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空洞と魔法と雨  作者: 気怠げなシュレディンガー
第1章 道化師の選定
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第2話「炎上する世界」

「灯火、そっちはいいのあったか?」


「ううん。最近は、ハーレムものばっかり。流石に萎える……藍徒さんもこういう感じのが書きたいの?」


「一応の一応、書いてる者として言わせてもらうと、結構夢よ? ハーレム」


「ハーレムだけに留まらず、主人公が最強って……やはり、ご都合主義」


「でも、嫌いじゃないでしょ?」


「……嫌いじゃないけど、多すぎ。こんな感じのばっかりだとつまんない」


 こんな会話をして、一面文庫本だらけの本棚から、次から次へとラノベを手に取っている。


 それはともかくとして。

 なんかラノベ作家を敵に回しそうな発言をしているそこの少女よ。少し黙ろうか。


 彼らが日常的に入り浸っているこの書店は、日本でも有数の広さを誇るもので、専門書のコーナーは一つ一つが小さな店舗ほどの広さが設けられている。ここラノベコーナーも例外ではなく、縦にも横にも広い本棚の中に文庫本が整然と並べられている。


 彼らは営業時間終了ギリギリまで居座り、新たな名作を発掘するために死力を尽くし、探究心を燃やし、探し求める。


 彼らにとっては使命感そのものなのだが、他の客や従業員からしてみれば、血眼で本棚に齧り付くように探していたり、良い作品を見つけたと思えば、その場で延々と討論し合う迷惑な客にしか思われていない。


「まぁ、確かに灯火が言うことにも一理あるし、今日はあまり収穫無かったしな……帰るか」


「今日も、だよ」


 疲労と落胆の表情が浮き出ている。あまり収穫が無かったと言っていた割には、手に持つカゴの中には違うタイトルのラノベが十冊ほど積まれていた。

ラノベコーナーを後にしようとレジに向かおうとした時、灯火が何か違和感を感じた。


「なんか、今日お客さんいない……それに従業員も」


「ん?  こんな時間まで居座ってる奴らなんて俺たち以外いないだろ?」


「そうだけど……まるで、誰もいないみたい」


 そう言われたので周りを見渡してみる。

 確かに誰もいない。夜遅い時間というのは事実だが、あまりにも人気が無いように感じられる。

 不気味な静けさが、そこにはあった。


「言われてみれば……」


 そうだな、と口にしようとした時何か後ろからパチパチと弾ける音がした。振り返って見る。



 すると、本棚に敷き詰められた本に斑模様のような火がついていた。


『……は?』


 少し目の前の状況が理解出来ず、呆気に取られていた。しかし、炎が燃え広がっていることに気づき意識は急速に覚醒する。

 肌で感じ取った。死の予感を。


「ヤバイ……! 行くぞ、灯火!」


 気がついたら彼女の手を取り、書店だった空間を文字通り必死に駆け抜けていた。


 炎はとどまる事を知らず、周りの書物を呑み込んでいく。目が開けてられないほどの煙にたかられ、それでも、目を抉じ開けても冗談抜きの火の海が眼前で波打っている。立ち止まっている場合では無い。頭では分かっているのに、体は「諦めろ」と言わんばかりに動きが鈍くなる。


 炎は書物を呑み込んで際限なく膨らみ、一瞬のうちに周囲を赤に染め上げた。

 もはや逃げ道と呼べるものは、そこからは焼き尽くされて消えていた。ただ、霞む視界を赤が埋め尽くしていく。


「クソ…! 意味が分からねぇ! なんでだよ!」


「藍徒さん……」


「まだ、まだ俺たちは何も残せていないのに…

なんで……なんでだよ……!」


 絶望的な状況に涙交じりに疑問と苛立ちの塊を吐くが、煙を吸った事によって意識が朦朧とし、必死に駆け抜けた脚がふらついた。

 必死の逃走も虚しく、二人はその場に倒れこんだ。せめて、手を繋いだこの少女だけは。と、歯をくいしばるが体は言うことを聞かない。

 消えかけていく意識の中で、灯火の手をしっかりと握っていた事に、嬉しさと悔しさが疼く。


 目がゆっくりと閉じていく。肌を刺すような熱はもう感じない。嫌になるほど鼓膜に響いた炎の音も聞こえてこない。段々と、世界から切り離されていく。



 この世から、二つの命が消えた。誰の記憶にも残らない様に、焼き尽くされて、灰になって、消えた。


















「こんなんで、死ぬの?」


 ふと、目を覚ます。まず、血が通ってきた頭に浮かんだのは疑問符だった。さっきとは逆に体は活動していることを認めているのに、頭は自分が存在していることが理解できない。

 脳裏にはあの赤く染まった景象が、鮮明に映し出されている。



 しかし、こうして心臓は動き、息をしている。

自分の体が灰になっていないことを確認したところで、大事なものが欠けていることに気づく。


「……! 灯火は!?」


 自分よりも大切な少女のことに、意識は傾く。

 慌てて周りを見渡すと、少し離れたところに横たわっていた。


 不安が一気に押し寄せ、すぐに灯火の側に駆け寄る。すると、静かな寝息が聞こえてきた。

 心の底から安堵し、同じように倒れ込む。


 そして、目が覚めた原因である声の方へ目を向けた。


「良かった。君たちに死なれたら、僕も立つ手が無くなるところだった。まぁ、いいや。取り敢えず、そこのお嬢さんが起きたらお茶にする?」


 そこには、こちらに笑いかけながら話しかけてくる、道化師がいた。






ども、気怠げなシュレディンガーです。

長いので、気怠げとでもお呼び下さいませ。

今回の灯火の発言は寛大な心で(特にラノベ作家様は)許して頂けると幸いです。

死ぬほど暇な時に見てくれると丁度良いかも知れません。

これからも頑張りますので、どうか宜しくお願い申し上げます。

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