二日目 お店と冒険者と動揺と友達と
「ここが言っていたお店ですか……」
宿を出てからまたしばらく歩いて、ようやくお店にたどり着きました。
もうこんな暑い中は歩きたくないってくらい歩きました。
足がいつもの数倍に腫れているんじゃないかって錯覚してしまいます。
「最近は暑くなってきましたから、ここまで来るのにも結構疲れてしまいますね。ちょっと運動しようかなぁ……」
「そうですね。私もだいぶ疲れましたし、お腹も減ってきちゃいました。私も運動したほうがいいかもです」
正直、旅に出るまで魔法の練習はしてきましたけど、元から家で本読んだりとかのほうが好きでしたし、最近の長旅で多少慣れたとはいえ、今の私にはこの日差しの中での長距離移動ははかなりきついです。
「それにしても、なんかあんまり食事とかするところには見えないですね。どちらかといえば酒場みたいな……」
お店の前後は田畑と林に囲われているからか、とても横に広い建物で入り口は大きく開いていて扉もついていませんし、外観は家っぽくもお店っぽくもなく、木造の酒場かなにかにしか見えません。
少なくとも、ここを一目見て食事するところだとわかる人はいなさそうです。
「やっぱりそう見えます? 実はその通りで、ここ夜は酒場になるんですよ。私は夜行くことはないんですけど、あとはこの中にこの村の冒険者ギルドも入っているんですよ」
「すごいですね、この建物一つでそんなに色々やっているんですか……」
「小さい村だからなのか、結構いろんな施設が統合されてる気がしますね。わたしとしては結構用事を済ませるのが楽だったりしてるのでいいですね。まぁここまでがちょっと遠いんですけど」
確かにいくらいろんなところに行かなくていいとはいえ、この距離をどうせ歩くのだからプラスかマイナスかと言われればマイナスでしょう。
ともかく、ここの外観は酒場を思わせるようにして作られたんでしょう。
「ここで話していても暑いだけですし、中に入りましょうか」
そう言ってそのまま中へと向かう。
……おっと、私も眺めていないで行かないとです。この暑い中にいては溶けてしまいそうですから。
「そこまでたくさんの人はいないんですね……」
中に入ると思ったよりも涼しく、たくさん掻いた汗に風があたり、汗と一緒に不快感が消えていく。
中は、たくさんの丸机と椅子が並んでおり、十人くらいでしょうか? この村の人であろう人が談笑しながら食事を楽しんでいました。
「基本的に食事は自分の家か最初に行った集会所でって人が多いですから、でも、これでも村の人口から考えると結構多いんですよ? とりあえず適当な場所に座りましょうか」
「そうですね……あれ、奥のところってカウンターですか?」
奥の方を見て見ると、区切られたスペースにお店の人であろう女性と数人のお客さんがカウンターをはさんで座っていた。
やっぱり、ああいったカウンターを見ると酒場にしか見えませんね。
「そうですね。あっちに座ります?」
「あそこら辺の人達にも挨拶をしたいのでそっちの方がいいですね。リリィちゃんは大丈夫ですか?」
「はい、わたしはどこでもいいですよ」
リリィちゃんの了承を得られたので、そのままカウンターまで進む。なんか周りの人に見られてる気がします……。初めて見る顔だからですかね? こそこそと話しているんじゃなくて直接話かけてくれればいいのに。
「お久しぶりですルーシーさん。それと、タクさんとリュウさんも」
カウンターのあたりまで来ると、リリィちゃんがカウンターにいた人たちに手を振って話かける。
「ん? おやリリィじゃないか、最近はめっきり来なくなったから心配してたんだよ」
「お、アザレアさんとこの娘じゃないか。」
「久しぶりだな。あのおっさんは元気にしてるのか?」
それぞれが好き放題言っているせいで若干リリィちゃんが困惑しています。それにしてもほんとにほとんどの人と関わりがあるんですね……疑っていたわけではないですけれども。
それでも、こうして直接みると本当に仲がよさそうで、とても楽しそうに思えて少し、羨ましいです。
「すみません、最近は父が倒れてから少し忙しくて、父は元気にやっていますよ」
「それはよかった。なんか適当に作ってやるからアザレアさんに食わしてやるといいよ。……ところで、そこの白髪の娘は……?」
「わざわざすみません。えっと、こっちの人が昨日言っていたソラさんです。手紙で送ったと思うんですけど見ました?」
なるほど、どうやって村の人に伝えたのか気になっていたんですが手紙だったんですね。わざわざ回ったのかな、とか考えちゃいました。
送る手段なんてなかった気がしますけど……。
「ん、ああ、あれかい一応見たけどすっかり忘れてたよ」
「もう、しっかりしてくださいよ。あ、すみませんソラさん、紹介が遅れました。こちらの女性がルーシーさん、ここのお店を一人でやってるんです。」
紹介されるとぺこりと頭を下げて、挨拶をしてくれる。
ルーシーと呼ばれる女性は、40代くらいの暗めのほとんど黒みたいな茶髪を後ろで縛っていました。
見た目からは威圧感があって少し怖いのではとも思いましたけど、とても優しそうな方みたいです。
「ソラです。これからもたまに会うことがあると思います。そのときはよろしくお願いします。ところで、一人でって大丈夫なんですか?」
「よろしくおねがいするよ。んーそもそも、そんな人が来ないからねぇ、大変ではあるけどまぁなんとかなってるよ」
挨拶を済ませると、リリィちゃんは次はこちらの方たちですといってそのまま紹介をしてくれる。
リリィちゃんが指した先に居たのはカウンターに座っていた仲のよさそうな二人の男性。
「こちらのお二人はタクさんと、リュウさんです。この村の中では結構若いほうです」
「ご紹介に預かりましたー。冒険者をやってるタクです!! んで、こっちは俺と一緒に冒険者をやってるリュウ」
「リュウだよろしく」
元気に挨拶をしたタクと名乗るほうは茶髪に若干金色が混ざった髪をしている男性。短剣を携えているし、恐らく斥候職の方でしょう。
もう一人のリュウという青年はあまり喋るほうではなく、どちらかといえば冷静そうなイケメンで男性にしては少し長い藍色の髪をしています。こちらは武器を持っていないようです、魔法職ですかね?
「ソラです、旅人やっています。よろしくお願いします」
「よろしく!! ところでソラさん。少しよろしいでしょうか?」
タクさんがいきなりまじめな声のトーンへと変わる。いきなりなんでしょう?
いきなり、髪を整え真剣な顔をしだすタクさんをみると、リュウさんはなぜかため息をつき始める。これだけでもう先を見越しているみたいです。すごいですね、心が読めるんでしょうか。
「はい、なにかありましたか?」
『一目ぼれしました!!!! 付き合ってください!!!!』
パーーンッッ!!!!
大きく立ち上がって膝をついて手を握られる。そのままこちらを見上げるようにするといきなり告白? をされる。しかし、しばし硬直し、反応が取れずにいるとすぐさま後ろからものすごい勢いで叩かれてタクさんが飛んでいきました。。
「えっ? えっと? 一体何が……?」
一度に起きたことが多く戸惑っていると、タクさんを叩いた本人であるリュウさんがタクさんを指さして……。
「すまんな、こいつ阿呆なんだ。こいつの言うことはまじめに聞かない方がいい」
なるほど?
…………というか今、私告白されましたよね? つまり、それは、私のことが好きってことで……魅力的ってことで……? あれっ、待ってください考えれば考えるほど顔が熱くなっていきます!!?? でも、そんなこと言われたの初めてですし!! えっえっえっっと………私はどうすれば……わかんないです。だってこんなこと今までっ……!?
頭から煙を出し、顔を真っ赤にしながら思考がショートする。
ソラは外観だけはよく告白されてもおかしくはないのだが、ソラの家族の影響が強く、とてもじゃないが告白をされるという経験をすることなんてなかった。らしいぞbyスキエンティア
(深呼吸しろーマスター)
ふぇっ!? し、深呼吸……? すーはー……ふぅっ……少し落ち着きました。ありがとうございます。
(気にすんな、面白いもんも見れたしな)
お願いですから忘れてください……っ。
(俺に忘れるという機能はねぇんだなこれが、いつでもその情報を持ってこれる)
うう……まさか、不意打ちとはいえこんなにも取り乱してしまうとは。
全部タクさんのせいですっ。
******
「ソラさん! 大丈夫ですか?」
脳内で会話をしていると、リリィちゃんに呼びかけられる。どうやら、顔から煙だして固まっていたらしいです。
「す、すみません、あんなこと言われたの初めてで……」
「あれに関してはタクさんが悪いので気にしなくていいと思います。……今タクさんはリュウさんに叱られてるところです」
「そう……ですか」
「ところで、ソラさん」
「……はい?」
「ソラさんはなんて返事するんですか? 多分、タクさんあれ本気ですよ?」
返事……そうですね、返事しないといけないですよね。
まぁ私は。
「断ります……かね」
別に、そういったことに興味がないわけでも、顔や性格の問題というわけでもない。ただ、付き合ったりとかそういうのは、仲が深まってからしたいと考えている。
まぁ性格自体も合わなさそうですけどね。
「まぁ……初対面の人にいきなり言われたらそうなりますよね」
******
そんなことをリリィちゃんと話していると二人とルーシーさんが戻ってきました。どうやらこってり絞られて来たみたいです。
「ソラさん、いきなりすみませんでした。心の底から反省してます。でも、一目ぼれっていうのは本当ですし! 何より本気で……」
「すみません、お気持ちはうれしいですけど、遠慮させていただきます」
タクさんは謝りながらも、こちらの目をしっかりと見つめたままそう言う。
しかし、誠意のこもったまっすぐな気持ちを向けられているのですから、こちらも誠意をこめて返すのが礼儀です。だから、私はタクさんの目を見つめながら真剣に返事を返す。
「うぐっ……やっぱだめかぁー!! でも俺諦めないんで!! 気が変わったらいつでも言ってください!! あと、とりあえず友達になってください!!」
パーーンッッ
再度お店の中にとてもいい感じの、高い音が響き渡る。
あ、また叩かれて……しかも頭が床にめり込みかけてます。痛そうですね……。
「あきらめろよ、ほら、ソラちゃんも呆れてんだろ」
「別にいいですよ?」
「「「へっ?」」」
「ですから、友達になりましょう?」
「やめとけ!? こいつ根はいいやつだが、見ての通りのやつだぞ!?」
リュウさんがかなり強めな口調で言ってくる。私のことを思ってなんでしょうけど、それは流石にタクさんに失礼なのでは。
「ぜひお願いします。これから、友達としてよろしく!!」
一気に元気が出たのか、ガッツポーズをしながら喜んでいる。私の何がそんなにいいんでしょうか。
「ほんとにいいのか? 考え直した方が……」
タクさん逆の意味でリュウさんからの信頼高いですね……。
それでも、友達になりたいといってもらえることなんてありませんでしたから、少し嬉しいんですよね。断るわけないじゃないですか。
「あ、リュウさんも私と友達になりましょう? ルーシーさんも」
「わかったぞ!? お前もなかなかに変な奴だろ!?」
私が手を差し出すと、勢いよく後ろに飛びずさる。
リュウさんに警戒されました……なんでですか……。
「まぁまぁ、いいじゃないか。ぜひ私も友達に入れてくれ」
大笑いをかました後にルーシーさんは乗ってきてくれました。
友達っていいですよね……特に故郷では友達とかいませんでしたし……。
「ね? リュウさんも友達になりましょう?」
リュウさんの顔を覗き込むようにして、聞くと、顔を真っ赤にしていた。
これはあれですね、恥ずかしがり屋さんなんですね。
「……ああっもう! わかったよ! 俺はお前の友達だ! ほら、これでいいんだろ……」
そういってようやく手を握り返してくれました。リュウさんやタクさんの手は冒険者だからかとても大きく力強いです。ここまで違うものなんですね。
それにしてもやりました。これで友達が三人増えました。
「よかったですねソラさん。それにしても、ソラさん皆に馴染むの早いですね……」
そうなんですかね? 私からしたら、この村の皆さんの仲の良さに入れるのかかなり不安なんですけど。
でも、少しでも早く仲良くなれるならいいですね……私だけハブられるのは嫌ですから。
「そんなことないですよ、ところで、なんか忘れてません?」
「なにかありましたか?」
「私たちここに友達作りに来たわけじゃないですよ、というかまぁ、私そろそろお腹が減りすぎてやばいです」
「……すっかり忘れていました」
「そういうわけですので、ルーシーさん。なにか適当に作ってください!」
「「美味しいものお願いします!!!!」」
二人して小さくお腹を鳴らしながら、カウンターの中で苦笑しているルーシーさんに大きな声でお願いしていました。
最近ちょっと睡眠時間がまともにとれていないので、数日休んでから投稿になるかもしれないです。あと、ほぼ徹夜なので、粗探ししたらすぐ見つかると思います。すみません。