011. 魔王の帰還
「お願いです! 裏通りの広場におぞましい化け物が現れたんです。
戦っている人がいるのです。力がある方は助けてください」
クレアは広場から少し離れたところまで逃げると、必死になって助けを求めていた。
アスカさんはある程度タフな人のようだが、遊び人が勝てる相手ではない。
でも、実力のある冒険者や騎士なら化け物を退くことができるはず。
だが、クレアは気づいてしまった。
ここは商業区、そして、今、冒険者のほとんどは魔王君臨の知らせを受け、狐の森に行っている。
そして、なぜか周囲に騎士が一人もいない。
神様があざ笑うかのように雨が降り始めた。
「お願いいたします! 誰かアスカさんを助けてください!」
必死で訴えかけるが、周りからは
「化け物だって!? それってもしかして魔王じゃないか?」
「急いで逃げるぞ!」
そんな声しか上がらない。
日頃の行いに罰が当たったのかもしれない。
「こんなんじゃ・・・埒が明かない」
(遊び人であるアスカさんでも私を守るために戦っているのに、ヒーラーである私が逃げてもいいの?)
もうアスカさんは化け物によって殺されているかもしれない。
頭にはもらった髪飾りの感触があった。
出会って大して付き合ったわけでもないけど、あの方はいい人だとわかる。
薄っぺらい遊び人としてではなく、私を一人の女性として意識していた。
「くっ!・・・」
クレアは意を決して杖を取り、来た道を全力で戻り始めた。
・・・・・・
(死屍の吹き溜まりの番人?)
そういえば確かに、番人として5層あたりにキマイラを置いていたような?
名前は・・・ 力のステータスが高く、見た目が獅子、蛇、竜と、なんか複雑だったため「ゴリラでいいや!」てな感じで付けてた。
とりあえず思い出したが、これは聞いておかないといけない。
「俺がなぜ魔王だとわかる?」
「そりゃーそうですよ。私たちと魔王様は魂と契約しているのです。たとえ、見た目や振る舞いが変わろうと魔王様だとわかります!」
「なるほど、(わからん!) では、撤退命令は聞いたか?」
魔王城の最後にメイド、リリーシュが言っていた言葉を思い出す。
(メイド隊と侵攻軍の者たちを召集・・・)
もし、それが本当なら、ラリゴにも撤退命令が来ているはずだ。
「私はまだ、魔王様が下界にいると思っていましたよ。あんな2層の雑魚死神の言うことなんて信用ならないですかれねえ? さあ、魔王様、王城へ帰りましょう!」
なぜ撤退命令を知っているのに、ここに俺がいるか気が付かないあたり、やっぱりゴリラだ。
「ふむ! だが残念だったな。魔王城への転移ポイントを今はもっていない。ここからでは遠いだろう。しばらくこの町に滞在する予定だ。いやー本当に残念、残念!」
すました顔で嘘を付く。
だって、これ以上関わりたくない。
滞在ついでに、高跳びの用意をしなければ・・・
「あっ、それ私、持っていますよ! 今から飛ばしますね」
「えっ、ちょ、まっ」
ゴリラは俺の許可も得ずにリテレポートを発動してきた。
その時、後ろから声が聞こえた。
「アスカさん! やっぱり私も戦いま・・・」
放たれた魔法により周囲が光に包まれ、
クレアが目を開けたときには誰もいなかった。
「あれ・・・アスカさん?」
「アスカさん! アスカさーーーん!!」
響き渡った声に返事は返って来ない。
だれもいない路地に少女はたたずみ、ただ、雨の中、髪飾りを握るだけであった。
・・・・・・
転移先は魔王城の前だった。
俺は変装を解除して魔王の姿に戻っていた。
魔王城の番人が驚き、城内の悪魔に伝える。
「魔王様だ、魔王様が帰られたぞ!」
あの慌てよう、たぶん相当探していたのだろう。一部の魔族から反感を買っていてもおかしくない。
これからそんな魔族たちを統制するなんて胃が痛い。
だが、ここまで来て逃げるわけにはいかない。
(最後くらいはクレアさんに挨拶をしておきたかったな)
転移前にクレアさんの声が聞こえたのを思い出す。
(どっちにしろ王都にはもう戻らないだろう・・・)
「我は部屋に戻る。ラリゴお前はすべての配下に魔王の間に召集をかけろ! 3時間後に凱旋演説をする」
「はっ! 魔王様! それではここにて失礼します」
ラリゴは闇の中に消えていった。
俺も転移魔法にて自室に戻る。
スキル「高速思考回路」
83
→52(成功)
(まずは、演説内容を考えなければ。それ以外にも色々準備することがある)
・・・・・・
3時間後、俺は長い通路の先にある魔王の間の扉の前にいた。
扉の先からはざわめき声が聞こえる。
一呼吸おいて重い扉を開いた。
フロアには800ほどの魔族が並んでいた。
当初、魔王城には7000の軍がいたはずだ。まだ、戻ってきていない配下が多いのだろう。
メイド隊もまだリリーシュ1人のみだ。
魔族たちの前には腰が引けている俺とは違って、堂々と腰を掛けるための玉座が置いてある。
玉座に座ると辺りは一気に静まる。
(うあ~~めっちゃ見られている)
ここからが正念場だ。
ある程度、適当に言ってもセリフが魔王ぽく変換されることは実証済みだ。
後は、どれだけ説得できるかが重要である。
大丈夫、作戦は立てておいた。
「長らくの間ここを空けて済まない。探してくれた民のものたちには感謝しているぞ」
魔族たちの顔が少し緩んだような気がした。
スキル「支配者の闇」
90
→81(成功)
恐怖状態を与えるデバフをスキルを発動させる。
「だが、貴様らには失望している。たかが3ヵ月、我が不在になっただけでこうも取り乱すとは!
イスターカーテンの陥落? 誰がそんなふざけたことを言った!」
言葉とスキルにより魔族たちを威圧する。
そう、自分のことはさておき、配下の所業に怒る、
「ザ・棚上げ」作戦である。
「拠点の戦力を空にして地上に立つなど何たる愚行! それこそイスターカーテンが落ちる原因だ!」
魔族たちはただ怯えることしかできない。
「思議せよ! お前たちには頭があり、我が作ったイスターカーテンには計り知れないほどの力がある」
「イスターカーテンの力と、お前たちの知恵があれば永遠に不滅だ!」
さて、どういう反応を示すだろうか?
これで反感を買い、魔王暗殺を狙うやつがいたとしても即逃げる準備は出来ている。
静まった魔族たちから、称賛する声が上がり始めた。
「イスターカーテン万歳!」
「魔王様、万歳ー!」
「魔王様、最強!」
「魔王様ーーー♡」
次々と、飛び交う称賛の声は次第に魔王コールに変わる。
「ま、お、う! ま、お、う! ま、お、う!」
(・・・なんだこれ?
というより、滅茶苦茶恥ずかしいから止めてー!)
俺の頭の中にある、なんだコレクション
略して、何コレに新な項目が登録された。
なんだコレクション
F001. 割引盗賊
F002. 人面スライム
F003. 路上に落ちる謎の女性服
F004. 称賛魔族
ゴリラ的には放つリテレポート
略して、ゴリテレポート (ボソッ
クレアさんはシリアスやっているのに、魔王さんはコメディしてる




