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空洞と魔法と雨  作者: 気怠げなシュレディンガー
第1章 道化師の選定
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第4話「生きている意味」

「道化師になれってどういうこと?」


 レミルはさっきまでのピエロフェイスはやめて、真面目な顔つきになっていた。


「今、この世界は崩壊寸前なんだ。ある一人の女の子によって。君たちの世界で起こった放火も全て彼女の仕業だよ」


「……え? 女の子?」


「そう。この世界では、『神』だの『悪魔』だの呼ばれているたった一人の女の子。その子は僕なんかが束になっても敵わない程の力を持ってる」


 ラノベを読み込んでいた自分たちだからこそ、事の重大さはある程度理解できる。

 つまり、世界の危機らしい。現実離れし過ぎていて、真摯に受け止められていないのが現状だが。



「何で、そんな奴が俺たちの世界に火なんてつけたんだ?それも、本が置いてあるところだけを」


「それは僕にも分からない。ただ、彼女はこの世界だけに留まらず、君たちの世界も消し去るつもりだ。

それを止めるために、道化師が必要。

つまり、道化師を決める選定に君たちに出てもらいたいんだ」


「レミルさんは? レミルさんがいるのに、何で新たに決めるの?」


 そう聞くと、レミルは苦笑いを浮かべた。


「僕はもう用無しだよ。僕は彼女を止めるだけの力は持っていなかった。言ってしまえば、道化師クビってところだね」


「だから、俺たちになって欲しいと?」


「そう。選定は五つのグループから行われる。

空洞(ホロウ)』『偽造(フェイク)』『背徳(ロンドアー)』『狂乱(フレンズィ)』『憂鬱(グルーミー)』の五つのグループの一つだけが、『道化師(クラウン)』の称号を獲得出来る」


「なんか暗い言葉のグループしかねぇな……もしかして、殺し合いとかあったりするの?」


 既視感という訳でもないが、何故かお決まりの感じがして、何気なく訊いてしまった。


「……まぁ、しなくても良いんだけどきっとどこかのグループは仕掛けるよ」


 無理だ。ハッキリ言って無理だ。

 生まれてから争いごとを避けてきた人間が、魔法なんていうものが使われる殺し合いに行ったところで肉壁にもならない。自分から死体になりに行くようなものだ。


「無理です」


「え?」


「道化師目指すの無理です」


「最後まで話を聞いてくれないかい?」


「いやいや、どう考えたって無理でしょ! きっと選定に参加する奴らは、アンタみたいなバケモンしかいないんだろう? そんなのに放り込まれたら、一瞬で死体になるよ?」


「どちらにしろ、彼女をこのまま放っておけば

僕たちは死ぬんだ。それに、君たちにも魔法は使える。まだどのような能力なのかは分からないけど、きっと対抗できるはずさ」


 手に持っている本に目線を移す。黒いページをめくってみる。確かに、自分たちにも魔法は使える。



「それでもだろ…まだ使い方も分からないのに。

そもそも何で俺たちなんだ? 助けてもらえたのは本当に感謝すべきだけどさ、俺たちは普通の人間だよ? 別に誰かより優れてる訳じゃない、ただの高校生だけど……」



「『見誤っていなかった』って言ってたけど、どういうこと?」


 ずっと、疑問だった。

 雨沢藍徒と雨沢灯火はただの一般人だ。

 誰よりも、勉強や運動が出来る訳では無い。

 誰にも持っていない才能や特技を持っている訳でもない。

 ただの普通の人間。

 そんな奴らにかける期待値なんて、殺し合いにおいてゼロに等しいはずだ。


「そんな私たちを、何で「特別」みたいに言うの?」


「あ、もしかして「君たちには、秘められし力があるんだ」ってそんなラノベの原文そのまま読み上げたみたいな感じだったりする?」


「今どき、そんな安っぽいセリフもないよ」


 お得意の妄想を繰り出している藍徒と、また怒り(ラノベ作家様の)を買いそうな発言をしている灯火。

 対して、レミルは前を見据えて黙り込んだままだ。

 沈黙が続く。生憎、なぜか時計もないので大広間は音が全く聞こえて来ない。

 とうとう耐えきれなくなって、口を開く。


「え、えーと…レミルさん?」


「ほら、藍徒さんが中二発言するからレミルさん引いちゃったんだよ」


「魔法なんていう中二の権化がある世界で、中二の耐性なかったらやってけないだろ」


「言われてみたらそっか」


 こんなやり取りを終始みてたレミルがようやく回答を口に出す。その顔には憐憫れんびんよりももっと複雑な感情が出てた。





「それは、君たちが『空っぽ』だからさ。道化師の選定に参加する条件、それは心に欠陥を抱えていることだよ」










 世界が止まったように感じた。少なくとも、自分たちの意識は完全に止まった。


 言うな。何故言った?

 それだけは、気付きたくなかったのに。

 いや、気づいていた。

 自分の中で、せき止めていた。

 自分たちが一番よく知ってた。


 「そんなことないよ」なんて言える訳も無く



「やっぱ、そう思う?」


 ヘラヘラと顔を引きつらせて笑うしかなかった。


「藍徒さん、顔に出やすいからね」


「いやー初対面の人にバレちまうか。ちょっと気をつけなきゃな」


「でも、よく分かったね、レミルさん。私たちなるべく隠してたのに」



 やめろ。



「そうだよ。もしかして、魔法で人の心覗けたりも出来るの?それじゃあ隠し通せないな」


「そんなこと出来るの? 藍徒さん絶対にろくな事に使わないでしょ? そんな魔法使えるようになったら」


「灯火も人のこと言えないだろ?まぁ、事実だけどさ」



 やめろ。やめろ。



「なんだ。俺たちに凄い力があると思っちゃったじゃんか。レミルさん、焦らすからマジでそうなのかもしれないって期待しちゃったよ」


「藍徒さん、何言ってるの。私たちが『特別』なことなんてある訳無いよ。今まで無かったように」


「やっぱ、脳内お花畑か俺は。そうだよな。

そんなこと言われていたら自分のこと『空っぽ』なんか思うことも無いんだからな」


「嘘でも、言って欲しかったよね」


「いや、そんなの嘘って分かったとき一番心抉られるから」


「あ、それもそうか」


 ケラケラと、乾いた笑いが止まらない。




 やめろ。やめろ。やめてくれ。




 これ以上自分を傷付けたくない。



「そうだ。何度でも言おう。君たちは『空っぽ』だ」



 道化師は(おど)けて人を笑わせるもの。

 でも、今の彼は自分たちを焼き尽くしたあの炎よりも、がらんどうの心を抉る。


「特別な何かになりたい。自分の生きている意味が欲しい。誰からも忘れられたくない。嫌われたくない。期待されたい。何よりも、自分を好きになりたい」



それを願っていた。それだけを願っていた。



「そのために面白くなくても笑って、自分が傷付かないように自分を殺して、人形と変わらない別の自分に希望を持たせようとする」



そうやってきた。そうするしかなかった。



「でもそんなことしてる自分に嫌気がさして、ますます嫌いになって、簡単に、でも本気で死んでしまいたいって思う」



そう思った。自分のことをそんな風にしか思えなかった。



「そんなの『空っぽ』に決まってるじゃないか」



 息が出来ない。何か言葉を発したくても首を締められているように塞がる。

 その通りだ。

 「特別」だなんてとんでもない。

 むしろ、普通にもなれていない。

 自分たちは、心に大きな欠陥を抱えている。



 「特別」になりたくて分不相応な夢を見て、誰にも嫌われたくなくて、自分の感情を噛み殺した。

 自分を守りたくて、自分を殺した欠陥人間だ。

 そう再認識するとどうも心の底から悲しみと嫌悪感がとめどなく溢れてくる。

 「このまま、消えてしまいたいな」と。


「でもね」


 沈んでいた顔を上げる。

 そこには、優しい笑顔のレミルがいた。


「僕は君たちに笑顔でいて欲しい。そのためには、この選定を勝ち取って欲しい。この選定は世界を救うために行われるものだけど、道化師となったあかつきには自分たちの欠けた心を満たすことが叶えられる」


「……俺たちも勝ち抜いたら、空っぽの心を満たすことが出来るのか? 道化師になれば生きている意味が分かるのか?」


 必死の形相で、縋り付くようにレミルに問いただしていた。


「ああ。きっと叶えられる」


 それを聞いた瞬間に、救われたような気持ちになった。同時に自分たちがやるべきことも理解した。

 道化師になること。それ自体が今の自分たちの生きる理由だ。


「改めて、問おう。雨沢藍徒と雨沢灯火。

君たちは、道化師になってくれるかい?」


 答えは、もう得ている。


「……なるよ。世界を救うのも大事かも知んないけど、俺たちは俺たちのために道化師になる。

自分たちの生きている意味を手に入れるよ」


 それを聞いてレミルは、自分のことのように嬉しそうな表情になった。


「ありがとう。たった今から君たちを『空洞』として道化師の選定に参加してもらう。

君たちは『空洞』だ。いつかその名前を捨てれるようになることを僕は祈っているよ」



 自分たちは「空っぽ」だ。

 だけど、そんな感情はおしまいにしよう。

 自分たちの生きている意味を見つけよう。



 死んでいた目は光が灯り、リストカットの傷だらけの心はもう一度心音を響かせる。


 雨沢藍徒と雨沢灯火はようやく顔を上げて、前

へ進もうとしている。


感想を書いてくれるとモチベーションが上がります。甘口も辛口もいいので暇だったら書いていただけると、とても嬉しいです。

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