったときは魔法かスキル、もしくはアイテムで鑑定する必要があるのだ。
状態異常「孤独」
"あらゆる状態異常攻撃を防ぐ、もしくは回避することができる。
どのような状況下でも、自分だけは生き残るという強い意志の表れ"
(は? めちゃすごい状態じゃね? というよりそれ、こどく違い!)
思わず二度見してしまった。
恐る恐る、私に何をしたのかシスターに聞いてみる。
「わっ、妾に一体何をしたのだ?」
「ん? 健康でありますようにとお呪いを掛けてあげたのよ」
どうやら、私のチートスキルはバフを何倍にも強化したようだ。
やらかしたー
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